「褒めれば伸びる」は嘘?本当の成長に必要なものとは|臨床心理士が解説
子ども・後輩・部下などを育てるとき、「褒めて伸ばそう!」と考えていませんか?実は、何でも手当たり次第に褒めていると、かえって成長を阻んでしまうかもしれません。今回は本当に伸ばすための褒め方と注意点について解説します。
「褒めれば伸びる」は嘘?
子どもの教育や部下の育成によく出てくる「褒めて伸ばす」というワード。でも、褒めれば褒めるほど能力や意欲を削ぐ可能性があります。
「褒めるだけ」では成長できない
スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授は、子どもを対象として実験を行いました。
まず、子どもたちは2チームに分けられました。1つは「褒められチーム」で、もう1つは「改善チーム」です。
どちらのチームも同じように数学の問題に取り組むよう指示されましたが、終了後「褒められチーム」の子どもたちが問題の出来に関わらずご褒美をもらう一方で、「改善チーム」の子どもたちは「今回は解けた問題が少なかった」「もうちょっと頑張るべきだった」などの改善点を指摘されました。
この取り組みを数週間継続したところ、「褒められチーム」の子どもは難しい問題を「自分には無理」とすぐに諦めるのに対し、「改善チーム」の子どもは「もう少し頑張ってみよう」と粘り強く挑戦するようになりました。
成長するためには、今の自分より背伸びして努力する必要があります。しかし、闇雲に褒めていると「今の自分には無理だから」と諦め、成長のチャンスを逃すようになります。(*1)
「褒めるだけ」ではモチベーションが保てない
私たちのモチベーションには「外発的モチベーション」と「内発的モチベーション」の2種類があります。
・外発的モチベーション:自分の外にある要因が高めるモチベーション(褒められる・昇給する・昇進するなど)
・内発的モチベーション:自分の内側から発生するモチベーション(「〇〇になりたい」「〇〇してみたい」など)
褒められるのが当たり前になると、「褒められる」という外発的モチベーションがない環境では行動しなくなってしまいます。自主性が損なわれてしまうのです。
本当に伸ばすためには適度なハードルが大切
成長するためには、今の自分にはほんの少し難しいハードルを乗り越える機会を提供することが大事です。しかし、「できないことを諦める人」や「褒めないと動けない人」はなかなかハードルに直面できないもの。
ここでは、ハードルにチャレンジする意欲を高める2つの方法をご紹介します。
行動を促進する「DARE」
「DARE」は行動を促す4つの要素の頭文字をまとめたものです。1つ1つ見ていきましょう。
■D(Defusion:脱フュージョン)
「どうせ無理」「自分にはできない」など行動を邪魔する思考を手放すこと。自分の役に立たない思考の言いなりになる必要はないことを伝えます。
■A(Acceptance of discomfort:不快の受容)
行動するときに浮かぶネガティブな感情を受け入れます。ネガティブな気持ちを言葉や数字(不安80%、恐怖10%…など)にしたり、絵に描いたり、「モヤモヤくん」と名付けたり…と、第三者にも共有できる形で表現すると受け入れやすくなります。
■R(Realistic goal:現実的な目標)
自分の状況に合わせた現実的な目標を設定します。
・スキル不足→不足しているスキルの習得を目標にします。
・大きすぎる目標→大きな目標に至る途中に小さなゴールをたくさん設けます。
・時間やお金が足りない→それらを解消する方法を見つけることをゴールにします。
■E(Embracing values:価値を確認する)
達成すべき目標について「どんな意味があるのか」「何が大切なのか」などを整理し、自分が行動する理由をはっきりさせます。
ちなみに「DARE」は「挑戦」や「勇気」を意味する英単語です。成長するには勇気をもって踏み出すことが必要なのです。
プロセスを褒める
外発的モチベーションに頼るのを避けるためには、その人の行動や能力ではなく、結果を出すために行動した「プロセス」に焦点をあてて褒めるように意識しましょう。
・努力
・技術
・戦略や計画
などを褒めれば、「自分自身の力でハードルを乗り越えられた!自分ならできる!」と感じられ、より高いハードルを前にしても意欲的に挑戦できます。(*3)
参考文献
*1 アンジェラ・ダックスワース著 神崎朗子訳(2016)やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける ダイヤモンド社
*2 ラス・ハリス著・武藤崇監訳(2012)よくわかるACT 明日からつかえるACT入門 星和書店
*3 リー・ウォーターズ著・江口泰子訳(2018)ストレングス・スイッチ 子どもの「強み」を伸ばすポジティブ心理学 光文社
AUTHOR
佐藤セイ
公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。
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