「筋トレは脳トレ!」筋トレすると分泌される物質がアルツハイマーに関わる脳領域を守ることが判明


「年齢を重ねたら無理は禁物」「筋トレは若者のもの」──そんな思い込みを覆す研究が、今、世界の注目を集めている。筋トレが高齢者の記憶力を改善し、アルツハイマー病に関わる脳の領域を保護する可能性があるというのだ。
記憶や空間認知を司る脳の領域に良い変化が!
今回の研究を行ったのは、ブラジルのカンピナス州立大学の神経科学チームで、対象となったのは、軽度認知障害(MCI)と診断された65歳以上の男女44人。MCIは、加齢による物忘れと認知症の中間に位置づけられる状態で、将来的にアルツハイマー病に進行するリスクが高いとされている。参加者はランダムに2グループに分けられ、一方は週2回、6か月間の筋力トレーニングを実施した。行ったのは中〜高強度のトレーニングで、重量や回数を段階的に増やしていく方式である。すると、トレーニングを行ったグループでは記憶力の改善に加えて、脳内の構造的な変化も明らかになった。MRI検査の結果、記憶や空間認知を司る「海馬」や「楔前部(せつぜんぶ)」といった領域の萎縮が抑えられていた。これは、アルツハイマーの初期段階で最もダメージを受けやすい部分である。そこが保たれていたというのは、大きな発見だった。

神経伝達ネットワークが強化される
さらに興味深いのは、「白質」と呼ばれる神経伝達のネットワークが強化されたという点だ。白質は、脳の情報伝達を担う重要な領域で、加齢や疾患により劣化すると、情報のやりとりがスムーズに行えなくなり、認知機能の低下を招く原因になる。筋トレを行わなかったグループでは、この白質のネットワークに悪化傾向が見られたのに対し、トレーニンググループでは改善が確認された。研究者によれば、「思った以上に脳の広い領域に良い影響が出た」という。トレーニング終了後、一部の参加者は軽度認知障害の診断から外れるほど認知機能が回復していた。これは、「一度衰え始めた脳も、鍛えることで回復の道がある」と示す非常にポジティブなサインである。

筋トレで分泌される物質は“神経細胞の成長や再生”を促す
では、なぜ筋トレがこれほどまでに脳に良い影響を与えるのだろうか?そのカギは、「筋肉を動かすことで分泌される物質」にある。筋トレによって、「BDNF(脳由来神経栄養因子)」や「イリシン」と呼ばれるホルモンが分泌されることが分かっている。これらは神経細胞の成長や再生を促進し、シナプスのつながりを強化する働きがある。また、筋トレは全身の慢性炎症を抑える作用もあり、これが脳細胞の保護につながっている可能性もあるといわれている。注目すべきは、この研究で行われた筋トレが「高価な機器を使った特別なプログラム」ではなく、週に2回、徐々に負荷を増やすシンプルなものであったという点だ。自宅でも椅子スクワットや水の入ったペットボトルを使った腕のトレーニングなど、ちょっとした工夫で手軽に始められる。

脳血管疾患の予防セルフケアとしての筋トレ
アルツハイマー病の新薬として注目される抗アミロイド薬は、(アメリカでは)年間コストが3万ドル(約450万円)と高額で誰でも手軽に使えるものではない。一方、筋トレは低コストで始めることができ、身体全体の健康にもメリットがあり、脳血管疾患の予防セルフケアとして大きな可能性を秘めている。今回の研究を主導したマルシオ・バルサザール医師は「筋トレは身体だけでなく、脳にもダイレクトに働きかけることが明らかになった。今すぐ始める価値がある」と語っている。
“脳の老化”をただ受け入れるのではなく、自分の努力で未来を守る。そのための一歩として、筋トレほど手軽で心強い習慣はない。年齢を重ねてからでも遅くはない。もし「最近、物忘れが増えたかも」と感じたら、それは筋トレを始めるサインかもしれない。未来の自分のために、今日から動き出してみては?
出典:
BRAIN BOOST The twice-weekly exercise shown to ‘help protect older people from dementia’
Weight training shields the aging brain from dementia
Weight training shields the brain from dementia in older adults
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