心理師がセルフケアとしてカウンセリングを受けてみた|その先に見えてきたものとは?
心の専門家である公認心理師・臨床心理士の筆者が、日常生活の中で実際に行ってみた、心の健康に役立つセルフケアを紹介。今回は、『心理師がカウンセリングを受けてみた』というテーマ。筆者は心理師ではありますが、以前、カウンセリングを約2年半に渡って受けていました。心理師がカウンセリングを受け続けてきたことによって、見えてきたものとは?
心理師のセルフケア『カウンセリングを受けてみた』
私がカウンセリングを受けていたのは、2019年から2021年の約2年半のこと。正確にいうと、私たちのような専門職がカウンセリングを受ける場合は、カウンセリングという名前ではなく、教育分析と呼ばれます。教育分析とは、公認心理師や臨床心理士などのカウンセラーの仕事をしている人が、訓練の一環として自分自身のことを振りかえり、よりよい支援を行うために行う、心理師としてのトレーニングのことです。私が教育分析を受け始めたのは、心理師になって7年目に入った時でした。心理師としての仕事にも慣れ、新米の頃に比べればできることも増えてはいましたし、研修などにも積極的に参加して、日頃から学びを深めるようにしていました。ところが、『何か足りないような気がする・・・』心理師として日々働く中で、漠然とそんなふうに感じていました。その漠然とした物足りなさの正体は何なのか。自分なりに整理して考えてみると、自分自身のことを振り返るという経験が不足しているのではないか?という答えにたどり着きました。お恥ずかしながら、周りの方にはカウンセリングの良さを伝えたり、受けることを勧めているのに、肝心の自分がカウンセリングを受ける側になったことがありませんでした。私はヨガ講師でもありますが、ヨガの世界では、ヨガを指導する以前に、自分が練習生であること、自分の練習を大切にすることをしっかり教育されます。これってカウンセリングの世界でも同じなのではないか、カウンセリングをする以前に、自らもカウンセリングを受け、自分の内側と向き合う体験が必要なのではないか。そう考えるようになりました。また、当時の私はちょうど30代に突入した頃で、キャリア的には組織に所属する形からフリーランスとして活動し始め、プライベートではパートナーと結婚したばかりと、公私共に転換期の頃でした。いろんなことが変化していき、心身にも少なからず影響が出てくるだろうなぁと思っていたタイミングでしたし、思い切ってカウンセリングを受けてみよう!そう決心したのです。
カウンセリングを受けてみて変わったこと
最初は月2回の頻度で、途中から月1回の頻度で約2年半カウンセリングを受けてきた中で、私の中にどんなことが見えてきたのか、いくつかご紹介したいと思います。
ストレスを溜めてしまう原因が見えてきた
私の場合ですが、カウンセリングを進める中で、ある感情に対して苦手意識があり、その感情が自分の中に芽生える、あるいは相手から向けられた時に、うまく処理できずにストレスになってしまうという傾向があることがわかってきました。今まで、もやもやしているんだけど、どう表現していいのかわからないこの感覚が言語化されただけでも、気持ちがかなり楽になりましたし、同じような場面になった時に、『あ、今、私この気持ちになっているな』と気づき、その感情に支配されことなく処理できる機会が増えていきました。
受容してもらうことでの安心感
カウンセリングをする側の基本は、相手に対して共感的理解や受容すること。頭の中ではわかっているつもりですが、実際にしてもらうと、自分でも驚くほど心がホッとして、緊張の糸が解けていくのを感じました。また、自分の発する考えや言葉に対して、良い悪いや、世間的にはどうかといったジャッジがされないことって、日常生活の中では意外と体験できないものなんだなぁということも感じました。
自分の考えが整理される
一人で頭の中で考えている時は、ネガティブな感情やクセになっている思考の存在によって難しくても、心理師から質問を投げかけられることによって、『そういう考え方もあるのか』とか『難しく考えすぎていたのかもしれないな』と言った気づきが得られることも度々ありました。そして、ネガティブな感情や思考のクセに気づき、これまでとは違う行動をとることができたり、新たな行動ができなかったとしても、必要以上に自分を責めるといった機会が徐々に減っていくのを肌で感じていました。
自分の課題に寄り添って生きていくという選択肢ができた
