「周囲に迷惑をかけないよう、いつも気を遣っている」過剰適応の落とし穴とは?臨床心理士が解説

 「周囲に迷惑をかけないよう、いつも気を遣っている」過剰適応の落とし穴とは?臨床心理士が解説
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佐藤セイ
佐藤セイ
2024-10-14

過剰適応とは、「自分の心や身体を犠牲にしてでも、周囲からの期待や要求に応えようと頑張りすぎることで起きる問題」を指します。あなたも「周囲の期待には応えなければいけない」「他者には絶対迷惑はかけられない」など、周囲が求める完璧な人材としてふるまおうとしていませんか?過剰適応を続けると、心身ともに疲れ果ててしまうかもしれません。今回は過剰適応の原因や問題点、対処法について解説します。

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過剰適応とは?

過剰適応とは、自分の心身を犠牲にしてでも周囲の期待や要求に応えることで起きる問題を指します。ここでは、過剰適応が起きる原因とその問題点を見ていきましょう。

過剰適応の原因

本人の能力・過去の体験・現在の環境の3つにおいて、多く条件が揃うと過剰適応が生じやすくなります。

■無理すれば期待・要求に応えられる能力

自分の能力が周囲の期待や要求にまったく届かないものであれば過剰適応は起こりません。しかし、「無理すれば何とかやれそう」「頑張ればギリギリ届く」という状態だと、限界を超えてでも期待や要求に応じようとしてしまいます。

■ひとりぼっちの体験

過去に家族や友達などから疎外され、ひとりぼっちにされた体験があると、今度はみんなから受け入れてもらえるように「他者の役に立つ人間でいなくてはいけない」「他者に迷惑はかけられない」と考えやすくなります。

■もっと頑張るように言われる環境

自分なりに頑張っていても「もっと頑張れ」とさらなるパフォーマンスを求められる環境だと、「無理をしてでも要求に応えなければいけない」と感じてしまいます。

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イラスト/Adobe Stock

過剰適応の問題点

過剰適応は周囲の期待に応える分、他者からの評価は得やすくなります。しかし、続けていると、心と行動にネガティブな影響を与えます。

■心の影響

・ストレスを溜め込みやすい

・自分らしさを見失いやすい

・幸福感にマイナスの影響を与えやすい

■行動の影響

・友人関係に消極的になりやすい

・周囲に助けを求められない

・周囲の評価に振り回される

これらのネガティブな影響を受け続けると、ストレスに対応しきれなくなった結果生じる「適応障害」や「うつ病」、もしくはストレスをなんとか発散しようとして発症する「依存症」などの精神疾患になってしまう可能性があります。

過剰適応チェックリスト

過剰適応に陥っていないかチェックしてみましょう。当てはまるものが多いほど、過剰適応の傾向が強いといえます。

□人からどう思われているか心配だ

□自分の行動が、周囲の反対にあわないか気になる

□周りの機嫌を損ねないように、顔色をうかがう

□他人の目を気にして、のびのびできない

□周りから一目置かれたい

□人より高い評価を得ないと気が済まない

□相手から褒めてもらえることをまず考えてしまう

□他の人の仕事を増やすのは申し訳ないので、何でも自分でする

□相手の迷惑になりそうで、頼みごとができない

□暇そうな人がいても、遠慮して手伝ってほしいとは言えない

□何でも自分でしないと気が済まない

□人に何かを頼むと、自分の能力のなさがばれてしまう

□人に甘えたら、弱い人間だと思われる

□見下されないように背伸びをしている

□人に気に入られることが何よりも大事だ

(岩永・大山ら(2023)成人用過剰適応傾向尺度より引用)

過剰適応の対処法

ここからは過剰適応への対処法をお話しします。

生活リズムを整える

過剰適応になると、つい何もかも他者のペースで行動してしまいます。まずは自分の生活リズムを取り戻しましょう。

■睡眠・休息

過剰適応による疲労をしっかり回復させます。他者の都合に左右されず、自分の睡眠や休息を確保しましょう。

■食事・運動

他者を優先すると、自分のための食事や運動も後回しになりがち。食事や運動は心と身体の健康を支える大切なものですから、意識して生活に取り入れましょう。

タスクの整理

すべての人の期待・要求に応えようと思うと、どれだけ時間があっても足りません。タスクに優先順位をつけましょう。

(1)今抱えているタスク付箋に書き出す

(2)次の4つの中で当てはまる場所に付箋を貼る

 【1】緊急度が高い×重要度が高い

 【2】緊急度が高い×重要度が低い

 【3】緊急度が低い×重要度が高い

 【4】緊急度が低い×重要度が低い

(3)4つに分類したら、まず【1】のタスクをこなす。次に【2】、【3】に取り組む。

【4】は基本的にはやらなくても良いタスクなので、できるだけ後回しにしたり、手の空いている人や得意な人に任せたりすると良いでしょう。

別の考え方を見つける

私たちは【考え】によって【感情】や【行動】が変わります。例えば、上司から資料作成を頼まれたAさんを見てみましょう。

■Aさん

【できごと】上司から資料作成を頼まれた

【考え】「100%の出来の資料を持っていかないといけない」「周りの人には頼めない。自分で頑張らなくちゃ」

【感情】不安、焦り、恐怖

【行動】睡眠を削ってでも、資料作成をする

一方、Bさんはどうでしょうか?

■Bさん

【できごと】上司から書類作成を頼まれた

【考え】「とりあえず7割か8割作成して、一度見てもらおう」「時間があまりないから〇〇さんにも少し手伝ってもらおうか」

【感情】穏やか、意欲的

【行動】ざっくり仕上げる。〇〇さんにデータ整理を手伝ってもらう

AさんとBさんを比較すると同じできごとに対して、Bさんの方が苦痛や負担をあまり感じず、乗り切れているのがわかります。

もし、過剰適応的な思考が、自分を苦しめているなら、別の考え方ができないか検討してみましょう。

参考・引用文献

林寧哲(2023)発達障害の人が”普通”でいることに疲れたとき読む本”過剰適応”からラクになるヒント 大和出版

任玉洁(2019)過剰適応に関する文献的研究と今後の課題 大学院研究年報 文学研究科篇 48 pp64-73.

岩永誠・大山真貴子(2023)過剰適応状態尺度作成の試み 日本健康医学会雑誌 32(3)pp351-359

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佐藤セイ

佐藤セイ

公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。



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