「気持ち悪くて吐いてしまった…」胃腸炎?それとも食中毒?医師が教える見分け方

 「気持ち悪くて吐いてしまった…」胃腸炎?それとも食中毒?医師が教える見分け方
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甲斐沼 孟
甲斐沼 孟
2023-12-29

年末年始、何かと胃が疲れやすい季節です。この季節に注意したい、胃腸炎と食中毒の見分け方について医師が解説します。

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胃腸炎とは、どのような病気か?

胃腸炎とは、胃や大腸・小腸などに炎症が生じた状態で、主な原因はさまざまな細菌やウイルスによる感染性胃腸炎ですが、非感染性胃腸炎として、アレルギーによるものや、服用した薬によるもの、寄生虫によるものなどが知られています。非感染性胃腸炎とは、ウイルスや細菌などの感染が原因ではなく、薬物やアレルギー物質・寝冷えや暴飲暴食が原因で下痢などの症状を起こす病気も指しています。

非感染性胃腸炎の原因としては、薬によるもの、アレルギーによるもの、食べ過ぎや飲み過ぎで胃腸機能障害をおこしているものなどがあり、特に薬の影響によるものでもっともポピュラーなのが抗生物質の内服に伴う腸炎です。また、NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugsの略)と呼ばれる非ステロイド系鎮痛消炎薬などが非感染性胃腸炎の発症原因となることもあります。アレルギーによるもので多いのが、卵や牛乳などの食物アレルギーによる胃腸炎です。食べ過ぎ、飲みすぎでは、酒類の飲みすぎでおこるもの、冷たい食料品などを摂取しすぎて胃腸機能障害をおこしてしまうものなどが代表例です。

非感染性胃腸炎を発症している際には、原因となっている薬剤を別の薬に変更する、あるいはアレルギー物質などを摂取しないよう食生活を改善し、炎症反応に対しては胃薬や整腸剤を使用して症状緩和します。

炎症が重度で胃や腸の粘膜から出血している場合には、内視鏡治療が行われることもありますので、消化器専門医の医師を受診して、症状などについて相談しましょう。

食中毒とは、どのような病気か?

食中毒は、食事が主な原因となって下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こす病気です。

主な発症原因によって、「細菌性」「ウイルス性」「自然毒」「化学性」に大きく分類されています。

夏場に多い食中毒として、細菌は高温多湿を好んで増殖することからカンピロバクター、腸管出血性大腸菌など細菌性食中毒が代表的ですが、冬に多い食中毒としてノロウイルス、ロタウイルスなどによるウイルス性食中毒が知られています。年間を通じて、自然毒食中毒は、フグ毒、毒キノコ、トリカブトなどによって発症すると考えられますし、化学性食中毒は洗剤、農薬、有機水銀などの化学性物質を摂取することに伴って腹部症状を呈すると言われています。

食中毒に伴う症状としては、下痢や嘔吐に合併して脱水症状を引き起こすことが知られており、予備能力が弱い高齢者や子どもでは症状が重症化しやすく、特に格段の注意をすることが重要となります。

特に、冬場は感染力がとても強いノロウイルスによる食中毒に注意する必要があり、低温状況や乾燥した環境で長生きすることができるウイルスは、寒い冬のシーズンに繁殖しやすいと考えられます。ノロウイルスによる食中毒は、感染規模が拡大しやすく、年間の食中毒患者数のおよそ半分以上を占めていると伝えられています。ノロウイルスによって引き起こされる食中毒は、毎年11月から3月にかけて寒い時期にノロウイルスに汚染された食品を摂取してから1~2日後に、激しい下痢や嘔吐、腹痛などの症状が出現し、特に幼児や免疫力低下している場合には、症状が重症化することもあります。

冬の食中毒の原因は、ノロウイルスにおいて圧倒的に件数が多いのですが、生肉や加熱不十分な肉料理などを摂取することで食中毒になるケースもありますし、子どもの場合にはロタウイルスによる食中毒にも一定の注意を払う必要があります。

