「認知症の人はどんな世界を見ているの?」認知症への理解が深まる、臨床心理士のおすすめ書籍3選
「認知症」という言葉はよく耳にしても、実際の認知症の症状については、あまりイメージできていない人も多いのではないでしょうか。今回は「認知症の人はどんな世界を見ているの?」「認知症の人への適切な対応は?」など、認知症の世界に触れられる書籍を3冊ご紹介します。
認知症の世界とは
私たちは、常に自分を取り囲む世界から情報を捉え、処理しながら生活しています。
例えば、「足元に石がある」という情報は、「転ばないように避けよう」という判断に使われたり「迷わないための目印にしよう」と記憶されたりします。
このように情報を処理する力を「認知機能」といいます。
ところが、認知症になると認知機能が低下し、情報の処理がうまくいかなくなります。そもそも「足元に石がある」という情報をキャッチできなかったり、キャッチできても情報を何に使えばいいかわからなかったり、情報を記憶できずに忘れてしまったりします。その結果、認知症の方は、私たちとは異なる世界を見ていることがあるのです。
これからご紹介する3冊は、そんな認知症の世界を当事者の目線から描き出しています。
認知症を知るためのおすすめ書籍3選
『ペコロスの母に会いに行く』
最初にご紹介するのは、岡野雄一さんの漫画作品『ペコロスの母に会いに行く』です。
認知症になった母、みつえさんを主人公に据えて、雄一さんをはじめとする周囲の人々とのやり取りが、かわいらしいイラストでユーモアたっぷりに描き出されています。
また、みつえさんが見ている主観的な世界の描き方も魅力的。時間や場所の感覚がなくなり、80歳の「今」だけでなく、「過去」の一瞬一瞬に心が戻っていく姿も丁寧に描写されています。
2013年には実写映画化もされているため、映像作品が好きな方にもおすすめです。
『皺』
次にご紹介するのは、スペインの漫画家パコ・ロカさんによる作品『皺』です。
銀行で支店長まで勤め上げたエミリオは、アルツハイマー型認知症になり、家族のすすめで老人ホームに入居することに。
入居時は軽かった症状は少しずつ進行し、
・自分でなくしたものを盗まれたと思い込み、他者を疑う
・クリスマスを忘れていたのを指摘されると「銀行じゃこんなくだらないことを祝わない」と怒る
・服装が乱れていても「いつだってこうやって着ていた!」と言い張る
・スプーンをナイフと間違えて「切れない!」と文句を言う
など、周囲とのトラブルになりそうな言動も増えていきます。
そんなエミリオを支えたのが、老人ホームで同室となったミゲルです。ミゲルはほかの高齢者を騙してお金を奪ったり、バカにしたりする嫌なヤツ。しかし、エミリオとの友情が深まるにつれて、エミリオの認知症の進行を食い止めようとしたり、進行していることが介護スタッフにバレないようにしたりと頑張ります。はたして、その結末は――。
先ほどご紹介した『ペコロスの母に会いに行く』ではあまり描かれなかった「老いの悲しみ」に焦点を当てつつ、夫婦・家族・友人など様々な愛の形も描いた作品になっています。
『「脳コワさん」支援ガイド』
最後にご紹介するのは、鈴木大介さんによる『「脳コワさん」支援ガイド』です。
この本は、認知症など脳に「トラブル」を抱えた人たちが体験する世界を私たちに案内してくれます。
・突然パニックになるのはなぜ?
・なんでずっと嫌な気持ちを引きずるの?
・「上手にできている」って褒めたのになんで怒るんだろう?
など、当事者でないとわからない疑問が、鈴木さんの実体験や例え話、イラストによって分かりやすく解説されています。
また、「支援ガイド」と銘打たれているとおり、当事者の目線から家族や援助職に期待するサポートや環境調整など、具体的な支援方法も示されており、すぐに取り入れられます。
さいごに
認知症の世界を完全に理解することはできませんし、認知症の対応は知識やテクニックで100%改善するものでもありません。
しかし、ほんのわずかでも同じ世界を垣間見ることができれば、「どうしたらいいかわからない」という恐怖や不安は和らぐ可能性があります。
ぜひ気になる本から読んでみてくださいね。
参考資料
岡野雄一(2012)ペコロスの母に会いに行く 西日本新聞社
パコ・ロカ[著] 小野耕世・高木奈々[訳](2011) 皺 小学館集英社プロダクション
鈴木大介(2020)「脳コワさん」支援ガイド 医学書院
AUTHOR
佐藤セイ
公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。
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