生き方としてのヨガを伝えたい|ヨガ×バンライフ、ヨガを体現するノマド旅で見つけた「本当の豊かさ」
心のシグナルに耳を澄まし、生き方の違和感に気づくたびに自分にとっての快適を探し求めて歩んできたNAOKIさん。インタビュー後編では、「ヨガ×バンライフ」というライフスタイルに行き着くまでの道のりと葛藤、そして自らを「ヨガ体現者」と呼ぶ理由を語っていただきました。
悟りへの近道を求めて、門を叩いた禅寺で壮絶修行
― 子供の頃から夢見た消防士を辞めてヨガの世界に入り、指導者兼ヨガスタジオの経営者として走り出したNAOKIさん。走り出しは順調に見えますが辛い、苦しいと感じたことはありますか?
「僕の場合、ヨガを始めて1年くらいでスタジオを開設して教える側に立ったのでヨガ歴と指導歴にあまり差がありません。生徒さんの中には僕よりヨガ歴が長く、先生をやっている方もいて、自分よりヨガを学んでいる人に何を伝えられるか悩み、ヨガ哲学を伝えたいけど僕を通してだと何も語れない現実にコンプレックスを抱えていました。それにヨガフェスタという大型イベントに登壇したり、ヨガ雑誌を読んだりしてこの世界の華やかな部分に触れるともっといろいろな景色が見たい、てっぺん獲りたいという欲が出てきて、高いステージに行きたいけど行けないもどかしさもありました」
― ヨガは自分と向き合い続け心を磨いていくもので、一朝一夕で変化を感じられるものではありませんが、抱えた葛藤をどのように消化しましたか?
「メンタルやスピリチュアルな方向に興味がわき、30歳までにサマディに達すれば自信を持ってヨガを伝えられると思ったけど、いくら練習しても一向に前進している気がしませんでした。フラストレーションが溜まってきた時、僕が瞑想を習っていた仏教家の方がいつもニコニコしているのを見て、やっぱり仏教かなと浮気心が出てきて寺ごもりをしようと決めたんです。どうせなら日本一厳しいところじゃないと意味がないと思い、出家せずに行けるお寺の中で一番厳しいと言われている禅寺の門を叩き、一週間の修行をしてきました。もう想像を絶する厳しさでした」
― すごい行動力。なかなか想像がつかないですがどんな修行を?
「僕が体験したのは、”無字の公案”といって無とは何かを座禅をしながら禅問答する修行です。修行の初日、自分なりに導き出した答えを和尚に伝えにいくと、『黙れ、くそ坊主っ!』と愛のある叱咤の後、『お前は無になったことがないから無になる修行を開始する』と言われました。叫ぶだけの修行もあり、それをすると喉が擦り切れて口の中は血の味しかしなくなるんです。2日目からは昼も夜もなく叫び続け、和尚に『自我なんて早く捨ててしまえ』と言われながら警策でバンバン叩かれて、もう頭がおかしくなるんですよ。でも僕は死んでもいいくらいの覚悟で自分と向き合っていたので、徐々に覚醒していくんですね。4日目の朝にこれじゃないかっていう答えが出て和尚に伝えに行ったら認めていただき、行きたいところに辿り着けた達成感と厳しい修行が終わる喜びで涙が止まりませんでした」
豊かに生きる姿を見せる”ヨガ体現者”でありたい
― 厳しい修行を終えてNAOKIさんの中で起こった変化を聞かせてください。
「悟りを開いたり、ヨガで有名にならないと自分の表現ができないという思い込みを砕いてもらったと感じています。そしてヨガ歴や指導歴に関係なく、僕を生きてきたのは僕でしかなく、その体験をヨガを通して伝えればいいという答えに達しました。そこから僕は体験したこと以外は口にしないというスタイルを貫いています。禅を作った菩薩達磨和尚は、体験を通して伝えるものこそ真実であるという”不立文字(ふりゅうもんじ)”という教えを残していて、20代最後にその部分に触れることができたのはよかったです」
― お話を聞いていると、ヨガ指導者という肩書に収まらない人という印象を受けます。”ヨガを通して生き方を伝える人”、と呼ぶのがふさわしいでしょうか。
