心理士が教える、心の疲れも体の疲れも取れる正しい休み方|よく耳にする【積極的休養】とは何か
「休み方」と聞いて、どんな行動をイメージしますか?「ベッドに横になる」「ソファでゴロゴロする」など、できるだけ動かない方法をイメージする方が多いのではないでしょうか。このように体を動かさず、じっと休む方法を「消極的休養」と呼びます。しかし、今回ご紹介するのは、身体を動かす休み方「積極的休養」について。積極的休養の定義や効果を解説します。
そもそも「疲れ」とは何なのか?
「疲れ」とは、心や身体のエネルギーが切れかかっているため、休息をとるように知らせるアラートのこと。疲れが警告してくれるから、私たちは「そろそろ休まなきゃ」と気づき、休息をとってエネルギーを回復します。
「疲れない体が欲しいなぁ」と思うかもしれませんが、疲れがないと、休息するタイミングを見失って活動し続けた末に、倒れてしまったり、あるいは過労死してしまったりします。
「疲れた」と思ったら、無視したり、エナジードリンクやコーヒーなどでごまかしたりせず、しっかり休むことが大事です。
心と体の疲れが取れる正しい休み方【積極的休養】とは?
心と体の疲れを取るのに適した「積極的休養」についてご紹介します。
積極的休養とは?
積極的休養(アクティブレスト)とは、あえて体を動かして老廃物の除去や新陳代謝の向上を促進し、疲労を回復させる方法です。例えば、体育の授業でスポーツをしたあとにストレッチをすることがあります。あれがまさに積極的休養です。
スポーツアスリートの間ではごく当たり前のものとして取り入れられてきた積極的休養ですが、一般の人にも効果があることがわかっています。
積極的休養の効果
■疲れの回復
2012年に発表された論文(※1)によれば、積極的休養をとると、シャキッと覚醒した感覚が得やすく、主観的な疲労感が軽減することがわかっています。
また、別の研究(※2)では、主観的な疲労感だけでなく、実際に身体の疲労が回復する結果も報告されています。
■ポジティブ感情の高まり
積極的休養は、ネガティブ感情を和らげ、ポジティブ感情を高めるのにも役立ちます。
2006年の調査(※3)では、シーカヤックツアーによる積極的休養を取り入れた結果、ツアー前よりもツアー後の方が緊張や抑うつなどのネガティブな感情が低減し、その代わりに活気が高まったことが示されました。
このように、積極的休養は、身体の疲れやネガティブな感情を低減し、前向きな気持ちを沸き立たせてくれるのです。
積極的休養を生活に取り入れよう!
休養は、確保できる時間ごとに、
・休憩:秒、分単位の休み
・私的時間:時間単位の休み
・週休:日単位の休み
・休暇:週、月単位の休み
の4つに分かれます。(※4)
それぞれに取り入れられる積極的休養をご紹介します。
休憩での積極的休養
短い休憩時間に積極的休養のための活動を新たに詰め込むのは困難です。
ですから、日常的に行っている動作を積極的休養に適した形に変えてみましょう。
例えば、
・切りのいいタイミングで軽くストレッチをする(背伸び、屈伸、腰ねじりなど)
・背筋を伸ばして大股で、飲み物を買いに行く
・歯磨きにいつもより時間をかける
などです。
私的時間での積極的休養
ある程度自由な時間がとれる私的時間は、ヨガやウォーキングなどの軽い運動に取り組んでみるのがおすすめ。
また、掃除・洗濯・料理など家事に集中するのも良いでしょう。腕や肩回りを伸ばしてみたり、背筋をまっすぐにしたり、普段よりも動作を大げさにするような意識を持つと積極的休養としての効果が高まります。
運動や家事は「やり遂げた!」という達成感があるのも良いですね。
週休や休暇での積極的休養
まとまった時間がとれる週休や休暇では、普段はできない「旅行」や「ボランティア」などに取り組むのがおすすめ。
身体を動かすことで新陳代謝が促進されますし、新しい人や環境との出会いが脳や心への良い刺激となります。
おわりに
ここまで積極的休養のメリットについてご紹介しましたが、動かない休息「消極的休養(パッシブレスト)」も大事。
特に「何もしたくない」と意欲も気力も失っている場合、無理に積極的休養をとろうとすると、かえって疲れてしまうかもしれせん。
そんなときは、心の声に従って、だらだら過ごしてみてください。そのうち「何かしようかな」「退屈だな」と思えてきます。そのときに積極的休養に切り替えればOK。上手に使い分けていきましょう。
引用文献
※1 本多麻子(2012)積極的休養によるパフォーマンス向上と疲労回復効果 日本心理学会第76回大会発表論文集
※2 中塚健太郎・坂入洋右(2010)軽運動が監視作業時の覚醒水準と疲労の回復に及ぼす効果 スポーツ心理学研究 37(2) pp.75-87.
※3 西村千尋(2006)九十九島におけるシーカヤックツアーが参加者の心理状態に及ぼす影響について 長崎県立大学論集 40(1)pp81-90.
AUTHOR
佐藤セイ
公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く