心の病気でも物忘れは起こり得る【認知症とは違う物忘れ】原因について臨床心理士が解説
「最近、物忘れが増えた」「年齢的に大丈夫なはずだけど、もしかして認知症?」と悩んでいませんか?物忘れは、さまざまな要因によって引き起こされます。物忘れで悩んでいる場合に考えられる心の病気についてご紹介します。
認知症は進行性の脳の病気であり、主な症状の一つに物忘れがあります。認知症にはアルツハイマー型認知症や血管性認知症など様々な種類がありますが、半数以上がアルツハイマー型認知症です。厚生労働省の資料によると、2025年に65歳以上で何らかの認知症にかかる方は、約5人に1人の割合になると予想されています。高齢化が進む中で、認知症はとても身近な病気である一方で、65歳未満で発症する若年性認知症の割合は低くなります。厚生労働省の若年性認知症支援ガイドブックによると、18-64歳人口における人口10万人当たり若年性認知症者数は、47.6人です。65歳以上は、約5人に1人がなるかもしれないと考えると、65歳未満は、約2100人に1人となります。2000人に1人の割合で発症すると言われている病気は、シェーグレン症候群やナルコレプシー等があります。ヨーロッパでは2000人に1人未満の罹患率の疾患を希少疾患とみなすので、その数は多いとは言えません。
物忘れが症状にある心の病気
物忘れといえば、「認知症」というイメージがありますが、実は他の心の病気でも物忘れは起こり得ます。例えば、物忘れが心の病気の症状となる場合、認知症の他に以下のような状態が考えられます。
1 注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意力や集中力の持続が苦手であり、言われたことを忘れてしまったり、聞き間違えてしまうことがあります。このような特性は生まれつきになりますが、ストレス環境下では特性が強く出ることがあり、いつもより集中できない、忘れっぽくなる可能性があります。
2 不安障害
過度な不安が続く不安障害では、不安や過度の心配から物忘れを引き起こすことがあります。不安が高まると、集中力が低下しますので、何かを忘れてしまったり、思い出せないことが生じる可能性があります。
3 うつ病
うつ状態にある人は、集中力や注意力が低下し、物事を覚えたり、思い出したりすることが難しくなります。また、不眠症状により寝不足状態だと余計に記憶力に影響を与えます。
4 PTSD(心的外傷後ストレス障害)
PTSDは、過去に経験した心的外傷に関連する強いストレス反応が持続し、日常生活に支障をきたす障害です。PTSDの主な症状は、トラウマ体験の再体験(フラッシュバック)、トラウマに関連する場所、人、活動を避ける回避行動、過度の興奮状態(不眠、イライラ、集中力の低下、過敏性)です。しかし、PTSDの影響による注意力や集中力の低下、思考の混乱、情報処理の困難さなどから物忘れが起こることがあります。もちろん、PTSDの人がみんな物忘れがあるわけではありませんし、物忘れがあるだけでPTSDであると判断することはできません。
5 解離性障害
解離とは、意識や記憶などに関する感覚をまとめる能力が一時的に失われた状態です。例えば、特定の場面や時間の記憶が抜け落ちる健忘や、自己や周囲の現実感が薄れる離人感など様々な症状があります。記憶が障害されて物忘れが生じる場合や、現実感のなさから言われたことを覚えられなかったり、忘れてしまったりすることがあるかもしれません。
物忘れが生じる可能性がある心の病気を紹介しましたが、物忘れは必ずしも心の病気の症状とは限りません。一時的なストレス、睡眠不足なども、物忘れの原因となることがあります。物忘れが継続的で問題となる場合は、医師や専門家に相談して詳しい評価を受けることをおすすめします。
物忘れの対策
物忘れをできるだけ無くしたい。そう考える人に勧めたい、物忘れ対策について臨床心理士の立場からお伝えします。
1 ルーティンを作る
定期的なルーティンや習慣を作ることで、情報の処理や記憶をサポートします。特定の時間に同じことを行う習慣を作ると、記憶の定着や思い出しも良くなるでしょう。
2 カレンダーやリマインダーを利用する
スマートフォンやパソコンを活用して、重要な予定やタスクをリマインダーとして設定します。リマインダーアプリやタスク管理ツールを使えば、簡単に予定を整理し、物忘れを防ぐことができます。
3 メモや手帳を使う
重要な情報ややるべきことをメモや手帳に書き留める習慣を持つと、記憶の負担を減らすことができます。手帳やメモアプリを使って、予定やアイデアを整理しましょう。
4 場所を整理する
よく使う物品や必要な情報を整理することで、物忘れを予防できます。物品を特定の場所にまとめる、ファイルやラベルを使って情報を整理するなど、整理整頓を心がけましょう。
5 集中力を高める
物事に集中するために、適切な環境を整えることが重要です。静かな場所で作業する、外部の刺激を最小限に抑える、集中できる時間帯を選ぶなど、自分に合った集中環境を作りましょう。
6 健康な生活習慣を守る
睡眠不足やストレスは物忘れを悪化させる要因となることがあります。十分な睡眠をとり、バランスの取れた食事を心がけ、ストレスを軽減するためのリラックス方法を見つけることが大切です。
7 記憶力を鍛える
記憶力を向上させるために、脳を刺激する活動を行うことが助けになります。パズルやクロスワード、もしくは記憶力を鍛えるゲームなど楽しみながらおこなえるものがオススメです。また、マインドフルネス瞑想には記憶力を向上させるという研究結果がありますので、瞑想を継続的におこなうことも有効です。
AUTHOR
石上友梨
大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。
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