それ以外にも、生肉を摂取して腸管出血性大腸菌に感染する、鶏や卵を摂取してサルモネラ菌に感染することに伴って下痢や嘔吐症状が出現する、あるいは煮込み料理などを食べてウェルシュ菌によって食中毒症状が引き起こされることも見受けられます。

もし、冬場などのシーズンに食中毒を発症したら、自分で勝手に自己判断して薬を服用するのは控えて、出来るだけ医療機関で診察を受けるようにしましょう。

また、下痢や嘔吐症状がひどい場合には、脱水状態に陥ることが想定されますので、しっかりと水分を確保することを認識して、万が一にも水分が摂取できないときや、脱水症状がひどい際には専門医療機関を受診して点滴してもらいましょう。

胃腸炎
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胃腸炎?それとも食中毒?見分け方

胃腸炎の種類や原因、罹患者の体質などによって症状はさまざまですが、一般的には胃腸炎に伴って腹痛、下痢、嘔吐などの症状がおこります。

細菌性の感染性胃腸炎では、38℃以上の発熱と嘔吐より下痢が強い傾向があり、時によっては血便をともなうこともありますし、ウイルス性の場合には、特にノロウイルスやロタウイルスでは中程度の発熱があり、下痢より嘔吐の症状のほうが強くあらわれます。

感染性胃腸炎は、ウイルスや細菌に感染し、発熱や下痢、腹痛、嘔吐(おうと)などの症状がでる病気であり、食品や水を介して感染するほか、人から人、ペットから人へうつることもあります。感染性胃腸炎のうち、食品や水を経由して感染したものは一般的に「食中毒」と呼ばれていて、その発症原因となる病原体は、細菌やウイルス、動物や植物がもともと持っている自然毒、寄生虫などさまざまな種類があります。

それぞれの原因によって、潜伏期間や流行時期、症状の重症度も変化します。例えば、サルモネラやO-157など細菌が原因となる食中毒の場合は、梅雨から夏(6~8月頃)に多く発生して、血便症状などが前面に出現することが往々にして存在します。その一方で、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスが原因の食中毒は、秋から冬(11~3月頃)に流行して、主に嘔吐や下痢症状が多く見受けられます。

食中毒とは異なる非感染性胃腸炎の場合は、感染性のものより症状が弱いことが多く、感染性胃腸炎と違って発熱することもあまりありません。

まとめ

これまで、胃腸炎や食中毒とはどのような病気か、両者の見分け方などを中心に解説してきました。

感染性胃腸炎とは、細菌やウイルスなどの病原微生物が原因となる腸管感染症ですし、非感染性胃腸炎とは、細菌やウイルスなど病原体への感染以外を原因として起こる胃腸炎のことを指しています。また、感染性胃腸炎の中でも食物や飲み物から感染したものを食中毒といい、細菌やウイルスなどに汚染された食物を食べることによって病気が集団発生した場合を食中毒と呼んでいます。

季節の変わり目などの時期に、急な腹痛・下痢・嘔吐などの症状がみられた場合は、ノロウイルスやアデノウイルスなどの病原体による感染性胃腸炎を含む病気を引き起こしている場合があります。

非感染性胃腸炎の発症原因の代表例は、抗生物質を内服することによる抗生物質が起因する腸炎ですし、それ以外にも、非ステロイド系消炎鎮痛剤による胃・腸管粘膜の炎症や、刺激物やアルコール・冷たい食べ物などの摂りすぎによる胃腸機能障害などが挙げられます。

そして、夏場を中心に、カンピロバクターやサルモネラなどによる食中毒の発症リスクが高くなりますし、冬場には、年末年始など長い休暇に入る場合も多く、忘年会などの機会が多くなり、生活リズムが崩れやすく免疫力が低下して食中毒になりやすいと考えられます。

1年間を通じて、胃腸炎や食中毒を引き起こさないように通常以上に手洗いなど感染対策を徹底して清潔を保つように努めましょう。

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甲斐沼 孟

甲斐沼 孟

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。



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