胃もたれ、胸焼け、胃痛…年末に多い胃腸トラブル|症状別・胃腸薬の選び方とセルフケア|薬剤師が解説
年の瀬が近づくにつれ、仕事にプライベートにと多忙になり、精神的なストレスがたまったり、忘年会などの会食で胃腸に負担をかける機会も増えてきます。胃痛、胃もたれ、吐き気など胃腸の症状もさまざまですから、市販の胃腸薬の使い分けも必要です。 この記事では、症状別の胃腸薬の選び方や胃腸をいたわるセルフケアなどを解説します。
胃腸のトラブルの原因と症状
年末に多い生活パターンの中で、胃腸のトラブルを起こす原因には、次のようなことがあげられます。
・忘年会などで食べ過ぎ、飲み過ぎの機会が増える。
・公私ともに忙しく、精神的ストレスがたまる。
・忙しくてゆっくり食事を摂る時間がないため、早食いになる。食事時間も不規則になる。
・外食が増えるため、脂っぽい料理や塩分の多い料理を食べる機会が増えたり、栄養バランスが崩れたりする。
・多忙や睡眠不足などによって過労に陥る。
もともと胃はとても働き者で胃に入ってきた食物やアルコールなどをまず貯蔵し、消化・吸収などを行っていますが、胃に負担がかかり過ぎてダメージを受けると、次のような症状が起こります。
・胃もたれ
・腹部膨満感
・胃の痛み
・胸やけ
・吐き気、嘔吐
・げっぷ
・食欲不振
・便秘
・下痢
これらの症状は同時に起こったり、症状が移行していったりすることが多いといえます。典型的なケースとしては、まず胃もたれや腹部膨満感が起こり、続いて過剰に分泌された胃酸が胃や食道の粘膜を荒らし、胃の痛みや胸やけが起こるというものです。
また、胃の運動障害や機能障害が起こり、吐き気、げっぷ、食欲不振、便秘などを引き起こすこともあります。さらに食物が消化されない状態で小腸まで運ばれると下痢が起こります。
食べ過ぎ・飲み過ぎになると胃はどんな状態になるのか?
胃は風船のように伸縮性のある袋状の臓器ですが、食べ過ぎ・飲み過ぎで胃壁が極端に引き伸ばされると、胃壁の筋力が低下し、消化のための運動機能が低下します。また、「がんばって消化しなければ…」と胃酸が大量に分泌されるため、胃の粘膜を荒らしてしまいます。
とくに塩辛いものをたくさん食べた場合、浸透圧の関係で胃の粘膜の中の水分が吸い出され、粘膜細胞が傷つけられるケースが多くあります。
なお、食べ過ぎ・飲み過ぎの後、胃の痛みや吐き気などが起こる場合を「急性胃炎」といい、さらに不摂生な生活を繰り返すと「慢性胃炎」や「胃・十二指腸潰瘍」へと進行することもあるので注意が必要です。
アルコールを飲むと下痢をするのはなぜ?
アルコールは胃で約20%吸収され、残りは小腸で吸収されて血液の中に溶け込みます。血液中のアルコールは肝臓に運ばれて分解されます。アルコールを飲み過ぎると肝臓に負担がかかることはよく知られていますが、胃や小腸にも大きなダメージを与えます。
まず、胃の粘膜がただれ急性胃炎が起こります。さらにアルコールが高濃度のまま小腸に運ばれると小腸の粘膜を刺激し、傷つけます。このとき小腸の粘膜に斑点状の出血が起こることもあります。
また、アルコールには小腸の蠕動運動を盛んにする働きがあるため、内容物が小腸を通過する時間が短くなり、下痢が起こります。
とくに長年アルコールを飲み続けている人は小腸の消化酵素(ラクターゼなど)の働きが低下しているため、慢性的に下痢が起こりやすい状態にあります。
症状別、市販の胃腸薬の選び方
市販の胃腸薬にはさまざまな種類があり、症状や原因によって使い分けることが大切です。
・胃のもたれ、胃の不快感、食欲不振に……胃腸全体の機能が弱っていることが多いため、消化液の分泌を促し、胃の運動を正常にする「健胃薬」や「漢方薬」が良いでしょう。
・胃の痛み、胸やけ、むかつきに……胃酸の出過ぎや胃の粘膜の荒れが原因です。過剰に分泌された胃酸を中和させ、胸やけやげっぷなどを改善する「制酸剤」、暴飲暴食やストレスなどで出る過剰な胃酸の分泌を抑え、胃の痛みや胸やけなどを改善する「H2ブロッカー」、傷ついた胃の粘膜の修復を助ける「胃粘膜保護剤」などを利用すると良いでしょう。
