【弁護士に聞く】不同意性交・不同意わいせつ「言ったもん勝ち」が誤解である理由と改正点のポイント

 【弁護士に聞く】不同意性交・不同意わいせつ「言ったもん勝ち」が誤解である理由と改正点のポイント
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今年7月、性犯罪に関する刑法が改正されました。不同意性交等罪・不同意わいせつ罪という名称から、「後から『同意がなかった』と言ったもん勝ちでは」といった意見がネット上で散見されました。本当に「言ったもん勝ち」なのか、性暴力問題に詳しいらめーん弁護士に話を聞きました。

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起訴や有罪判決には証拠が必要

——刑法改正の報道に対し「後から言ったもん勝ちでは」という意見がネット上で少なくない数見られました。

「同意がなかった」と言うだけでしたら“言ったもん勝ち”かもしれませんが、起訴したり有罪判決を出したりするためには証拠が必要なので、そんなに簡単なものではありません。

前編で説明した8つの類型(※)でいいますと、アルコールや薬物の影響のようにイメージしやすいものでも、薬物には数時間で尿から検出されなくなるものもあります。「睡眠その他の意識不明瞭」も被害者が「寝ていました」と言っても、加害者はおそらく「起きていると思いました」と言いますので、寝ていたことや、寝ていたことの認識を立証するのも困難です。

※8類型
①暴行又は脅迫
②心身の障害
③アルコール又は薬物の影響
④睡眠その他の意識不明瞭
⑤同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在(例:不意打ち)
⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕(例:フリーズ)
⑦虐待に起因する心理的反応(例:虐待による無力感・恐怖心)
⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮(例:祖父母・孫、上司・部下、教師・生徒などの立場ゆえの影響力によって、不利益が生じることを不安に思うこと)

※法務省 性犯罪関係の法改正等 Q&Aより
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html


性犯罪は一対一になることが極めて多いので、被害者の供述が大事な証拠であるのは間違いないのですが、加害者が否認している場合に被害者の供述だけで有罪になるのはほぼ不可能であり、被害者の供述を下支えする客観的証拠がいくつか必要になります。

部活動の指導者や親からの性暴力のように、繰り返し加害行為が行われている場合は、犯行日を特定するのも難しく、犯行日の特定だけで半年や1年かかることもよくありますが、犯行日まで特定して初めて逮捕となります。

被害者の供述の下支えをする証拠の例としては、飲食したお店のPOSデータや、防犯カメラの映像などです。また、最初に被害申告を聞いた人の証人尋問は大抵は行われます。性交等がまさにされているときは、加害者と被害者とが二人きりになって目撃者がいないことがほとんどです。被害者供述しか証拠がなくなる直前と直後に信用性の高い証拠があることや、被害者と加害者しかいない時間帯の被害者供述が、その時間帯に断片的にある客観証拠と整合していることなどを考慮して、被害者供述の信用性が高いと判断することになります。

そのため、できればすぐに証拠採取をしてもらうなど、素早い対応がその後に繋がっていきますが、すぐに通報・相談できなかったとしても他に証拠が残っているかもしれません。「同意がなかった」と言うだけでは有罪になりませんが、被害者の申告しかないからと思って被害届を出すのが無理だとは諦めないでほしいです。

——ネット上の反応を見ていると、被害者が「同意がなかった」と届け出たら、すぐに逮捕されるようなイメージを持っているようにも見えます。

逮捕や勾留はそんなにすぐ行われるものではないですよ。逮捕の前に、日時や場所の裏取り捜査や、被害者の供述を下支えしてくれる被告人と通じていない目撃者に、聞き取りを行ったりします。

被害者の友人や会社の人など全て内偵捜査をした上で、場合によっては先に捜査差押礼状だけ取り、ガサ入れを行い、証拠となる画像が見つかったので逮捕する、といったように、性犯罪の身柄拘束に関しては非常に慎重に行われています。最大で23日しか身柄拘束ができないので、自白が取れなくても事件として起訴ができるくらいのところまで固めてから逮捕や勾留に踏み切ります。

言い換えれば被害者にとっては怖い状況でもあって、被疑者の知人まで警察が事情聴取をしていることもあって、被害者が「被疑者にバレたら仕返しされるのでは?」と思うような状態でも被疑者の身柄は自由なことも珍しくありません。被害者が被疑者に脅され、逮捕に関してリークすることを懸念して、逮捕状を取る日を教えてくれないこともよくあります。親切な場合、逮捕したときに教えてくれますが、報道で知ることもあるくらいです。

