支援が「偽善」にならないために重要な視点は？巨大スラム街で心の専門家が考えた「本当の支援」とは

タイは経済的格差が大きい国で、王室関係者や大富豪がいる一方で、バンコクのスラム街で暮らす人たちは200万人と言われています。これはバンコクの人口と比較し、5人に1人がスラム街で暮らしていることになります。今回は、スラム街で活動しているNPO法人のSikkha Asia Foundationにスラム街を案内していただきました。スラム街について心の専門家が感じたことを紹介します。

「与える支援」ではなく「生み出す支援」

スラム街での支援と聞くと、多くの人が「食料や衣類を届ける」といった物資の提供を思い浮かべるかもしれません。しかし、それだけでは根本的な解決にはならず、むしろ依存を生む可能性があります。Sikkha Asia Foundationは、スラム街の子供達に図書館という居場所を提供したり、移動図書館、奨学金制度などをやっているほか、スラム街の女性たちの経済的自立の支援を目的とした職業訓練の場を提供しています。職を提供し、技術を教えることは、生きる力、自立する力をつけてもらうこと。金銭や物の支援も大切なことですが、人間の尊厳や自己効力感（自分にはできるという感覚）を高める支援こそが、持続的な変化を生むのではないでしょうか。そのためには、物ではなく「職」を支援することが重要です。困難な環境の中でも家族を養い、少しでもよりよい生活をしようとする向上心を生かし、仕事を生み出す支援をすることで、彼ら自身の手で未来を切り開くことができるのではないかと思います。スラムの人々が仕事を得られる仕組みをつくることで、安定した収入と社会的なつながりを生み出せます。仕事を持つことで、「自分には価値がある」「社会の一員として役立っている」という実感を持てるようになると感じました。

スラムの人々が持つ「生きる力」

筆者はバンコクだけではなく、他国のスラム街を訪問した経験があります。そのたびに感じることですが、どのような環境でもキラキラと輝く笑顔で生き生きと生活している人たちがいます。衛生面や教育、職業選択の自由などさまざまな課題がある一方で、過酷な環境の中でも笑い、支え合い、家族やコミュニティを大切にしながら生きている人たちがいます。このたくましさや生きる力は、決して「かわいそうな存在」ではなく、むしろ見習うべき強さだと感じることがあります。何が良いとか悪いとか比較はできません。しかし、彼らの笑顔はとても美しく、とても印象に残っています。

支援が「偽善」にならないために

支援において「支援者の自己満足になっていないか？」という視点はとても重要です。これは、スラム街に対する支援だけではなく、私たち心理職や看護職、福祉職など対人援助職についている人に共通したテーマだと言えるでしょう。支援が本当に相手のためになっているのか、「支援する側の満足」ではなく「支援を受ける人が本当に必要としていること」に目を向け続けることを忘れてはいけません。そのために、相手の声を聞きながら進めることが重要です。彼らが本当に求めているものは何か？どのような方向に進むことを望んでいるのか？支援の形を押し付けるのではなく、必要な情報を共有しながら、共に考え、共に行動する姿勢が必要だと感じます。

「共に生きる」ために

クロントイ・スラムは、以前はタイ北部の田舎出身者が多かったが、現在はミャンマーやカンボジアからの移民が増えているとのこと。移民者への支援は課題が多いことが伺えます。そして、今回訪れたクロントイ・スラムは再開発エリアになっており、商業型リゾートが建設される予定。いずれ立ち退きを要求される。ここで暮らす人たちの暮らしはどうなるのでしょうか。私たちに出来ることは少ないかもしれませんが、バンコクを訪れた際にツアーに参加し彼らの生活を肌で感じたり、スラム街で暮らす女性たちが作った商品を買ってみたり、少しでもつながることは出来るかと思います。本当の意味での支援とは、彼らが「支援を受けなくても生きていける状態をつくること」。そのために出来ることを個人でも考えていく必要があると感じました。