【体の仕組みを学ぼう】腹筋についてどのくらい知っている?腹筋の解剖学的構造
ヨガジャーナルアメリカ版の人気記事を厳選紹介!腹筋は(文字どおり)あらゆる動きの根幹をなす筋肉である。ヨガにも日常生活にも役立つはずだ。
腹筋を賢く安全に使うために
皆さんは「強い体幹」と聞いたら、即座に見事に割れた腹筋を思い浮かべるだろうか。そういう人は少なくない。「体幹と聞くと、目に見える部分や、腹部の強さを指すといわれている筋肉、つまり、シックスパックとも呼ばれる腹直筋に注目しがちです」。こう話すのは、ニューヨークを拠点にヨガ講師として活動し、『Meta Anatomy:A Modern Yogi’s Practical Guide to the Physical and Energetic Anatomy of Your Amazing Body』(邦訳未刊)の著者でもあるクリスティン・レアルだ。
しかし、実は体幹とは全身の健康の鍵をにぎる体の中心構造である。腹部にあるすべての筋肉に加え、腰と骨盤の筋群が一体となって、全身を安定させ続けるほか、脊柱を保護するのを助けている。たとえ腹直筋がくっきり割れていなくても、体幹は全身の構造に関わる仕事を数えきれないほどしている。体を直立させ続けるために腹筋がしている仕事に敬意を表すには、体幹を構成する部分について学び、注意深く動けるようにするのが一番だ。
腹筋の解剖学的構造
ヨガ講師で『The Yoga Engi neer’s Manual:The Anatomy and Mechanics of a Sustainable Practice』(邦訳未刊)の著者、リシェル・リカードは、腹部には主に4つの筋肉があると説明している。
●腹直筋
胸骨から恥骨まで走行している1対の長い筋肉で、胴体を前屈させるのを可能にする。「シックスパック」や「エイトパック」が現れるのは、腹直筋を横断している帯のような腱・腱画(けんかく)があるため。
●腹横筋
腹筋のなかで最も深層にある筋肉。この筋肉が胴回りを包んでいるために、脊柱が支えられて安定する。
●腹斜筋
内腹斜筋(ないふくしゃきん)は体側から斜め上に走行し、外腹斜筋(がいふくしゃきん)は体側から斜め下に走行している。「腹斜筋のように反対方向に走行する筋肉では、互いに拮抗して働くことによって腰椎を安定させています」とリカードは説明する。左右両側にあるふたつの腹斜筋が1組になって、体幹の屈曲と圧縮と側屈を助けている。また、腹斜筋は回旋運動に関わる筋肉でもあり、体幹をねじることを可能にしている。
全身を支える構造
クリスティン・レアルによれば、「解剖学の重要な法則はあらゆることがつながっていること」だという。
また、リシェル・リカードは「一般的な考えとしては通常、腹筋を脊柱の筋肉であるとは考えません」と言う。しかし、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋は、腰椎と腰筋膜につながっている。それらが一体となって、体の動きを安定させるのを助けながら、腹部の臓器を支える役割や、脊柱の曲線を保つ役割を果たしている。
ヨガのほとんどのポーズも含めて、全身を動かすときには、体全体が協調して働く必要がある。ワシントンD.Cで理学療法士とヨガ講師をしており、Yoga Anatomy Academyを創設したアリエル・フォスターによれば、このことは特に腹筋に当てはまるという。
「腹部の筋群は、呼吸器を正常に保つために横隔膜と連動して働く必要があります。さらに、腰を安定させるほか膀胱の働きを制御し排尿を円滑に行うために骨盤底筋と連動する必要があり、腰椎を安定させて強い体幹を生み出すために多裂筋と連動する必要があるのです」とフォスターは説明する。フォスターの言葉を借りれば、このような構造がひとつでも正常に機能しなかったり、その役割を果たさなかったりすれば、足並みが揃わない共同作業のようになってしまうという。
覚えておくべき重要な事実は、腹筋は私たちが基本的な動きをしている間、一日中ほぼずっと「働いている」ということだ。カラスのポーズを支えているときや舟のポーズに入るときだけ仕事をしているわけではないのだ。ヨガをしているときも、座ったりしゃがんだりしているときも、単に郵便受けまで歩いているときも、体幹の筋肉は一体となって胴体を安定させているとフォスターは言う。私たちはカラスのポーズやプランクなどをするときには頻繁に体幹についてあれこれと考えるが、猫のポーズのような穏やかなポーズによっても体幹は活性化する。そして、腹部の全筋肉が一度に活性化するポーズのひとつに三角のポーズがある。このようなポーズは腹筋の強化に役立てることもできる。
ウッティタートリコナーサナ(三角のポーズ)を例にとってみよう
リシェル・リカードはこう話す。「三角のポーズは普通、腹筋を重視したポーズには含めませんが、実は腹部のすべての層が働いています。収縮させるべき筋肉とその場所に注目してみると、実に複雑なポーズなのです」。
三角のポーズでは、脊柱が横向きに倒れて、肋骨が腰より低い位置にくる。このように体を側屈させている間ずっと、腹斜筋はバランスを保つために働き続けなければならない。また、腹斜筋は脊柱を回転させて、あのように胸郭を広く開く役割を果たしている。リカードは「腹斜筋は胴回りを安定させながら、同時に胸郭を上向きに回転させているのです」と語っている。
また、リカードによれば、ほとんどの人の股関節は三角のポーズでは十分に開かないはずだという。少なくとも、前の脚の膝をずらさないかぎり股関節は開かないし、その動きは危険だという。「だから、このポーズの象徴とも言える広く開いた胸部を生み出すために、胸椎がねじれる必要があるのです」。ふたつの腹斜筋がこの動きを助けている。
一方、腹横筋と腹直筋は脊柱をニュートラルに保つのを助けている。腹直筋の上部の繊維が収縮することによって、胸郭の前面をへそのほうに引き下げ続けているのに対して、腹直筋の下部の繊維が伸展することによって、腹横筋が下腹部を圧迫して腰の筋群に抵抗をもたらしている。
三角のポーズでは、腕を下に伸ばして手をすねかブロックにのせている間に、この腕に体重をかけてしまう傾向がある。そうしないために、クリスティン・レアルは腕を下に伸ばす前にマット前方に伸ばすことをすすめている。こうするとふたつの腹斜筋が拮抗して働いて(つまり一方が収縮して一方が伸展する)、胴回りに長さが生まれる。この感覚が得られたら、手をすねかブロックにのせて体を安定させよう。反対側に移るときには、腹斜筋を働かせながら体を引き上げて最初の姿勢に戻ろう。
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