健康のためだったのに…運動しすぎるとクレアチニンが高くなる?激しい運動のデメリットは|医師が解説

 健康のためだったのに…運動しすぎるとクレアチニンが高くなる?激しい運動のデメリットは|医師が解説
Adobe Stock
甲斐沼 孟
甲斐沼 孟
2023-08-06

健康のためにしていたはずの運動。ある時の健康診断で、クレアチニンの値が高く出てしまった…そんな経験はありませんか?

広告

運動は、ブドウ糖を酸素で燃焼させてエネルギーとして筋肉の収縮や弛緩を起こす行動を指していて、運動をする場合は、基本的には運動することのベネフィットがリスクを上回ることが大前提として考えられます。

運動する際には、体の中に酸化ストレスが生じやすく、例えば筋肉トレーニングなど激しいレジスタンス運動は、強い酸化ストレスに伴って、血管の内皮細胞などが障害されて体内に血栓ができやすい状態を引き起こします。

血清クレアチニンは、健康診断などでよく検査する項目のひとつであり、血清クレアチニンは筋肉量に影響を受けて、運動をよくされている方で筋肉量が多い場合には、血清クレアチニンが高い値になる傾向があります。

今回は、運動しすぎるとクレアチニンの値が高くなるメカニズム、クレアチニンの値が高くなるとどんな悪い影響があるのか、適切な運動量とはどのぐらいの運動量かなどを中心に解説していきます。

運動しすぎるとクレアチニンの値が高くなるメカニズム

クレアチニン(英語略称:Cr)は、クレアチンリン酸という筋肉が運動するための重要なエネルギー源であり、物質が代謝されたあとにできる老廃物です。

クレアチニンという物質は、腎臓でろ過されて尿として排出されるため、血中のクレアチニンの濃度が上昇していることは一般的に腎臓の機能が低下していることを意味します。

ただし、クレアチニンが腎臓機能の障害以外で筋肉量に伴って高くなる場合もあります。

クレアチニンの数値は、通常筋肉量に比例すると言われていて、運動や筋力トレーニング、高たんぱく食の摂取などの影響によって筋肉量が過剰に多い場合には、クレアチニンの数値も自然と高くなります。

個人ひとりひとりの血清クレアチニン値は、筋肉による産生量と腎臓からの排泄量のバランスで決まりますので、筋肉トレーニングによって筋肉量が増えればクレアチニンの産生が増えて、血清クレアチニン値が上昇する可能性があります。

基本的に、筋組織は運動することにより、微細な断裂と修復を繰り返しています。

筋力トレーニングなどの負荷が筋肉組織にかかると、よりたくさんの筋組織が修復されることで、筋肉は増強していくので、運動をいつもより多く実践した際には、自然とクレアチニンの産生量が増加するというメカニズムです。

クレアチニンの供給量は、個々の筋肉量だけでなく、実施する運動量によっても異なり、特に筋肉トレーニングなど無酸素運動でより多く作られることが知られていて、筋肉質であればあるほどクレアチニンが作られやすいと考えられます。

反対に、過剰に痩せていて筋肉量が少なくなっている場合には、クレアチニンの数値が低くなります。

一般的に、男性は女性よりも筋肉量が多いので、男性は女性よりもクレアチニンの数値が高くなりますし、高齢者よりも若年者においては筋肉量が多い傾向がありますので、クレアチニンの数値が高くなります。

クレアチニン
photo by Adobe Stock

クレアチニンの値が高くなるとどんな悪い影響があるのか

クレアチニンの数値が高い際に、大事なことは、「本当に腎臓病があるのか」ということであり、本当に腎臓病があるかどうかは、きちんとした精密検査をしてみないと判断できません。

クレアチニンの数値だけで腎臓の障害を測定するには不十分なため、採血や尿検査でeGFR、シスタチンC、尿タンパクなどの項目をチェックして、あわせて腎臓エコーなどを実施して総合的に評価します。

クレアチニン値は腎臓の働きだけでなく、体の全身状態を反映していると考えることが大切であり、異常値を認めた場合は超音波などの検査を追加して、治療すべき病態が起きていないかを速やかに調べて対処することが重要です。

クレアチニンは、腎臓の機能の低下や腎不全の指標となる数値であり、クレアチニンが少しだけ高い軽度異常の際には、まったく症状がありませんが、放置すれば知らぬ間に腎不全が進行して、最悪の場合人工透析となってしまう場合もあります。

年齢や性別にもよりますが、クレアチニン値が2.0-3.0mg/dl以上になると、身体のむくみや貧血、倦怠感など代表的な症状が出現すると考えられています。

腎機能障害は、有意な自覚症状が乏しいことも多いため、放置されることが非常に多く、症状が出た時には対応が遅いということもあり、一度悪化した腎臓は元通り回復しないこともありますので早期に異常を発見することが望ましいです。

クレアチニンの基準値は、男性なら0.8mg/dl、女性なら0.6 mg/dl程度とされていて、この数値が上昇すれば何らかの原因で腎臓の機能が低下している可能性がかなり高いと考えられますので、必ず専門医療機関を受診しましょう。

適切な運動量とはどのぐらいの運動量か

運動とは、時に行うスポーツだけではなく、日々の掃除や買い物など日常身体活動も「運動量」に含めることになります。

1日あたり、合計40~60分間程度かけて会話ができるくらいの強度を保ちながら行う歩行運動(8000歩程度が目安)を週に3回程度実施することで、心臓や血管を活性化させて動脈硬化を予防できる効果が期待できます。

初心者の方においては、いつまでも続けられそうなくらい楽にできて、汗がにじむかにじまない程度の運動を1回につき20分行い、続けて運動する場合は、15分以上座って休憩してから実施しましょう。

軽い強度の運動からマイペースに毎日少しずつ行って、慣れてきたら徐々に運動量を増やしていくとよいでしょう。

毎日簡単なストレッチ体操を無理なく実践しながら、身体の調子にあわせて歩数や歩くスピードを増減する、あるいは筋肉トレーニングの部位や種類を増やす工夫を行い、無理なく長続きできるように運動する習慣を作ることが重要です。

まとめ

今回は、運動しすぎるとクレアチニンの値が高くなるメカニズム、クレアチニンの値が高くなるとどんな悪い影響があるのか、適切な運動量とはどのぐらいの運動量かなどを中心に解説しました。

クレアチニンは、クレアチンの最終代謝産物です。

クレアチンは、筋肉のエネルギー源の一種で、アミノ酸から合成され、骨格筋に蓄えられていて、運動で消費されると、老廃物であるクレアチニンになって血液中に溶け込み、腎臓で濾されて尿と一緒に排泄されます。

クレアチニン(単位:mg/dL)は、性別や年齢、筋肉量や運動量によって基準値は変化しますが、男性で1.2、女性で1を超えると注意が必要であり、2や3まで上昇したら腎障害が隠れている可能性もありますので早急に病院受診しましょう。

激しい運動を無理に行ってしまうと、膝や腰などを痛めて運動が長続きしなくなり、結果的に不健康になってしまう場合もありますので、健康を目的として自分に合った運動量を発見して適切な運動習慣を継続しましょう。

広告

AUTHOR

甲斐沼 孟

甲斐沼 孟

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

クレアチニン