人に悩みを打ち明けられないのはなぜ?臨床心理士が解説する「恥の感情」との向き合い方

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人に悩みを打ち明けられないのはなぜ?臨床心理士が解説する「恥の感情」との向き合い方

石上友梨
石上友梨
2023-01-06

心の悩みを打ち明けることはハードルが高いと感じていませんか?欧米諸国と比べると、日本のカウンセリング普及率は低いと言われています。映画の中でカウンセリングに行くシーンが出てくるのを見たことがありませんか?欧米諸国では、カウンセリング文化が浸透し、気軽に悩み相談をするし、周囲にもカウンセリングに行っていることをオープンにしています。しかし、日本では、友人に心の悩みを打ち明けることや、心療内科やカウンセリングを利用していることをなかなか周囲に話せないという人も多いのではないでしょうか?

日本は「恥の文化」・・・?

「恥の文化」という言葉を聞いたことがありますか?アメリカの文化人類学者ルース・ベネディクトが著書「菊と刀」の中で、日本の文化は世間体や外聞を基準とした「恥の文化」だと表現しました。一方で、欧米の文化を内面的な良心を基準とした「罪の文化」と述べています。この本は1946年と古いものではありますが、現在も変わらない部分があるでしょう。恥の文化では、行動基準が他者となるため、意識は外側に向いて、「人からどうみられるか」「どう思われるか」に基づいて思考し、行動しやすくなります。これは、島国という閉鎖的な環境、災害が多い国という背景も関係していそうです。協調性を高め、他者との対人関係を良好に保つこと、災害時でも秩序だった行動を取る上で必要なことです。しかし、恥の意識が強いと「素の自分を見せたらどう思われるだろう」「嫌われたり、弱いと思われたくない」等と感じやすくなり、本当の自分を人に見せるのは難しくなります。

「恥」の感情

心の悩みを話しづらいのは、相談することで、「弱いと思われる」「めんどくさいと思われる」「人が離れていく」等、人からどう思われるのか気にしている場合もあるでしょう。それには、「心の病は恥ずかしいこと」といった思いが隠れているかもしれません。相談するということは、自分自身で認める、受け入れることでもあります。また、「我慢は良いこと」「人に頼らずに頑張るのは良いこと」といった価値観が影響しているかもしれません。

お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所の岩壁茂先生は「軽いレベルの恥は健康的なもので、行動を律して規範やルールを守らせる働きをします」と言います。恥の感情があるからこそ、集団生活を円滑に行うことができます。しかし、強すぎる恥の感情はどうでしょうか。ヒューストン大学のブレネー・ブラウン氏は「恥とは自分の欠陥ゆえに愛や居場所を得るに値しないと思い込む、激しい痛みの感情または経験である。そのため恥は、つながりが絶たれることに対する不安や恐怖を生み出す」と言います。

また、岩壁先生によると、恥と罪悪感の違いは、罪悪感は特定の具体的な行動に対して生じ、周囲との関係修復を目指すとすれば、恥は理屈抜きの身体感覚として襲ってきて、恥を感じる対象が具体的な行動だけではなく、その行動をした「自分という存在そのもの」にも及び、そして、恥は関係から遠ざかる孤立の方向に向かいがちだと言います。

悩みを相談することは、自分の弱さや欠陥をさらすことになるから、そうすることで愛されない、居場所がなくなる、人が離れていくと感じるのかもしれませんね。強い恥を感じることで孤立の方向に行けば、ますます人に心の悩みを打ち明けなくなることでしょう。そうすると、人に相談するよりも「心の中に溜める」「自分で解決する」といった方策を取りやすくなるでしょう。例えば、感情を紛らわすための自己対処として、お酒やギャンブル、買い物やゲームなど、刺激が強いものに頼りやすくなります。

悩みを打ち明けるのは良いことなのだろうか?

それでは、抵抗があっても誰かに相談するのが良いのでしょうか?筆者は、必ずしも相談すべきでもなく、自分に合った方法を見つけるのがいいと考えます。しかし、恥の意識が強く、常に他者が行動基準になっている場合は心配です。常にアンテナを外に張って疲労してしまいますし、自信や自己肯定感も育ちにくくなります。そして、ストレスを我慢する方法はオススメしません。感情は否定したり無理やり抑えたりすることでより大きく、より長く続きます。誰しもが心の悩みを抱えており、カウンセリングや心療内科等の通院は特別なことではありません。むしろ病気を重症化したり、長期化しないために、世の中を生きやすくする、自己理解を深めるための手段でもあります。

恥の感情による負のサイクルから抜け出すためには、セルフ・コンパッションが鍵となります。悩みを抱えているのは自分だけではないという気づき、人との繋がりを感じて孤独感から抜け出すこと、自分を自分で大切にすることです。(セルフ・コンパッションについては、こちらの記事も参考にしてください)そして、恥は対人関係の中で生じる感情だからこそ、抜け出すきっかけも対人関係の中で生まれやすいです。素の自分を少しずつ見せ、自分を受け止めてもらえたという感覚を得ることで恥の感情が和らぎ、自分で自分を受け入れる力にもつながることでしょう。

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石上友梨

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。

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