「イギリスで、全く別の世界に飛び込む覚悟をした」フラワーアーティスト・前田有紀さんの生き方
――今振り返ってみて、イギリスでの修行はどんなものでしたか?
「新しい自分を知るきっかけになりました。アナウンサー時代は、少し受け身の姿勢で仕事をしていた気がします。自分にとって何が幸せなのかではなく、まわりの方の価値観や評価で動いているところがありました。でもイギリスでインターンをやっていたとき、クタクタのトレーナーに擦り切れたパンツで、化粧もせずに顔に泥がついているような自分を鏡で見てびっくりしました。数ヶ月前まではメイクをしていただき、用意された衣装を着ていたのに!別人のような自分を見て、『今の方が自分らしいかも!』と思いました。そのときに、幸せの価値観は社会が決めるものではなく、自分自身にしか気づけないものなのだと思いました。同時に、私は一生花と緑を仕事にしようと決意しました」
――全く違う世界に飛び込む覚悟ができたのですね。
「そうですね。最初はちょっと夢見ているような感覚で、イギリスに行っても結局思い描いているものと違い、帰ることになったらどうしよう…という不安もありました。でも、覚悟を決めることができました」
――帰国後、日本の花屋で働いていたんですよね。
「そうなんです。またインターネットで調べて、スタッフ募集をしているところに履歴書を持って面接に行きました」
――前田さんがいらっしゃるなんて、驚かれたでしょうね。花屋ではどんな経験をされたのですか?
「いろんな経験をさせてもらいました。大変なことも多かったですね。社会で10年働いて、自分はなんでもできるようなつもりになっていました。でも、レジを打っても失敗するし、配達をしても時間がかかる、請求書の出し方はわからない、梱包ひとつだって綺麗にできない…。それなりにキャリアを積んできたのに、いざ別の社会に出ると何もできないことを思い知らされました。花のことを学んだのはもちろんですが、自分を見直すこともできた、とても貴重な機会になりましたね」
――打ちのめされながら、迷うことはなかったですか?
「ありませんでしたね。夢があったので、毎日楽しかったです。朝起きた瞬間から今日の仕事を想像し、ワクワクしていました。これまでの10年間は、日々がルーティーンになっていたのだと思います。でも今日はどんな花と出会えるのか、どんな仕事があるのかを想像していると、出勤する足取りも自然と軽くなっていました」
――では会社員時代に得た、一番大きなものは何だと思いますか?
「本当にたくさんあります。良い会社で、良い人ばかりで。仲間と出会えたことは大きいですが、一番と言うと、言葉に対する向き合い方です。アナウンサーの仕事はとにかく言葉と向き合うんです。ひと言で誰かの信頼を失うこともあるし、ひと言で誰かを元気付けられることもある。ひと言に対する責任がありました。いつも言葉について考え、向き合い、追求していました。そういう職業だったので、今も言葉を大切にしていますね。私が花を届けたいのは、これまであまり花と出会ってこなかった人たちなので、花が持っているストーリーや想いを言葉にして伝えることが大事だと思っています」
――花屋を辞め、独立しようと思った決め手は何だったのでしょうか。
「実は一番の大きな理由は妊娠をしたことです。つわりが酷かったので、お店勤務は続けられないと思いました。お店の方は、できる範囲で続けることを勧めてくれましたが、次のステップの準備をする良いタイミングなのだと思いました。もちろんすぐに仕事が舞い込んでくることはなく、友人が誕生日のブーケを頼んでくれたりして、細々とやっていました。それでも続けていくうちに、いろんなお声がけをしていただき、装飾の仕事が増えたり…一人では捌ききれないくらいまで仕事広がっていきました。そこで、仲間を増やしてもっと自分がやりたいことを形にできる体制を作ろうと思い、子育てもひと段落した段階で、会社を設立したところです」
――会社を起こし、移動花屋をスタートしていかがですか?
「めっちゃ楽しい(笑)!個人でやっていた時とは全く違いますね。自分とは違う経験を積んだ仲間が集まることで、一人では思いつかないようなアイディアも出てきます。もちろん、ただ楽で楽しいわけではないですが、毎日やりがいを感じています」
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