「まさにそうです。ヨガを生き方に表している人だと、僕は自分のことを思っています。最初はインストラクターという言葉があまり好きじゃなくて、自分は指導者であると主張していましたが、今は”体現者”という言葉を使っています。指導者は先人の叡智やヨガの知恵を使って導く人だと認識していますが、ここまでテクノロジーやAIが進化するといずれヨガ哲学さえも僕から学ぶ必要がない世の中になると思っています。僕ができるのは、ヨガのエッセンスを使ってより豊かに生きる姿を見せていくことだと思い、指導者から体現者へステージを変えました。そういうアイデンティティはもともと持っていて、ヨガに出合ってちゃんと水をやり花を咲かせた結果、今の僕がある気がします。ここまで強い自分軸やチャレンジ精神を持てるのはヨガの教えのおかげだと思います」
バンライフは自己表現の手段。生き方のインスピレーションに
― 現在は、愛車のバンで各地を移動するバンライファ―としての顔も持つNAOKIさん。2022年3月には全国47都道府県をバンで巡りヨガやライフスタイルを伝える「GOEN」プロジェクトがスタートしました。
「経緯を話すと、ヨガスタジオがコロナで強制停止されたタイミングで一冊の本に出合いました。それはバンライフの生みの親と言われるフォスター・ハンティントンの著書で、カフェで手にした時このライフスタイルをしたいと思ったんです。彼と同じフォルクスワーゲン T3 vanagonが欲しくなり探しに探して手に入れて、この車を使って好きな時に好きな場所に行き、自由というものを探求したくなった。あとは、コロナ禍で当たり前だったことが当たり前でなくなったことで、真の豊かさってものへの探求心にも後押しされました。
僕はスタジオでポーズを教える人に終わらず、もっと広いフィールドに出て生き方としてヨガを伝える人に振り切っていきたい。というのも、同業者でヨガを長くやって叡智を蓄えているのにお金が稼げない、有名になれないと悩んでいる人はたくさんいます。ヨガ体現者の僕としては、誰か一人でも前を突っ走り自己実現する姿を見せて、それが足踏みしている人の勇気やインスピレーションになればと思っています。
『GOEN』プロジェクトは、コロナ禍でオンラインクラスに参加してくれたみんなに、落ち着いたら縁をつなぎに僕が行くよと言ったのを機に始まりました。1万人とのご縁を目指し愛車のvanagon で47都道府県を周り、無料でヨガやライフスタイルを伝えています。無料にしたのは生産性を求める社会に対するアンチテーゼと敷居を下げたいからです」
― バンライフを続けるなかで見えてきた「豊かさ」の答えを教えてください。
「自分の内側の声を聞けて、行動に移せている状態は豊かだと思います。もう一つは、今まではこう生きなさいと決められてきたけど、多様性が言われ始めて枠組みが広がり取捨選択がたくさんの中からできることも僕は豊かだと思います」
― みんながバンライファーにはなれないけど、”どうせ変えられないという考え方を変えられる”気がしてきます。
「まさにそうで、全員にバンライフをやってほしいわけじゃありません。僕は誰もが好きなことを体現したり、表現したりできるクリエイターだと思っているので可能性は無限大だと伝えたい。当たり前を当たり前とせず、自分の世界を作っていけることを僕のライフスタイルを通して見せていきたいです」
*前編では【正解は、ひとつじゃない】ヨガ、バンライフの実践者が「変わりたいけど変われない人に伝えたいこと」についてお話いただいています。
〈プロフィール〉 西川順喜(NAOKI)
自身が運転するバンで移動しながら、ヨガと瞑想、生き方を伝える。2022年3月から全国47都道府県をバンで巡りヨガを多角的に伝える「GOEN」プロジェクト始動。2022年11月からは、YOGA3.0という世界観を実現するためのオンラインコミュニティ「THE VILLAGE」を立ち上げる。コーヒー好きが高じて浜松で「NOMAD COFFEE STAND」もプロデュースしている。
HP:naokinishikawa.com
instagram:@nomad_yogi_naoki
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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