決まった大きさの力を出す難しさ|理学療法士がヨギに知ってほしい体のこと
理学療法士として活躍する得原藍さんが、ヨギに知ってほしい「体にまつわる知識」を伝える連載。第十一回目となる今回は「決まった大きさの力を出す難しさ」。
感覚器官で得た情報をもとに、私たちは世界を知り、その世界で「立つ」「歩く」ための力を発揮しています。ヨガでは、左右対称ではないポーズを取る場合、左右両方を交互に行いますね。右の手足を主に使う場合と、左の手足を主に使う場合と、出力はどのように変わるでしょうか。
簡単な実験をして試してみましょう。
料理用の秤を用意しましょう。右手を乗せて、軽く押し、目盛りが2キロを示すように力をかけましょう。まず気づくのは、一定の力を出し続けることの難しさです。数グラムから数十グラムの筋の出力の揺らぎを目にすることができます。
しばらくして力の発揮に慣れてくると、揺らぎは少し小さくなります。2キロの位置で誤差を小さく維持できるようになったら、今度はその力のかけ方に集中して、力の感覚を記憶しましょう。時間をかけて構いません。何度手を載せ直しても「だいたい2キロ」がわかってくるようになります。
右手で2キロの感覚を憶えたら、目を閉じて左手を載せてみましょう。そして、目を閉じたまま、先ほどの右手の2キロを思い出して左手で再現してみましょう。ここだ!という力加減を見つけたら、目を開きましょう。さて、何キロを示しているでしょうか。
この実験で、左右の力加減を正確に再現できる人はほとんどいません。なぜなら、基本的に人間は左右どちらかを利き手にして生活をし、利き手の感覚と出力が非利き手よりも優れているのが普通だからです。普段から繊細な動作をする手では、より繊細に、普段から大きな力を出す手では、より大きな力のコントロールが可能になります。そう脳が学習してきたのです。
左右の力だけではありません。
全身のどこでどの程度の力を出すか、という能力は、経験に依存しています。左右の足でも差がありますし、細かい関節の角度をコントロールする際も普段から使っていない部分のコントロールは難しいのです。初めて非利き手で箸を持つときにはぎこちなく肩周りや体幹まで不自然な動きになるでしょう。
動作一つ一つが、個々人の生活習慣やこれまでの人生での運動経験など、様々な要素が複雑に絡まった筋の出力の結果です。ヨガのように大きな関節運動を伴う動作では特に、最初は左右対称が難しくて当然です。右の動き、左の動き、それぞれでどの関節がどのように動くかを比較することが、動作の癖を見抜くポイントにもなってきます。
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