“悪ふざけ”も不同意わいせつになりうる

——男性の性被害について、今回の改正でどんなことが保護されますか。

男性から男性への性被害は股間を揉むような行為をよく聞きます。性交同意年齢(性行為に同意できる能力があるとみなされる年齢)が13歳から16歳に引き上げになったことによって、部活の顧問やコーチが中学生の股間を“悪ふざけ”と揉んだとしたら、多くの場合は5歳以上離れているでしょうから、不同意わいせつに該当すると考えられます。

文部科学省は子どもたちが性暴力の被害者・加害者・傍観者にならないよう「生命(いのち)の安全教育」を推進していますし、東京都は教職員が禁止されている行動として「3ない運動(不必要な身体接触をしない・個人的な連絡をしない・二人きりになる状況で指導や対応をしない)」を行い、児童・生徒との交際が成立しないことも示しています。

子どもたちは学校で学ぶので、子どもたちの方が「男同士であっても、プライベートゾーンを見たり触ったりすることはあってはならないことだ」と知っている。なので教師が触ってきたら「先生がダメなことをしてる」って子ども達が思うのは当然ですよね。

ここ数年で、親も子どもが身を守るために性教育が必要なことを知って実施している。でもアップデートが追いついていない教員も一定数いて、対立を感じることがあります。学校側だけ昭和の価値観のままで、校長が「(問題教員に)よく言って聞かせますから」で終わらせようとすることもありますが、犯罪ですからね。

以前よりは解消されつつあるものの、家庭での性教育にも差があるので、子ども同士でズボン下ろしやカンチョーが行われたときでも「男の子ってそういうのが当たり前だよね」という昭和の価値観のままの親と、きちんとプライベートゾーンやバウンダリー(境界線)の意識のある家庭とでギャップが残っています。

トラブルが起きて、両者の意識に差がある場合に学校側が法律に即した判断をしたり、バウンダリーの考え方があるケースと、ことを荒立てないことを優先し被害者の方を言いくるめてなかったことにしようとする動きと、対応にバラつきがあります。

——中学生同士のケースはいかがでしょうか。

先輩後輩のような上下関係や、スクールカーストのような構造がある場合は⑧不利益の憂慮に該当する可能性が考えられます。

大事なのは5歳差要件の範囲内であっても、不同意性交や不同意わいせつが成立する可能性はあります。13歳以上16歳未満に関しては、5歳以上の年上の人との対等な関係があり得ないと考えられているのであって、5歳未満だったら対等という意味ではありません。それは附帯決議でも丁寧に説明されています。

性犯罪
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被害に遭ったら警察もしくはワンストップ支援センターへ

——被害に遭ったらどこに相談すればいいでしょうか。

まず危険が迫っている場合や電車内で痴漢被害に遭っているときなどは110番をしてください。警察には専用ダイヤルもあります。全国共通番号(#8103)にかけると、発信された地域の都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口に繋がります。

各都道府県に設置されている性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターでは、被害直後からの医師の診療・カウンセリング・捜査支援や法的支援を包括的に行っています。携帯電話とNTTのアナログ固定電話は「#8891」にかけると発信地から最寄りのワンストップ支援センターにつながります。NTTひかり電話からかける場合、及び一部のIP電話等からは繋がらないため、内閣府HPをご確認ください。ワンストップ支援センターは、場所によっては女性向けに感じられるような名前がついているところもありますが、男性も相談できます。

電話での相談が難しい場合は、性暴力に関するSNS相談Curetimeにて、チャットやメールでの相談が可能です。

※前編では【今年7月に施行された「性犯罪の刑法改正」で何がどう変わるの?】についてお話いただいています。

【プロフィール】

らめーん弁護士

2006年司法試験合格。2008年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会・委員。犯罪被害者支援弁護士フォーラム(略称VSフォーラム)会員。性暴力救援センター東京(SARC東京)支援弁護士・理事。一般社団法人Spring法律家チーム。著書(共著)に『ケーススタディ 被害者参加制度 損害賠償命令制度』(東京法令出版)、『犯罪被害者支援実務ハンドブック』(同)

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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