女性の約1割が貧血症状を抱えている?実は男性にも多い?貧血になりやすい人の特徴とは|医師が解説
知っているようで意外と知らない「貧血」について、医師が詳しく解説します。
貧血とはどのような病気か
赤血球の数値が基準値を下回ると、貧血の症状が現れることがあり、貧血という病気は、赤血球やヘモグロビンの減少により、体内の酸素運搬能力が低下する状態を指しています。
貧血の症状には、ふらつき、皮膚や爪の色が薄くなるなどを含めて多彩であり、子宮筋腫などに伴う鉄欠乏性貧血や再生不良性貧血、胃切除後の巨赤芽球性貧血などさまざまな原因疾患の存在が考えられます。
特に、鉄欠乏性貧血は、体内の鉄分が不足することで赤血球中に含まれるヘモグロビンが作成できなくなることで引き起こされる病気であり、貧血の中で最も疫学的な頻度が高い疾患として知られています。
常日頃から疲れやすい場合には、貧血に伴って酸素運搬能力が低下するため、体内の細胞が必要とする酸素の供給が不十分になっている可能性が考えられます。
また、貧血になると、酸素の運搬能力が低下するため、通常よりも少ない運動量で息切れが起こることがありますし、脳への酸素供給が不足するため、めまいや頭痛、失神などの症状が現れることがあります。
貧血になりやすい人とは
貧血で鉄欠乏状態に陥る理由は、大きく分類すると主に①鉄需要が増加する、②鉄供給が低下する、③鉄が喪失する この3パターンに分類されます。
貧血においては、自覚症状が乏しい場合もありますが、典型的な症状としては動悸、息切れ、慢性的な疲労感や倦怠感以外にも匙(さじ)状爪という爪が反り返って割れやすくなる、あるいは舌がひりひりして味覚障害を呈することなどが考えられまです。
特に、女性で子宮筋腫を患っている人は、貧血になりやすいと考えられます。
子宮筋腫とは、子宮の壁にできる良性の腫瘍のことを指していて、子宮筋腫は女性ホルモンの影響を大きく受けて巨大化することが知られており、女性ホルモンの分泌が盛んになる20歳~30歳前後で発症しやすくなります。
一般的には、子宮筋腫は月経量が多くなり、生理痛が増強するのに伴って、貧血になりやすいと指摘されています。
また、筋腫が巨大化すると月経の時以外にも下腹部痛、不正出血、腰痛、頻尿などの症状を合併することも経験されます。
子宮筋腫は発見されたらすぐに全例で治療をするわけではなく、症状が乏しいケースでは、特別な治療をしませんが、何らかの症状が認められる際には筋腫摘出術など手術治療が実践されることもあります。
女性の約1割が貧血症状を抱えていると指摘されている一方で、実は貧血自体は男性にも多く認められます。
特に、男性が貧血を呈する際には、その背景に大腸がんや胃潰瘍、十二指腸潰瘍など重大な疾患につながる病変が潜在していることも考えられますので、注意しましょう。
大腸がんの発生は、生活習慣と関わりがあるとされており、特に赤肉(牛、豚、羊など)や加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージなど)の摂取、飲酒、喫煙により大腸がんの発生するリスクが上昇します。
早期の段階では自覚症状はあまりありませんが、がん病巣が進行すると血便(便に血が混じる)、あるいは下血(腸管からの出血によって赤または赤黒い便が出る)などの症状が認められます。
また、胃潰瘍は、胃壁の欠損所見を示し、本邦では50歳前後の中年層世代に罹患率が高く、過労やストレスのみならず、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染、痛み止めの長期頻回内服などが原因となります。
日頃から過大なストレスを抱えている人の場合には、胃や十二指腸など消化器関連領域での病変を認められやすくなり、貧血症状が出現する場合もあります。
貧血の治療予防策は?
貧血症状を認める際には、適切に対処する必要があります。
貧血を予防するためには、まずは日々喪失される鉄成分を食事から確実に取り入れることが重要な観点です。
鉄分以外にも、ヘモグロビンの材料となるたんぱく質や鉄吸収の効率性を高めるビタミンC摂取を同時に実行すれば即効性のある貧血対策になります。
鉄もたんぱく質も豊富に含まれている代表的な食品としては、牛肉やレバー、カツオなどが挙げられます。
また、ビタミンCが豊富な食品や飲料としては、緑黄色野菜、果物、ビタミン入り飲料剤などが考えられまです。
さらには、赤血球が合成される際に葉酸やビタミンB12などが必要になることが知られていますので、葉酸の多いほうれん草やアスパラガス、あるいはビタミンB12が豊富に含まれるレバー、魚介類などを積極的に摂取するように努めましょう。
貧血では、普段の食事内容から鉄分を有効的に摂取することが重要であり、一つの目安として成人の場合には、1日あたりに食事から摂取する鉄量は男性で7mg、月経を有する女性では10mg(月経のない女性では6mg程度)が勧められます。
特に女性の場合には、元来貧血気味の方々が多く、女性ホルモンが不規則に乱れることもあるために、鉄分が不足しないように常日頃の食習慣のなかで鉄分を多く含むほうれん草などの野菜やビタミンC、タンパク質なども効率よく摂取することを推奨します。
貧血にならないための予防策は、主に栄養バランスの良い食事を摂取するだけでなく、適切な運動や快適な睡眠を心掛けることが重要なポイントとなります。
ウォーキングやジョギング、水泳などを含む適度な運動は、血液循環を促進し、酸素を運ぶための赤血球の数を増やして貧血を改善することができます。
また、睡眠不足は、体内の酸素不足を引き起こすことがありますので、1日に7〜8時間程度の適切な睡眠を確保することで、体内の酸素量を増やすことが期待できます。
貧血症状を認める際には、貧血の原因を調べて適切な治療を行う必要があります。
赤血球の数値が基準値よりも低下する貧血状態のなかには、鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏性貧血、葉酸欠乏性貧血など様々な原因疾患があります。
貧血の治療法には、まずは直接的な原因に応じた治療が必要であり、例えば鉄欠乏性貧血の場合は、鉄剤の摂取が有効ですし、ビタミンB12欠乏性貧血や葉酸欠乏性貧血の場合は、ビタミンB12や葉酸を補充することが必要です。
また、重症の貧血の場合は、輸血が必要な場合もありますし、腎性貧血などの場合にはエリスロポエチン製剤などが使用されるケースもあります。
いずれにしても、貧血の治療法は原因によって異なるため、心配であれば専門医療機関を受診して、専門医師の指示に従って適切な治療を行いましょう。
まとめ
これまで、貧血とはどのような病気か、貧血になりやすい人の特徴や治療予防策などを中心に解説してきました。
貧血症状が認められる場合には、血液が全身に正常に運搬されずに、様々な身体的な健康を害することにつながります。
貧血に関連する症状が有意に存在する際には、適切な医療機関を受診して早めに相談するように心がけましょう。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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