心理師であっても人間なので、ひとつやふたつくらいは、自分なりの課題ってあるものです。私も例外ではありません。自分の中に課題を見つけると、なかったことにしたいという考えが浮かんだり、あるいはしっかり向き合ってそれを取り除かなければいけないと言った感覚になるものではないでしょうか。でも、そうやって考えれば考えるほど、苦しみや恐怖の感情が強くなってしまいますよね。確かに、過去との思い出や自分の課題と対峙するとしんどさもありますが、担当の先生と話していくうちに、今は安心安全を感じていい場所にいることや、これまでの行動とは違う行動をとって良いのだという感覚を持つことができました。それによって、『自分の課題とはこれからも適切な距離感で寄り添って過ごして行こう』という思考に書き換えられていったのでした。
カウンセリングを断念した苦い思い出・・・
私の周りでも、カウンセリングを受けたことがある人って、声にしていないだけで実は意外と多くいるんですよね。ところが、『受け止めてもらえなかった』とか『具体的な案が見えなかった』など、様々な理由から、受け続けることを断念してしまったという声もちらほら聞きます。実は私にも、過去にカウンセリングを断念したという経験があります。私が最初にカウンセリングを受けようと思ったのは、心理師になって1〜2年目くらいの頃です。その頃は、経験が浅かったこともあり、心理師としての自分に自信が持てなかったですし、クライエントさんにとってより良い支援を行っていくためにも頑張って受けようという、ちょっと鼻息荒い感じで申し込みをしました。ところが、1回目にカウンセリングをお引き受けしてくださった先生と今後の方針についての折り合いが合わず、結果的に継続して行うのを諦めることになり・・・継続する覚悟が持てずに断念してしまった自分への恥ずかしさや、あんなに意気込んで臨んだのに、最後までできなかったという挫折感を味わったという苦い経験があります。
カウンセリングに対して迷いがある人へ
せっかく勇気を持って話してみようと思ったのに、思うような感じでなかったというのは悲しいことだと思います。『私にカウンセリングは合わない』と思ってしまうのも仕方がないことなのかもしれません。しかし、そうであったとしても、一度体験して合わないと決めてしまうのは、もったいないと思っています。なぜなら、カウンセリングにも様々な流派があり、今起きている問題を解決するために行うものから、過去の傷つきを癒すものまで、流派によって取り組む目的や内容が違うからです。また、クライエントさんに安全なカウンセリング ・セラピーを提供するために、心理師は日々学びトレーニングを重ねていますが、心理師も人間であり、カウンセリングも人間関係の一部。良くも悪くも多少の相性というのが存在してしまうことは否めません。これは通常だと考えにくい発想かもしれませんが、可能であれば、あなたがお話しした心理師に再び、『こういうことがしっくりこなかった』とか『もっと話を聞いて欲しかった』とか、あなたの中で感じたことを話してみてください。普段の人間関係であれば考えられないことかもしれませんが、その行動そのものがカウンセリング・セラピーの一部であり、問題の解決へとつながっていく可能性が高いのです。しかし、これはなかなかハードルが高いことでもありますし、一度嫌な思いをした相手と再度話をするのが嫌だという気持ちもとっても理解できますので、もしどうしても難しいと感じる方は、他の心理師のもとを尋ねてみるのもひとつだと思います。日本臨床心理士会のHPでは、『臨床心理士に出会うには』というページを用意しており、お近くのカウンセリング施設を検索することができますので、こちらを活用してみてくださいね。また、自治体が運営している相談機関(教育相談センター、精神保健福祉センター、子ども家庭支援センターなど)でも心理師と相談することができますので、ぜひお住まいの地域の役所に問い合わせてみてくださいね。
AUTHOR
南 舞
公認心理師 / 臨床心理士 / ヨガ講師 中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。現在は学校や企業にてカウンセラーとして活動中。ヨガとの出会いは学生時代。カラダが自由になっていく感覚への心地よさ、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じヨガの道へ。専門である臨床心理学(心理カウンセリング )・ヨガ・ウェルネスの3つの軸から、ウェルビーイング(幸福感)高めたり、もともと心の中に備わっているリソース(強み・できていること)を引き出していくお手伝いをしていきたいと日々活動中。
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