梅雨の時期に要注意!食中毒による“腸管感染症”を防ぐ6つのポイント|薬剤師が解説

 梅雨の時期に要注意!食中毒による“腸管感染症”を防ぐ6つのポイント|薬剤師が解説
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腸管感染症は食中毒の原因となる細菌などに感染することによって引き起こされる発熱、腹痛、嘔吐、下痢などの症状が起こる病気です。日本では高温多湿となる梅雨の時期に多く発症するため注意が必要です。この記事では、腸管感染症の原因となる病原体の種類や症状、腸管感染症を予防するポイントを解説します。

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腸管感染症とは?

もともと腸内には、腸内細菌叢と呼ばれる多種類の細菌やウイルスが住み着いており、健康な人の場合にはこれらがバランスを取りあっているので、なんら支障は起こりません。

しかし、カンピロバクター、サルモネラ、病原性大腸菌などの病原体に感染すると腸内細菌叢のバランスが崩れることや、病原体から生じる毒素などにより、発熱、腹痛、嘔吐、下痢、血便などの急性症状が発現し、腸管感染症となります。日本では高温多湿となる梅雨から夏にかけて病原体が繁殖しやすくなるため注意が必要です。

主な病原体とその特徴

  • 黄色ブドウ球菌

潜伏期間は2~4時間。人ののどや鼻、傷口などに日常的にいる菌が人の手を介して食品に感染。おにぎり、サンドイッチなど素手で調理した食品が感染源になりやすい。胃のむかつき、激しい嘔吐に続き、腹痛、下痢が起こる。おおむね1~2日で回復。

  • ボツリヌス菌

潜伏期間は12~36時間。酸素のあるところでは増殖できないため、真空パック入りの食品が原因になることが多い。また、真空パックのほか、缶詰、ビン詰や発酵食品などが感染源になりやすい。物が二重に見える、食べ物を飲み込みづらくなる、発声障害、呼吸困難などの症状が起こることも。

  • 腸炎ビブリオ

潜伏期間は10~20時間。初夏から夏にかけて海水の温度が高くなる時期に発生しやすい。増殖が早く、二次感染を起こしやすい。刺身や寿司など生の魚介類が発生源となる。とくに腹痛が激しく、水溶性の下痢、発熱、しびれやチアノーゼ(皮膚が青っぽく変色する)が出ることもある。

  • ウェルシュ菌

潜伏期間は8~22時間。カレーやシチューなど肉類の煮込み料理に多く発生。加熱処理後、放置していると再び増殖する。調理した翌日の料理に注意。腹痛、下痢、ときには嘔吐の症状が起こる。おおむね1~2日で回復する。

  • 病原性大腸菌(O157)

潜伏期間は2~8日。病原性大腸菌“O157”が代表的。肉類(とくに牛肉の内臓)、ハムやソーセージなど加工食肉製品の調理過程で包丁やまな板などを汚染し感染する。腸管内で「ベロ毒素」と呼ばれる強い毒素を放出し、下痢、血便、激しい腹痛などを伴う。放置すると意識障害や尿毒症が起こることがあるため早期からの経過観察が必要。

  • サルモネラ菌

潜伏期間は6時間から2日。卵(加工品を含む)や肉類(牛、豚、鳥)の腸管に生息する常在菌が感染源となる。また、犬や猫などペットからの感染事例もある。菌の増殖が早いのが特徴。発熱、下痢、腹痛、血便などの症状が起こる。

  • カンピロバクター

潜伏期間は2~7日。腸管感染症の中でもっとも多い病原体。モツやレバーなどの内臓肉、加熱が不十分な鶏肉などから多く発生する。犬やネコなどペットからの感染も。頭痛、腹痛、発熱、下痢、血便などの症状が起こる。潜伏期間が2~7日と長いのが特徴。

家庭での予防はどうすればいい?

食中毒による腸管感染症は、飲食店などでの感染が取り沙汰されますが、これは集団感染で被害が目立つためであり、実際は、家庭でも多く発生しています。食品の購入や取扱い、台所の衛生管理、調理法など、さまざまな危険が潜んでいるので注意が必要です(下記ポイントを参照)。

大切なのは、梅雨の時期から夏場にかけては、とくに生食を避け、十分な加熱を心がける、調理の際には先に下準備をし、なるべく手早く調理するなどの点に気をつけること。また、冷蔵庫に入れていたからといって病原体がなくなるわけではありません。冷蔵庫への過信は禁物です。

<食中毒予防 6つのポイント>

1. 食品の購入

□ 肉、魚、野菜などの生鮮食品は新鮮なものを。

□ 消費期限など、表示のある食品は必ず確認。

□ 購入した食品は、汁などの水分が漏れないようビニール袋などに個別に分け持ち帰る。

□ 生鮮食品など、冷蔵や冷凍の必要がある食品は買い物の最後にして購入したら早めに持ち帰る。

2. 家庭での保存法

□ 冷蔵、冷凍の必要な食品は、持ち帰り次第、すぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れる。

□ 冷蔵庫、冷凍庫への収納は7割程度に。詰めすぎには要注意。

□ 冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は-15℃以下に保つ。

※多くの細菌の増殖は10℃でゆっくりになり、-15℃で停止。でも過信は禁物!