・食べ過ぎや消化不良に……食べ過ぎて、消化しきれない食べ物の消化を助ける「消化酵素剤」が良いでしょう。腹部膨満感なども改善します。
・キリキリするさしこみや胃痛に……胃のけいれんを抑え、さしこむような胃の痛みを鎮める「鎮痛鎮痙薬」を使うと良いでしょう。
胃腸薬の簡単な選び方……3つのタイプに分けて選ぶ
胃腸の場合、症状も病態もはっきりしていることが多いので、前述したように症状別に薬を使い分けて利用するのが効果的です。
しかし、実際には、こうした成分を複数配合した胃腸薬が多く、薬局やドラッグストアの店頭では、大きく「総合胃腸薬」「漢方胃腸薬」「H2ブロッカー」の3種類に分けて陳列・販売されていることが多いようです。
胃腸薬を簡単に選ぶには、まずはこれら3種類の中から症状に適したものを選び、さらに自分に合った製品を絞り込むと良いでしょう。
① 総合胃腸薬
胃酸を中和する「制酸剤」、食べ物の消化を助ける「消化剤」、胃の粘膜を丈夫にする「胃粘膜保護剤」などが含まれ、食べ過ぎ・飲み過ぎによるどのような症状にも適応します。
【総合胃腸薬の製品例】
「キャベジン興和α」(興和)、「パンシロンG」(ロート製薬)、「太田胃散」(太田胃散)、「第一三共胃腸薬」(第一三共)、「ソルマックプラス」(大鵬薬品)など。
② 漢方胃腸薬
生薬配合で穏やかに作用し、胃の本来の働きを高める「健胃効果」が高く、もともと胃の弱い人や胃の全体的な不調に適応します。慢性胃炎の場合もこのタイプを選ぶと良いでしょう。
【漢方胃腸薬の製品例】
「大正漢方胃腸薬」(大正製薬)、「太田漢方胃腸薬Ⅱ」(太田胃散)、「タケダ漢方胃腸薬A」(アリナミン製薬)など。
③ H2ブロッカー
潰瘍などの治療薬として使われている成分を市販薬としたもので、胃酸の分泌を抑える「高い制酸効果」があります。胃の痛みやもたれが激しいときに使用します。
【H2ブロッカーの製品例】
「ガスター10」(第一三共)、「ファモチジン錠」(クニヒロ)など。
※なお、H2ブロッカーは第1類医薬品(要指導医薬品)といって、購入時に薬剤師から薬の使い方、効能・効果、副作用などの説明を受けてから購入することが義務づけられています。必ず、薬剤師に相談してから購入してください。(薬剤師が不在の場合は購入できません)
医療機関に行った方が良い場合とは?
荒れた胃の粘膜が修復するまでには約60時間かかります。胃腸の不調の原因がはっきりしていて、3日以内に症状が改善された場合、通常は心配ありません。
ただし、激しい痛みや嘔吐、胸やけが止まらない、吐血、下痢がひどい、黒っぽい便(タール便)などの症状が出たときは、内科や消化器科などで診察を受けましょう。
胃腸の働きを改善するセルフケア
胃腸の負担を軽くし、胃腸の不調を防ぐためには、次のことに気をつけると良いでしょう。
・よく噛んで腹八分に……早食いは食べ過ぎや消化不良の原因に。よく噛んで楽しみながら食べ、食後はゆっくり休養する。
・適度な運動を習慣にする……適度な運動は自律神経の働きを整え、胃腸の機能を高める。ウォーキングやヨガなどが効果的。
・ストレス解消を心がける……現代社会でストレスを避けることは難しいので、趣味やおしゃべりなどで上手に解消を。小さなことにクヨクヨせず、気持ちを切り替える。
・早寝、早起きをし、規則正しい生活を送る……夜ふかしや睡眠不足は胃を荒らす原因に。過労も胃粘膜の防御力を低下させる。
まとめ
年末はストレスが増え、飲食の機会も増えるため胃腸の不調が起こりやすくなります。胃腸薬を簡単に選ぶ方法は「総合胃腸薬」「漢方胃腸薬」「H2ブロッカー」の中から、症状に適したものを選ぶことです。
それぞれの胃腸薬は、配合される成分によって多少特徴が異なりますので自分に合った薬を見つけると良いでしょう。見分け方が分からない場合は、薬剤師に相談してアドバイスを受けてください。
AUTHOR
小笠原まさひろ
東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。
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