【認知症患者が急激に増加…なぜ?】認知症専門医に聞く「認知症の早期発見のため今からできること」

 【認知症患者が急激に増加…なぜ?】認知症専門医に聞く「認知症の早期発見のため今からできること」
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加速的に進む高齢化に伴い、近年は認知症の患者数が急激に増加。高齢者の4人に1人が認知症だと言われる時代です。総合東京病院の認知症疾患研究センター長・羽生春夫先生は、「認知症の7割にのぼるアルツハイマー型認知症は、40~50代から始まる」と語ります。アルツハイマー型認知症のメカニズムや予防のために今できることなどを、羽生先生にお話をお聞きしました。

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アミロイドβというたんぱく質のゴミが認知症の引き金に

――まず、認知症について、今分かっている原因やメカニズムを教えてください。

羽生先生:認知症とは、さまざまな原因疾患によって引き起こされる病気の総称です。原因やメカニズムは疾患によって異なりますが、なかでもアルツハイマー型認知症(AD)については、最も研究が進んでいます。

アルツハイマー型認知症は、初めにアミロイドβというたんぱく質のゴミが神経細胞外(特にシナプス間隙)にたまり、神経細胞間の伝達に障害を起こします。それが引き金となって神経細胞内にあるタウ蛋白、これは、神経細胞骨格といわれ神経細胞の生存維持に必要とされているものですが、そのタウ蛋白がリン酸化され、神経細胞が機能を停止し、死滅。壊れていきます。

このような変化は初めに海馬といわれる記憶をつかさどる部分に生じるため、もの忘れをするようになりますが、その後、広範囲の大脳皮質に広がっていくために、全般的な認知機能の低下がみられるようになります。

アミロイドβがピストルの引き金とすれば、リン酸化タウは弾丸、実行犯ということになりますね。アミロイドβの沈着から認知症が始まるまでには、20~25年くらいかかるとも言われています。

――アミロイドβの沈着から認知症の発症まで20~25年、ということは、40~50代からアルツハイマー型認知症が始まっていることになりますね。

羽生先生:近年では、前臨床期と呼ばれるアミロイドβの蓄積が始まっても認知症の症状がまだでていない時期に、アミロイドβの蓄積を調べる検査などの研究が行われています。具体的には、脳内のアミロイドβの蓄積をチェックするアミノロイドP ET 検査または脳脊髄液検査と言われる検査ですね。そこで、蓄積が確認されれば前臨床期アルツハイマーだと言えます。

――前臨床期アルツハイマーだということが早期に分かり治療を開始すれば、認知機能が生活機能の低下を遅らせることができるのでしょうか。

羽生先生:前臨床期にアミロイドβを除去するような治療が開始され、完全にアミロイドβの除去に成功できれば、理論的にはその後のリン酸化タウからの神経細胞死を抑えることができるので、認知症への進展を防止できます。ですが、残念ながら実験や一部の臨床試験では100%抑えることはできていません。それでもある程度、発症を抑えることは可能になるのではないかと推測されています。

認知症
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もの忘れなど症状の進行に気付いたら受診を

――認知症の始まりに気付くためには、何を意識すべきでしょうか。病院で相談する目安はありますか。

羽生先生:記憶の障害から発症することが多いので、もの忘れ、特に直近の記憶の低下を感じたとき。しまい忘れ、置き忘れ、さっき言われたことを忘れてしまう、といった症状が徐々に進行してきた場合は受診の必要があるでしょう。年齢のせいだとは思わずに、早期に受診いただくことをおすすめします。

――認知症の検査はどういった内容なのか、教えてください。

羽生先生:自覚症状があって受診される方が多いので、まずは問診や診察を行い、その後、一部の内科疾患でも認知機能低下が生じることがあるため全身の検査を実施します。補助検査として、神経心理検査(認知機能検査)、脳画像検査(多くはMRI やSPECT 検査など)。ときに脳脊髄液検査を追加し、アルツハイマー型認知症の早期診断(MCIを含む)と診断していきます。

MRI
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生活習慣病の改善やバランスのよい食事、睡眠が重要に

――認知症と生活習慣病には密接な関係があるともお聞きしました。その理由を教えてください。

羽生先生:高血圧や糖尿病は脳血管性病変(脳梗塞など)を促進するほか、アミロイドβの産生を促進したり、分解を抑制したりします。さらに、タウのリン酸化を促進するといったようにアルツハイマー型認知症の病理を促進することが確認されています。そのため、血管性認知症やアルツハイマー型認知症の発症を増加させてしまうんですね。生活習慣病をコントロール、治療できればアルツハイマー型認知症を含む認知症の発症予防や進行抑制につながると考えられています。

――認知症の早期発見・治療、また予防のために高齢になる前、30~50代のときにできることはありますか。

羽生先生:アルツハイマー型認知症の多くは多因子要因からなり、さまざまな要因(危険因子)が発症に関与していると言われています。生活習慣病では、特に中年期の高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満。そのほか、喫煙や多量のアルコール摂取、頭部外傷、若年期の教育歴の低下などが危険因子とされています。

その一方で、予防につながるとされているのは運動習慣や余暇活動。バランスの取れた食事も重要です。野菜とオリーブオイルを中心にしたシンプルな地中海式食事がよいとされていますが、日本食も同様によいと言われています。また、アミロイドβは夜間の睡眠中に

分解されやすいために十分な睡眠時間を取ることも予防につながるとされています。

地中海式食事
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教えてくれたのは…羽生春夫 先生

総合東京病院 認知症疾患研究センター長。1981年東京医科大学卒業。元東京医科大学名誉教授(元病院副院長)。地域との連携においては、東京医科大学病院地域連携型認知症疾患医療センター長として、地域における認知症診療の医療支援体制の構築に尽力。2020年4月 総合東京病院認知症疾患研究センター長に就任。

総合東京病院 認知症疾患研究センター(もの忘れ外来) 
https://www.tokyo-hospital.com/center/forget/

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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