海藻や魚介に含まれるヨウ素、摂りすぎてはいけない人って?ヨウ素と体の関わりを管理栄養士が解説
「ヨウ素」という栄養素の名前を聞いたことはありますか?日本人は不足することがないといわれている栄養素ですが、どのような食べ物に多く含まれているかご存知でしょうか。この記事ではヨウ素の役割や、不足・過剰摂取したときの体への影響、ヨウ素が豊富な食べ物について、管理栄養士が解説します。
甲状腺ホルモンのもとになるヨウ素
ヨウ素は体に必要なミネラルのひとつであり、主に甲状腺ホルモンの材料になる栄養素です。
甲状腺とは、のどの辺りにある指先ほどの大きさの臓器で、チョウチョが羽を広げたような形をしています。ここから分泌される甲状腺ホルモンには、体の発育を促したり、新陳代謝を高めたりする作用があります。
日本では「意識的にヨウ素を摂っている」という話はあまり聞かれませんね。ヨウ素は海藻や魚介類に豊富なミネラルであり、甲状腺ホルモンを作るのに必要な量はごくわずか。日本人がよく口にする食べ物の多くにヨウ素が含まれているため、日本人にとって摂取不足を心配する必要がない栄養素なのです。
ヨウ素を多少摂りすぎても、体内に調整機能があるため、過剰症を気にする必要もありません。
海外では海藻や魚介類を食べる習慣が少なく、ヨウ素欠乏が指摘されてきました。そのため海外の人々は、ヨウ素を添加した食塩を使用することで不足を補っています。
ヨウ素の不足・摂りすぎによる影響は?
海藻や魚介類を食べる機会が少ない海外の人には、ヨウ素不足による甲状腺機能低下症が見られることがあります。ヨウ素が足りなければ、甲状腺ホルモンの分泌量も減少します。すると代謝が落ちて、むくみや疲労感、体重増加、便秘、記憶力低下などの症状が現れるのです。
さらに、甲状腺にホルモンを作るようはたらきかける甲状腺刺激ホルモンが、脳から分泌されます。これが続くと甲状腺がはれて、甲状腺腫になることが多くあります。
橋本病など甲状腺に疾患がある人は、ヨウ素の摂りすぎに注意しましょう。ヨウ素は、多すぎても甲状腺ホルモンがうまく作られません。そのためヨウ素の過剰摂取も、甲状腺機能低下症や甲状腺腫を招きます。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるバセドウ病などの病気では、かつてヨウ素を摂らないように指導されていました。しかし先述のように、大量のヨウ素は甲状腺ホルモンを減少させる作用があるため、近年はバセドウ病の治療にヨウ素を使用することがあります。
※自己判断でヨウ素を制限したり摂取したりせず、必ず医師の診断を受けるようにしてください。
ヨウ素が豊富な食べ物
健康な日本人であれば、ヨウ素の摂取量を意識する必要はほとんどありません。なぜなら、日常で頻繁に口にする食品に、ヨウ素が多く含まれているためです。
ヨウ素が豊富な食品には、以下のようなものがあります。
- 海藻(昆布、ひじき、わかめ、もずく、海苔など)
- 魚介類(たら、ししゃも、さざえ、牡蠣など)
なかでも突出してヨウ素を多く含んでいるのが、昆布です。昆布そのものはもちろん、昆布を煮出した「だし」にもヨウ素が多く含まれます。そのため昆布だしや昆布エキスといった形で、多くの食品にヨウ素が含まれているのです。
例えば昆布だしを使った汁物、昆布だしを加えた卵焼きなどの料理、昆布エキスが入っためんつゆやだし醤油といった調味料、和風ドレッシングなど、身近な多くの食品に昆布由来のヨウ素が含まれています。
ヨウ素が多い意外な食品に、こんにゃくがあります。こんにゃく芋から作られているため、ヨウ素が多いようには感じられません。しかし実は、市販の黒色や緑色をしたこんにゃくの着色に、海藻が使われているのです。
ヨウ素を添加した卵は、コクがあっておいしいと人気ですね。これは鶏の飼料に海藻の粉末を配合することで、卵のヨウ素含有量を増やしています。
日本人は海藻や、昆布を加工した食品をよく口にすることから、ヨウ素不足になりにくいとされています。また体の調整機能がはたらくため、過剰摂取による健康への影響もほとんどありません。このように、健康な人であればヨウ素の過不足は心配ないでしょう。今後も栄養バランスのよい食事を心掛けてください。
【参考文献】
文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 「健康食品」の安全性・有効性情報「ヨウ素」
一般社団法人 内分泌学会「甲状腺機能低下症」
甲状腺疾患専門サイト「甲状腺とヨウ素」
甲状腺疾患専門サイト「甲状腺の疾患がある人は、海藻を食べてはいけない?」
AUTHOR
いしもとめぐみ
管理栄養士。国立大学文学部を卒業後、一般企業勤務を経て栄養士専門学校に入学し、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験して2022年に独立。食が楽しくなるレシピを発信するほか、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く