【世界死亡率3位の疾患】気が付いていない人多数?実は怖い肺の生活習慣病「COPD」を医師が解説

 【世界死亡率3位の疾患】気が付いていない人多数?実は怖い肺の生活習慣病「COPD」を医師が解説
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肺の生活習慣病と呼ばれているCOPD。日本では、40歳以上の8.6%、530万人を超える人が罹患していると言われていますが、実際に治療を受けている人はごくわずか。気づかないうちに重症化してしまうケースも多いそう。そこで、呼吸器専門医である三浦メディカルクリニック院長の井上哲兵先生に、COPDの原因や症状、治療法などを教えてもらいました。11月16日(毎年11 月第 3 水曜日)は「世界COPDデー」、この機会にCOPDについて学んでみませんか?

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世界での死亡率は第3位、喫煙が最大の原因となる進行形の肺の病気

COPDとは“Chronic Obstructive Pulmonary Disease”の略で、日本語では「慢性閉塞性肺疾患」。これまで「肺気腫」や「慢性気管支炎」と呼ばれてきた病気の総称で、進行性の肺の病気です。

現在COPDの認知度は低く、平成25年から始まった【国民健康づくり運動プラン(健康日本21)】ではCOPDの認知度を平成34年度までに80%に引き上げる目標が掲げられました。しかし今もなお、COPDの認知度は低いのが現状です。世界での死亡率は第3位(日本WHO協会2012年データ)日本では10位(厚生労働省人口統計2014年)と全体的に死亡者数は年々増加傾向にあり、高齢化社会に向けて今後10年間でさらに30%増加すると推定されています。

「COPDの最大の原因は、喫煙です。たばこの煙などの有害物質を長期に渡って吸い続けると、空気の通り道である“気管支”が炎症をおこします。すると、気管支壁(きかんしへき:気管支の壁)が厚くなったり、痰が溜まりやすくなり、気管支が狭くなり、空気の通りを悪くしてしまいます。また、酸素と二酸化炭素を交換する“肺胞”と呼ばれる肺の中の組織が破壊され、酸素をうまくとりこめなくなります。その結果、息を吸うことはできても、吐き出すことが困難になり、息苦しさを感じるようになるのです」と井上先生。

喫煙と聞いて、「今は禁煙しているから大丈夫!」と思う人もいるかもしれませんが、過去の喫煙も、発症の原因になるそう。

「肺は再生臓器ではないため、一度悪化した機能を元通りに回復させることは困難です。例えば、現在60歳で、20歳~50歳まで1日に20~30本、毎日喫煙し、50歳を過ぎてからは禁煙しているとしても、20歳~50歳までの30年間で傷つけられた肺の機能が、禁煙によって回復するということはないのです」(井上先生)。

では、どのぐらいの喫煙量から発症のリスクが高まるのでしょう?

「COPDを発症する喫煙量は個人差が大きく、設定が難しいのですが、“Pack -Years”という喫煙指数を参考にすることができます。Pack -Yearsは、1日のタバコの箱数×喫煙年数を表すもので、1日1箱の喫煙を20年間続けた “20 Pack -Years(1pack×20 Years)”の人で約20%、1日3箱の喫煙を20年続けた“60 Pack -Years(3pack×20 Years)”の人で約70%が発症すると報告されています」(井上先生)。

たばこ
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喫煙は本人だけでなく、周囲の人にも悪影響を及ぼし、身近な人が吸っているたばこの煙=副流煙を吸うことでも、発症の可能性があります。

「また、COPDに罹患した家族がいる場合は、副流煙によって症状が悪化する危険があるので注意が必要です。『本人の前では、たばこを吸っていない』『換気扇の下でしか吸わない』と言われることがありますが、喫煙すると肺の中にたばこの煙が残り、呼吸のたびに副流煙となって吐き出されるため、周囲への影響がゼロにはなりません。COPDの予防や、症状の悪化を防ぐには、家族全員の禁煙が望まれますね」(井上先生)。

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COPDの初期症状チェック

✓日常生活の少しの動作で息切れしやすい
坂道や階段を上るときに息切れしやすい
咳や痰の症状が3週間以上続いている
黄色や粘り気のある痰が出る
呼吸をするとゼイゼイ・ヒューヒューと音がする

息切れ
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これらの項目に、あてはまるものが一つでもあれば、COPDの可能性があります。

「クリニックを訪れる患者さんは、咳や痰が3週間以上続いて心配になってくる人が多いです。風邪の症状と似ているため『風邪をひきやすい体質だから』と思われることもありますが、咳や痰が3週間以上続くのは、風邪ではない可能性が極めて高いです。COPDを放置して病気が進行すると、呼吸不全をきたし、在宅酸素療法が必要になったり、夜間在宅人工呼吸器が必要になります。そうなると、月の医療費が高額になり、経済的な負担も大きくなるため、気になる症状がある場合は、かかりつけ医や呼吸器科を早めに受診しましょう。治療を早く開始できれば、そのぶん進行を遅らせることができ、重症化を防ぐこともできます」(井上先生)。

