タブー視されてきた障がい者の性|TENGAの取り組み「able! FACTORY」から学べること

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able! FACTORY(株式会社TENGA提供)

株式会社TENGAでは「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンを掲げており、障がいのある人向けのアプローチも行っている。具体的には、身体障がいのある人がTENGAを使用する際の補助具である「カフ」の開発などだ。後編では知的障がいのある人へのアプローチや障がい者の就労支援、特に障がいのある女性への性のタブー視が強い背景などについて話を聞いた。

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知的障がいのある人へのアプローチ

——カフ(補助具)は主に身体障がい者向けのアプローチですが、知的障がいなど教えることが難しい障がいへのアプローチは何かされていますか。

弊社では「able! Project」という障がい者支援を行っており、その中で就労継続支援B型事業所(※)「able! FACTORY」を展開していて、所長の木村から事前にヒアリングした内容をお伝えします。

※一般企業での就労が困難な障がい者が軽作業などの就労訓練を行うことのできる作業所

知的障がいのある方の親御さんからは、TPO関係なくマスターベーションをしてしまうことの悩みを伺うことが多く、ルールの一つとしてTENGAやirohaを使わせたいけれども、どう使っていいのか自分もわかっていない、というご相談をいただくことが非常に多いとのことです。

比較的軽度の知的障がいの方は、自分で買いに行くこともできるので、木村から購入できる場所や使い方を説明して解決できているようです。

重度知的障がいや自閉傾向の強い方は、対話を通じたコミュニケーションが難しいことが多いので、丁寧に伝える必要があります。親御さんからご相談いただくことが多いので、親御さんから状況を聞きつつ、実際にTENGAの商品を見てもらって、使い方をご説明し、理解も深まった上で、ご本人と親御さんと木村とで直接お話しています。

実際にサンプルをいくつか持ち帰っていただいて、家の中において、どこでならプライバシーを確保して使用できるかを本人と親御さんとで決めて、実際に使用してもらいながら、ご本人が気に入ったアイテムが定まっていくような流れです。

男性の場合は親御さんからの相談も多いそうですが、女性の場合は親御さんが学校や福祉関係者に相談したうえで、特別支援学校の先生や主治医の方、専門の相談員の方が木村へご相談するケースが多いそうです。

女性の場合は挿入アイテムですと、腟のどこまで挿入していいのかの判断が難しく、事故に繋がってしまうおそれもあるので、多くの場合は当てて使用するものをご案内することが多いとのことです。

——B型事業所を立ち上げたことにはどのような背景があるのでしょうか。

障がい者の性に関する啓発活動を行っているNPO法人ノアールさんや、障がい者支援団体や当事者と話しているうちに性以外にも働く環境に関する課題を伺いました。具体的にはできる作業が限られていたり、工賃が低い傾向にあったりということです。

そこで、弊社代表の松本がTENGAはものづくりの会社でもあるので、その特性を活かして働く面でも何かしらサポートできないかと思ったことがきっかけです。

「able! FACTORY」では衣料品への印刷や、パソコンのリペア、通販サイトの運営、「able! TENGA」のシュリンクフィルム包装の最終工程などを担っています。「able! TENGA」は1個の購入ごとに、100円が障がい者支援の寄付金となる仕組みです。「物を作って人に喜ばれる」という一連の流れを通して、働く喜びを実感できるような場所にしたいという思いを持って運営しています。

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able! TENGA(株式会社TENGA提供)

なぜ女性の障がい者への抑圧は特に強い?

——月刊TENGAの「身体障がいがある方の性生活・恋愛事情に関する調査」を拝見すると、女性に対して家族からのタブー視が強いことが印象的でした。タブー視を解消していくためにはどのようなことが必要でしょうか。

近年、少しずつ変化してはいるものの、依然として社会にある性に関するタブーは残っていると思います。障がいの有無にかかわらず、性が尊重されるべきものという認識を社会が持つことが大事だと考えています。

月刊TENGAの同調査内にて、慶応義塾大学の岡原正幸先生にお話をお伺いした中で「障がいがある人=病気=療養中」「療養中の人=性的欲求はない」といった認識が世の中には無意識にあるのではないかとお話ししていただきました。ゆえに「障がいのある人の性的欲求」という話をすると、びっくりしてしまう人が多いのではないかと思います。

