お金と向き合うことはなぜ大事なのか
お金との関係は、執着、忌避、嫉妬、恐れなどの感情を刺激する。だが、ヨガを練習する時と同じ意識でお金と向き合えば、あなたの経済生活は、深い自己洞察の機会と智恵を授けてくれる。あるヨガティーチャーの経験を元に、米・財務アドバイザーがその理由を説明してくれた。
お金のことを避けてきた、あるヨガティーチャーの自問
6年前、サディ・ナルディーニは、一週間に十数回以上のグループレッスンを教えるために、ニューヨーク中をかけずり回っていた。その多くは、寄付制のレッスンだった。生徒たちからプライベートレッスンの料金についてたずねられた時、ナルディーニは「125ドル」と答えたかったが、代わりに口から出てきた値段は「50ドル」だった。「バウンド・トライアングル・ポーズ(腕を後ろで組んだ三角のポーズ)のように、お金のことを避けていたんです」。
それから約1年後、彼女は悟った。「困難が生じることで、私たちは、本来の自分と再び向き合うための機会を得られるのです」。彼女はその原則を、自分のお金に関する不安にもあてはめるべきだと気づいた。ナルディーニは、お気に入りのカフェにこもり、お金にまつわる自分の「物語」を書き始めた。書き出すうちに、ヨガティーチャーを始めた頃は、自分には好きなことをしてお金をたくさんもらう価値はないと感じていたことも思い出した。「人が提示してくれる値段を頂くことができませんでした。実は、自己肯定感と闘っていたからです」とナルディーニは語る。
「でもその日、私はもう過去の物語には縛られないと自分に誓いました」。それ以来、ナルディーニは、お金について自分がどう思っているか、どれだけ労力を費やしているかについて、より注意深く観察するようにした。レッスンを行う時間と場所についても、より戦略的に計画した。プライベートレッスンにも、125ドルの値段をつけた。これらの変化によって浮上する不安はどうするか? ナルディーニは、呼吸を送るようにした。ちょうど、彼女がバッダ・トリコナーサナ(両手を組んだ三角のポーズ)で前の脚のうしろ側で腕同士をつかむ時のように。
それは功を奏した。プライベートレッスンに現実に見合った値段をつけたのに加えて、ナルディーニは本も執筆した。powhow.comを通じてオンラインでのヨガクラスも教えるようになり、さらにudemy.comでは自宅で行うティーチャー・トレーニングも始めた。そして、いまでも数多くの寄付制のクラスをオンラインで行う。「ナルディーニは、お金とより健康的で、よりバランスの取れた関係を築くために、極めて重要な一歩を踏み出したんです」と、ブレント・ケッセルは言う。ケッセルは、献身的なヨギで瞑想者であり、米国内でも有数の投資とファイナンシャルプランニングを行う会社の一つ、アバカス・ウェルス・パートナーズの共同創立者であり、さらに『It's Not About the Money』の著者でもある。
「非常に多くの人が、お金を世界の悪の根源だと責めて、お金との関係に向き合うことを避けています。それは、最も難しいと思うアーサナを避けることと同じです」とケッセルは言う。「でも、お金は、深遠で霊的な教師にもなり得るのです。そのためには、伝統的な精神修養を行う時と同様の意識や意思で、お金に関わればいいのです」
お金との関係を整理することは、自身の内面を整理すること
クレジットカードの明細や運用報告書のようなつまらないものが、どんな影響力をもたらすというのか? ひとつには、それらは私たちが繰り返しているパターンを教えてくれるとケッセルは語る。ちょうど敬愛するヨガティーチャーが、アドームカシュヴァーナーサナ(ダウンドッグ)で、あなたの上腕が外旋していないと、繰り返し指摘してくれるように、毎月200ドルの青汁ジュース代や、たくさん貯金があるのにお金を使いたがらない傾向と向き合うことで、自分のためにならない経済的な習慣に気づくことができるのだ。「人は自分が信じるままに振る舞えば、幸せになれるし、苦しみを避けられると思います。それは、無垢で崇高でもあります」とケッセルは言う。「ただし、自分がなぜそのように振る舞うのか、どんな痛みを避けたいのかと自問しなければ、違う結果は得られません」。
ヨギたちは、独特の視点から、お金の問題と自分の内面を探ることになる。「ヨガを練習しながら、私たちは、肉体的な不快感への耐性をどんどん高めていきます。それを感情面にも適用すればいいのです」とケッセルは説明する。つま先を立てたまま、正座のようにかかとの上に数分間すわる時のことを思い出してほしい。体は脳に働きかけて、もう耐えられない、とあなたに伝えてくるだろう。「お金についての古い物語やパターンが戻ってきたら、同じように、強い反応を持つようにすればいいのです」とケッセルは言う。
お金の問題を見過ごしたり、避けるべきでない現実的な理由がある、とクレア・キンセラ・ヘルツェは言う。彼女は、ヨガと瞑想の指導者になる前は、ウォール街でブローカーとして15年間働いていた。「お金との関係を整理することは、実は、最も深遠に自分の内面を整理する方法のひとつでもあるのです」と彼女は言う。関係を整えることで、瞑想しようとする時に浮かんでくる心の動き、あるいは心の声がしずまり、無意識に繰り返している古くて役に立たないマントラを終わらせることもできる。「私の知る限り、お金のことを心配している人は、誰もサマーディ(至高なる存在と一体になる状態)に達していません」。
もちろん、お金に関する自分のパターンを見極めて、それを変えていくのは容易ではない。ケッセルの「8つのマネー・タイプ」などを通して、自分がどのタイプかがわかれば、お金に関する自分の傾向や習性を知り問題点を見極め、バランスを良くする方法の発見につながる。自分のパターンがわかったら、お金との関係を把握し、変えていくための瞑想やアーサナの練習を始めることができるのだ。
監修:ブレント・ケッセル
アメリカで活躍する財務アドバイザーで、献身的なヨギ、瞑想者。米国内でも有数の投資とファイナンシャルプランニングを行う会社の一つ、アバカス・ウェルス・パートナーズの共同創立者。『It's Not About the Money』の著者。
ライター:ミーガン・ラビット
『ヨガジャーナル』のシニア・エディターを務めている。
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