元サッカー日本代表・槙野智章さんが考える、アスリートがヨガを取り入れることの有用性とは

 元サッカー日本代表・槙野智章さんが考える、アスリートがヨガを取り入れることの有用性とは
Photo by Shoko Matsuhashi

日本屈指のDFとして日本やヨーロッパで活躍し、サッカーファンから厚い支持と人気を集める槙野さんは、日本代表として出場した2018年のW杯前からヨガをスタート。すると、身体的なパフォーマンスの向上はもちろん、精神的な効果も実感したといいます。メンタル面の変化、槙野さんが感じているヨガの魅力とは。

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ヨガでONとOFFのスイッチを切り替える感覚を身につけられた

──槙野さんがヨガを始められたのは6年前、当時は日本人でヨガを取り入れているサッカー選手はあまりいなかったようですが、ヨガを始めたときの第一印象は?

槙野さん:僕は2017年から本格的に始めたんですが、当時は2014年にW杯優勝したドイツ代表がヨガを取り入れていたことから、海外ではヨガを始める選手も増えていましたが、日本人選手ではまだほとんどいませんでした。僕も初めてヨガをやったのは代表チームの練習中、日本で先駆的にヨガを取り入れていた長友佑都選手から教えてもらったところ、スムーズに練習に入っていけたのが最初の印象でした。そこからもっとちゃんと習いたいなと思って、元々知り合いだった京乃ともみ先生にプライベートレッスンをお願いするようになって。レッスンの最後にとるシャヴァーサナでは、自分でもびっくりするほど深いリラクゼーションを味わえて、流してくれる音楽や香りの効果も相まって、何度も寝落ちしてしまったくらい(笑)。音楽もすっかり気に入ったので即座にダウンロードして、一人のときに聴きながらリラックスする時間も習慣になりました。

──普段の練習やトレーニングがハードなメニューだからこそ、ヨガのリラクゼーション効果がより一層深く感じられたんでしょうか?

槙野さん:そうだと思います。現役時代は基本的に、毎日かなりハードなトレーニングをしていたので、ヨガはリラクゼーションやクールダウン、リカバリーのほうに重きを置いてレッスンをお願いしていました。以前の僕は、強くなるためにはひたすらサッカーの練習をするしかないと思っていて、常に身体を動かして常にONの状態だったので、心身を休ませるリカバリー方法がよく分かっていなかったんです。そんななか、ヨガのポーズや呼吸法で身体を緩ませ、心や思考をリセットするリカバリー方法を知ることができたのは、メンタル面でもとても助けられました。現役中は試合と練習のめまぐるしい日々、ホテル滞在も多かったんですが、ヨガを初めてからは部屋で寝る前に音楽をかけながら呼吸法をやったり、一人になって心身をリラックスさせる時間をすごく大事にしていました。常にハイのままでいるのはやっぱり不自然ですし、ヨガでONとOFFのスイッチを切り替える感覚を身につけられたことは、僕にとって大きなベネフィット。大舞台や試合前に緊張を抑えて気持ちを落ち着かせたり、モチベーションも上げられたり、そうしたメンタルコントロールが以前よりも上手にできるようになったことも実感します。

槙野智章
ヨガと出会ったことで、メンタルコントロールが以前よりも上手にできるようになったと語る槙野さん。

──精神面のコンディショニングにも、大きなメリットを体感されたんですね。メンタル面でのサッカー×ヨガの可能性はどのように感じられていますか?

槙野さん:やっぱり、今はネット社会なので、現役選手はみんな自分の評判を気にしてエゴサーチをしたり、飛び交うニュースをチェックしてはファンがどう思っているか、ライバルがどうかなど、常にアンテナを張ってプレッシャーと闘っているんですよね。その上、試合に勝ったら相手チームからあれこれ言われ、負けたらサポーターからあれこれ言われ、と周りからの厳しい意見が止むことがない。そうして試合以外で闘っている部分もたくさんあるので、いかにリラックスする空間を作れるか、いかに心を整えてリカバリーできるか、そうしたメンタルトレーニングも重要で、それに特化しているのもヨガの醍醐味じゃないかな。選手以外にも、今は学生たちに向けたトークショーや講演会で話す機会も多いんですが、そこでもメンタルの鍛え方や整え方、「サッカー選手になること」のさらに先をイメージする大切さなども伝えているんです。僕の場合、プロになることはあくまでも通過点で、日本代表に選ばれてワールドカップに出るまでを目標にしていたんですが、そうするとモチベーションもグンと高まって、アンチの声やプレッシャーとの向き合い方も変わってくる。自分はもっと強くなって、大きな目標に向かっているんだと思えると、周りの声や悩み事もちっぽけなものに思えますし、自分軸を強く持ちながらいろんなことチャレンジできると思うんです。僕自身がそうだったので。

──槙野さんの実体験から語られると、とても説得力があります! トップアスリートはもちろんですが、一般的にヨガや呼吸法、瞑想やマインドフルネスを取り入れると、悩み事がリセットされて集中力も高まる、目標がクリアになるからこそ次なる高みに向かって進んでいける、といった声も多いので、そういった側面でもヨガがサッカー選手のメンタルサポートに役立ちそうですね。

槙野さん:本当にそう思います! プロの選手だけでなく社会人リーグ、今プロを目指している人たち、学生たち、それはサッカーに限らずいろんなスポーツで、ヨガのそうした効果がパフォーマンス力を底上げすると思うんです。サッカーだけをひたすら練習したり、筋トレで力強さを追求するだけでなく、ヨガで柔軟性やしなやかさを育てられると確実にパフォーマンス力もコンディションもUPして、怪我の予防にもなる。メンタルトレーニングにも役立つヨガの効果って、たとえサッカーを辞めて違う分野で活動するにしても絶対に必要だから、もっといろんな分野でヨガが広まってほしいなって思いますね。僕自身も、多忙な日々だからこそ今後もヨガを続けていきたいですし、いま社会人リーグの監督もしているので、チームの練習メニューにもヨガを取り入れたい。その習慣が広がっていって、さまざまなスポーツ業界でヨガが当たり前に取り入れられるような動きに繋がればいいなと思っています。

プロフィール|槙野智章さん

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槙野智章さん

1987年生まれ。2010年、サンフレッチェ広島の中心メンバーとしてリーグ戦全試合出場を果たし、Jリーグベストイレブンに選出。出場した34試合で警告や退場は1度もなく、フェアプレー個人賞も受賞。2010年12月からドイツの古豪1.FCケルン、2012年から浦和レッズ、2022年からヴィッセル神戸、日本代表としてロシアW杯などでも活躍。2022年末に現役を引退後、サッカー指導・解説者、タレントとしてなど幅広く活躍。

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Text by Ayako Minato
Photos by Shoko Matsuhashi

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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