□ 肉や魚などは、肉汁や水分が庫内の他の食品にかからないようにビニール袋や容器に入れて保存。

3. 調理の下準備

□ 台所を使う前には以下をチェック!

・ 生ゴミはきちんと捨ててある?

・ タオルや布巾は清潔なものと交換してある?

・ 調理台の上は片付いている?

・ 石けんは用意してある?

□ よく手を洗う。食材の取り扱い中にペットに触ったり、おむつ交換や鼻をかんだりなど、他のことをした後も必ず手洗い。

□ 生の肉や魚を切った後、包丁やまな板を洗わずに生食の野菜や果物、調理済みの食材を切ってはダメ。洗ってから熱湯をかけて使用。

□ ラップしてある野菜やカット野菜もよく洗う。

□ 冷凍した食品の解凍は、冷蔵庫内で行うか電子レンジを使用。または、気密性の高い容器に入れて流水で解凍。絶対に調理台などに放置して解凍しないこと。

□ 冷凍した食品は使う分だけを解凍し、すぐに調理。また、使わなかったからといって冷凍解凍を繰り返すのは危険。

4. 調理

□ 肉や魚の下準備でシンクや調理台が汚れていないか確認。タオルや布巾も乾いたものを使用する。

□ よく手を洗う。

□ 加熱して調理する食品は中心部まで十分に火が通るよう加熱。調理を途中でやめて室温に放置しないこと。中断する場合は冷蔵庫に入れる。電子レンジで調理する場合、熱の伝わりにくいものは、ときどきかき混ぜる。

□ 調理後、包丁、まな板などは洗剤と流水でよく洗った後、熱湯をかける。たわしやスポンジ、布巾は定期的に漂白剤に浸けて殺菌。

5. 食事

□ 清潔な手で、清潔な器具を使って、清潔な食器に盛り付ける。

□ 食卓に長い間、料理を放置しない。温かい料理は温かく、冷たい料理はよく冷やして、食べる直前に食卓に並べる。

□ 乳幼児やお年寄りには、加熱が十分でない肉料理などがあった場合は食べさせない。

6. 残った食品と後片付け

□ 残った料理は、早く冷えるよう清潔な浅めの容器に移し、冷蔵庫に保存。室温に長く置いてあった残った料理は捨てる。

□ 食器類はよく洗い、熱湯をかけて殺菌。よく乾かしてから収納する。

受診のタイミングはどうやって見分ける?

軽度の腸管感染症であれば、一般的には1~2日で症状は軽減し、自然に治ります。激しい下痢、嘔吐、発熱などの症状、また複数の症状を伴うときは、病院を受診します。放っておくと重症化し、死に至る場合もあるので医師の診察を受けることが大切です。とくに次の場合にはすみやかに受診してください。

血便がある

病原体が腸壁の細胞を破壊。敗血症や腹膜炎を起こすことも。

水溶性の下痢が1日10回以上

脱水になる。とくに小児や高齢者は危険。

海外旅行での感染

日本では稀な病原体に感染し、特別な治療が必要なことも。

また、薬を自己判断で服用するのはやめましょう。下痢や嘔吐などの症状は体内に入り込んだ毒素を排出しようとする生体反応。腸の働きを止めるタイプの止瀉薬(下痢止め)や、以前病院で処方された抗生物質などが残っていてものんではいけません。激しい下痢や嘔吐であっても水分をこまめに補給して脱水を防ぐことが重要です。

まとめ

腸管感染症はさまざまな病原体によって引き起こされる病気で潜伏期間も異なります。また、腸管感染症は飲食店などで起こるイメージがあるかもしれませんが、実際には家庭でも多く発生しています

とくに高温多湿となる梅雨から夏場にかけて起こりやすいので注意が必要です。食品の購入や保存、調理などでの予防のポイントを参考にしてください。一般的に、腸管感染症は1~2日で回復しますが、血便や下痢など症状がひどい場合は病院を受診することをおすすめします。

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AUTHOR

小笠原まさひろ 薬剤師

小笠原まさひろ

東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。



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