【ないことにされてきた「障がい者の性」】TENGAが提示する「セルフプレジャー」という選択肢

 【ないことにされてきた「障がい者の性」】TENGAが提示する「セルフプレジャー」という選択肢
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昨今、少しずつ性に関することがオープンに語られるようになり、性に関する話をタブー視する空気が少しずつ解消されていることを感じる。しかし、「障がい者と性」というテーマについては、そもそも考えたことがない人も少なくないのではないか。セクシャルウェルネス商品の研究開発・販売や、性に関する正しい知識や情報の啓発・普及を行っている株式会社TENGAでは、身体障がい者の支援活動や、障がい者就労支援も行っている。同社に「障がい者と性」をテーマに話を聞いた。

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性別・年齢・セクシュアリティ・障がいの有無を問わず性を楽しんでいい

株式会社TENGAでは「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンを掲げている。TENGAといえば、男性用マスターベーション用アイテムを思い浮かべる人も多いだろうが、「誰もが」というのは男性だけを指しているのではない。性別・年齢・セクシュアリティ・障がいの有無を問わず、「性を楽しみたい」と思う全ての人が性を楽しめる世の中にしていきたいという思いを持っている。

同社では、性的欲求は食欲や睡眠欲とともに人間の根源的な欲求だと捉えており、尊重されるべきものだと考えている。

しかし世間的には「性は隠しておくべきもの」、食欲や睡眠欲と異なり、満たされなくても死ぬわけではないと「ちょっと取るに足らないもの」という認識をされがちだ。それゆえに、性に悩みがあっても相談しにくかったり、性を楽しむこと自体に罪悪感を抱いたりする人が多いのではないか——。

もちろん、全ての個人が性的嗜好や個人の性体験などをフルオープンにすることを推奨しているわけではない。タブー視して隠すのではなく、一人ひとりが自らの性を肯定できる世の中にしたいという思いから掲げているビジョンである。

株式会社TENGAの「カフ(自助具)」
「カフ(自助具)」(株式会社TENGA提供)

「マスターベーション・セルフプレジャーを自分の意思でできること」の意味

——ビジョンで掲げているように、貴社では障がいのある人の性についてもアプローチを行っていますよね。どういった背景から始まったのでしょうか。

2007年に障がい者の性に関する啓発活動を行っているNPO法人ノアールの代表・熊篠慶彦さんからお話をお伺いする機会がありました。障がいのある人たちは、コミュニケーション手段としての性を充実させにくかったり、性的欲求自体がないものかのように扱われていたり、そういった議論自体が避けられている状態であることを知りました。そこで弊社でも何かできることはないかと連携を始めたことがきっかけです。

——2007年には男性用マスターベーションアイテムの補助具である「カフ」を開発されていますね。

ノアールさんの作業療法士の方にご協力いただき、共同開発をしました。障がいがあって握る動作が難しい方に向けて、握らなくてもTENGAを固定してご自分でアイテムを使えるようになっています。

カフについてはお客様相談センターからご依頼(※)いただくことができて、ご依頼がある度に一人ひとりの特性に応じて、調整して制作してご提供しています。女性用プレジャーアイテムのirohaの補助具も試作段階ではあるのですが、制作を進めているところです。

——「セルフプレジャーが選択肢の一つにある」ということは、どのような効果があるとお考えでしょうか。

以前、身体障がいのある男性の方から「マスターベーション・セルフプレジャーは自分の意思で始められて、自分の意思で欲求を満たせて、自分のタイミングでやめられる。そういうところが良い」とお話を聞かせていただきました。

たとえば男性でしたら、射精介助のサービスもあってそれを利用すればいいのでは、という意見を当事者以外から聞くこともあります。しかし、「自分の意思でできる」というところが大事なポイントで、介助されるのではなく自分の意思でできるからこそ、自分を肯定できる感覚を得られる部分もあるのではないかと考えています。

障がいの有無を問わず、セルフプレジャーは自分の心身の状態を確認できたり、性的欲求をコントロールしたり、自分自身を喜ばせたりという効果があります。そのような意味でも「セルフプレジャーすることを自分で選択できる状態」が大事なのではないかなと思っています。

男性ならマスターベーションして当然?

——女性の自慰行為は「女性に性欲があるのも当然」という認識とともに、「セルフプレジャー」という言葉が使われているように、セルフケアの意味でも広がっているように感じます。一方で男性の自慰行為=性欲解消の意味がまだ強いように感じます。

男性にとってのマスターベーションは、仕方なくするとか、ネガティブな欲求を処理するとか、セックスする相手がいないからなどと見られがちですが、気分転換や自分を癒す行為としてのセルフプレジャーもあるとは思います。

「TENGA Global Self Preasue Report 2021」にて、5か国(米・英・仏・西・独)5000人を対象(性別は限定せずに)に調査を行いました。2020年・2021年の新型コロナによる閉塞感がある状況下において、セルフプレジャーがセルフケアに役立ったかを質問したところ、およそ3人に2人が「役立った」という回答でした。

アメリカだと68%が「役立った」と回答していました。性別を分けていない調査なので、男性だけとは言いづらいのですが、アメリカは日本よりも価値観がマッチョな部分もあるんですよね。TENGAが2016年に参入するにあたっても当時は「男性のマスターベーションはモテない人がする」といった言説が日本よりも強いくらいで。だからTENGAの参入障壁も高かったんです。

そういった意識の強かった国でも68%が「セルフケアに役立った」と回答してるのは、少しずつマスターベーションの認識に変化があるのだと感じています。

——国内においてはイメージの変化を感じることはありますか。

月刊TENGAにて、約2000人の日本人男性に性生活や性意識について調査を行いました。

その中で世代別のマスターベーションの経験率について質問したのですが、Z世代ですと、マスターベーションをしたことがない男性が17.3%もいました。一つ上のミレニアル世代では9.2%、バブル世代においては2.7%のみでしたので、Z世代に関しては大きな割合を占めていることが特徴です。

なぜZ世代だけマスターベーションの未経験率が高いのかを泌尿器科医の先生にお伺いしたところ、一つはおそらく上の世代にも元々性欲がそんなになかったり、マスターベーションに関心がなかったりする男性もいたけれども、「男性ならマスターベーションをして当たり前」という圧力が強く、したくないけれどもしていた人が一定数いたのではないかとお話されていました。

——「男性ならこうあるべき」という価値観が変化しているかもしれないのですね。

そうですね。ただ、マスターベーションとの付き合い方は一人ひとりが選べればよいと個人的には思っていて、ただの性欲処理という人もいますし、自分の体や心の状態を知るための手段という人もいます。「男性だから/女性だから、こうあるべき」ではなくて、性との向き合い方に選択肢がある状態が望ましいと考えています。

障がいのある方に性的欲求があることも当然ではあるものの、「性との向き合い方の多面性」という認識がもっと広がっていくと、「障がい者の性」へのタブー感も減っていくのではないかとも思います。

【プロフィール】西野芙美(にしの・ふみ)
株式会社TENGA国内マーケティング部部長。
1989年生まれ。早稲田大学文化構想学部で史学、文学、哲学等を学び、卒業後は人材紹介会社、出版社での勤務を経て2017年に株式会社TENGAに広報として入社。現在はTENGAカンパニーが展開するブランド、プロジェクトのPRを統括している。
 

※「障がいと性」に関する取り組み https://tenga-group.com/about_us/stories/1262/ 【お客様相談センター】TENGA:0120-0721-38(フリーダイヤル)iroha:0800-1000-168(フリーダイヤル)平日10:00~19:00(土・日・祝は除く)

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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