これまではそもそも「障がい者の性」というテーマで議論がされにくかったり、支援者側も性の問題をどう取り扱うかを習ってなかったりして、障がい者の性自体がないことにされやすかったのではないでしょうか。「障がい者の性」が可視化され、大事な観点の一つだという認識が深まっていけば、世間の捉え方も変わっていくのではないかと考えます。

——調査では「彼氏ができたときに嫌そうな顔をされた」「スカートを履くことを許してもらえない」といった声も紹介されていましたが、「女性は性に対して控えめであるべき」といったジェンダーの視点での抑圧も関係するのでしょうか。

そうですね。それに女性に対する「性にオープン=誰とでも性行為OK」といった誤解は珍しくなく、我々TENGAのPRとして働く女性スタッフもこういった誤解を受けてしまうことがあります。フラットなトーンであっても性に関して話しづらい部分もあると思います。偏見や誤解が複雑に組み合わさって、障がいのある女性に対する抑圧に繋がっているのではないでしょうか。

ここからは仕事で性に関するテーマに多く触れてきた個人としての意見なのですが、特に女性への抑圧が強いのは、妊娠リスクの心配が大きいのではないかと感じています。

月刊TENGAにて、『新成人と親世代1000人の「恋愛・結婚・性生活」意識調査』を行った際、「何歳になったらセックスしていいと思うか」という質問に対して、一番多かった回答が18歳くらいだったんですね。これは調査結果には反映していないのですが、自由回答として「責任が取れるようになったら」が多かったことが印象的でした。

「責任」って抽象的な言葉ではあるんですけど、具体的には「万が一子どもができた場合に、育てられるか」といったことを示していると思うんです。

これを障がいのある人たちに置き換えると、「障がいがある=介助=誰かの庇護の下にあるから責任を取れないと思う」というイメージになっていて、だからお子さんが誰かと恋愛や性愛に発展するような機会を避けたいと考えている親御さんは多いのではないかと感じました。

障がいのある方は介助などもあり、親御さんとの距離が生まれにくい状況であることも少なくないので、子どもの立場からすると、過干渉だと感じることがあるのだと思います。調査でもそのような声が当事者の方から挙がっていました。

一方で、親の立場からすると「子どもに幸せになってほしい」という思いで、話をしたり制限したりしているのですよね。どちらかが「正しい/間違っている」というわけではなく、双方どちらの気持ちも想像できる部分があるので、「こうしたらいいだろう」とスッキリ回答することはできないのですが……。今回の調査で「こういうことをされて嫌だった」と、声を上げてくれた当事者の葛藤はどこかでお伝えしなきゃいけないと、そんな思いを持っていました。

——現時点では、そういった悩みや葛藤もなかなか相談できる場もないのかな……と思うのですが、TENGAさんでは、「able! project」にて、障がいのある人が気軽に性の相談ができる窓口を設置を予定されているとのことですよね。どんな悩みが届くことを想定されていますか。

一つは障がいゆえの悩みです。肢体不自由で「セルフプレジャーするにも、体勢が維持できないから維持するためのアイテムがあったら嬉しい」「逆にアイテムを固定する何かがあったら助かる」など、技術的な内容も含めた相談を想定しています。

もう一つはコミュニケーション関連での悩みです。たとえば、肢体不自由ですと、介助者の人に自分の取りたい体勢や、したいこと、買ってきて欲しいものを伝えなきゃいけませんが、性の話をしづらいのでそういう場合はどうしたらいいのかといった悩みなどです。

現在でも「able! FACTORY」には、障がいのある人から相談される立場の人の相談も届いています。たとえば、各市区町村にある相談センターに障がいのある人が相談する際に、中には性の悩みもあって、相談された側がどう回答していいかわからないというご相談をいただくことがあります。

そこで相談事例を知って回答の参考にされたり、TENGAやirohaの製品を知って、一つの解決策の参考にされたりするようです。福祉職向けの研修会で「able! FACTORY」所長の木村が登壇するなど、公的機関や福祉機関との連携も増えています。

【プロフィール】西野芙美(にしの・ふみ)
株式会社TENGA国内マーケティング部部長。
1989年生まれ。早稲田大学文化構想学部で史学、文学、哲学等を学び、卒業後は人材紹介会社、出版社での勤務を経て2017年に株式会社TENGAに広報として入社。現在はTENGAカンパニーが展開するブランド、プロジェクトのPRを統括している。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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