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COPDの検査と治療法

COPDの検査では、スパイロメーターという器具を用いた呼吸機能検査が行われます。息をいっぱいまで吸い込み、一気に吐き出す、という検査方法で、最初の1秒間に何%の酸素を吐き出すことができるかを調べます。1秒間に吐き出せる酸素量が70%以下の場合かつ喫煙歴がある人はCOPDと診断され、肺癌などの合併症がないか胸部CT検査等の精密な検査が行われます。

スパイロメーター
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「検査の結果、COPDと診断された場合は、禁煙と共に、吸入療法による治療が行われます。吸入療法は、空気の通り道を広げて呼吸をラクにする2種類の気管支拡張剤や吸入ステロイド剤を1日1~2回吸入する治療法です。症状によっては、内服薬が追加されることもありますが、治療の基本は、吸入療法になります。また、風邪やインフルエンザウィルスにかかると、症状が急激に悪化し重症化することがあるので、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン、新型コロナワクチンの接種が望まれます」(井上先生)。

適度な運動を心がけ、呼吸法をマスター

COPDの予防には、禁煙が必須ですが、体力を維持し呼吸機能を高めるために、適度な運動も大切です。特におすすめなのが、ウォーキング。

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「四肢の筋力を落とさないことが、日常生活を送る上でとても重要になります。理想は、1日1万歩のウォーキングですが、運動習慣のない人が、いきなり1万歩を歩くのは大変。そこで、現状を把握するために、まずは1日の歩数を万歩計などで計測し、その歩数の1.5倍を目指します。例えば、1日の歩数が3000歩なら、3000×1.5=4500歩を目指し、そこから少しずつ増やして、1万歩に近づけるようにしましょう。1万歩というのは、1日の合計歩数なので、数回に分けて歩いても大丈夫です。また、歩くスピードは息が切れない程度がベスト。家族や友人と会話をしながら、無理なく歩くことができるスピードを心がけましょう。特に、坂道や階段を上るときに息切れを感じやすい患者さんは、過度な運動は禁物です。心臓に強く負担がかかったり、運動後の栄養摂取が適切できない場合、逆に筋肉量が落ちてしまうケースもあるので、決して無理をしないようにしましょう」(井上先生)。

食事は、どんなことに気をつけたらいいでしょう?

「日頃から栄養バランスのいい食事をきちんとることが大切ですが、COPDが重症化すると、肺が大きく膨らみ、横隔膜がお腹側に押し下げられます。すると、横隔膜のすぐ下の胃が圧迫され、食べることができる量が少なくなってしまいます。また、息苦しくなると、頑張って呼吸することになり、重症な方は健康な人の約10倍、呼吸のためにエネルギーを使うことになります。つまり、食事量が少なくなるのに、呼吸消費エネルギーが増えていくという反比例が生じ、痩せてしまうことに。重症化して体重減少傾向がある場合は、カロリーを十分にとることが大事です。少量でもハイカロリーなマヨネーズやオリーブオイルなどから、しっかり脂質をとるのが効率的ですが、糖尿病や脂質異常症など、ほかの病気との兼ね合いもあるので、かかりつけ医に相談しましょう」(井上先生)。

また、一時的に呼吸が苦しくなったときには、呼吸法が役立ちます。

「呼吸が苦しいというのは、水の中に沈められている感覚に等しく、様々な苦痛の中でもトップレベルと言われています。あまりに苦しくてパニックになり、適切な呼吸法をとれず、さらに苦しくなるという悪循環を招くことも。息苦しくなると、息を吸うことに意識が向きますが、それでは換気効率を得られず逆効果に。苦しいときこそ、吐くことを意識するのが重要で、COPDでは『口すぼめ呼吸法』が推奨されています。やり方は“ウ”の音を出すときのように口をすぼめ、4~6秒かけてゆっくり息を吐きます。息を吐ききったら、2~3秒かけて鼻から息を吸います。これをくり返し行うことで、息苦しさを緩和できます。とはいえ、苦しくなってから、急に行うのは難しいので、平時から呼吸法をマスターしておく必要があります。深くゆっくりとした呼吸と共に行うリラックス系のヨガも、呼吸法の練習やCOPDのリハビリに適していると言えますね」(井上先生)。

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教えてくれたのは…三浦メディカルクリニック院長 井上哲兵先生

2009年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業。2009~2011年、同大学病院に研修医として勤務後、同大学呼吸器内科診療助手、同大学内科(呼吸器)大学院等を経て、独立行政法人国立病院機構静岡医療センター呼吸器内科医長、聖マリアンナ医科大学呼吸器内科非常勤講師として勤務。2019年に、三浦メディカルクリニックを開院。現在、生まれ育った三浦市の唯一の呼吸器専門医として、地元に根づいた医療に尽力している。

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取材・文/野口美奈子

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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