交通事故重傷者の約3割が精神疾患を発症する?臨床心理士が解説する【交通事故直後のメンタルケア】
交通事故で重傷を負うことは、誰にでも起こりうる「つらい出来事」です。日本の研究によると交通事故重傷者のおよそ3割が、約1ヵ月後にうつ病やPTSDなどの精神疾患を発症すると言います。研究結果によると「事故時に生命への脅威を感じた人・恐怖の記憶が強かった人・入院時の心拍数が高かった人ほど精神疾患を発症しやすい傾向」だったといいます。筆者も先日交通事故に遭い、事故直後に意識的にメンタルヘルスのケアを心がけました。その時の体験も含めて皆さんに共有したいと思います。
つらい出来事が起きた時の反応を理解する
筆者は職業柄、つらい体験時にどのような反応が起こるかを知っていました。どのような反応が起こるのか理解していることで、過度に心配したり囚われたりせず、適切な対処を行うことができます。
事故直後は、頭がぼーっとして動けなくなったり、痛みや恐怖を感じなくなったりします。現実感が薄れること、記憶が曖昧になること、事実を否認することが起こりやすくなります。また、恐怖感とともに動悸や呼吸が速くなる、冷や汗のような生理的な反応があらわれる場合もあります。筆者は、事故直後数分間は頭が真っ白になり動けず、その後は感情や痛みを感じられず、人から話しかけられた際にやけに冷静に振る舞っていたことを覚えています。
メンタルケアで意識したこと
筆者が事故直後に意識的におこなったことを紹介します。もちろん状況の違いや、負傷の程度、個人差など、交通事故直後にどのような対応を取るのが「正解」という答えはありません。しかし、つらい出来事の後にどのような反応が起こり得るのか、そしてどのような対処法があるのか理解しておくことは、精神疾患を予防することになります。良かったら参考にしてください。
まずは、自然な呼吸を意識しました。事故直後は自律神経のバランスが崩れて呼吸が変化している可能性があるためです。そして、解離を防ぐために「グラウディング」をしました。グラウディングとは、足の裏でしっかりと地面を踏みしめ、何かと接している感覚を意識することです。また、運が良く、心配して様子を見守ってくれていた人がいました。見ず知らずの筆者に対して優しくしてくれる心の温かさや手の温もりを意識した時に涙が流れてきました。このように「人のつながり」「他者からの思いやり」を意識したことはメンタルヘルスにおいて重要だったのではないかと振り返ります。また、一通りの処置が終わり、安全な場所に移動した後に、「怖かったこと」など気持ちを吐き出しました。無理に吐き出すことよりも、安全な場所で安全な相手に対して話したいことを話すのがいいでしょう。
事故後、日常に戻ってからは、今まで当たり前に出来ていたことができない気分の落ち込みや無力感、 事故の起こった原因を自分に求めることによる自責感などが生じました。自責感については、他者の意見を聞いてみたところ、「筆者が原因の確率は1%だ」と言われたため、自責傾向が過度に強くなっていた可能性があります。一人でぐるぐると考えていると視野が狭くなりやすいため、他者の意見を聞いてみましょう。また、過去の後悔を止めることも大切です。筆者は、「あのとき、あの道を通らなければ良かった」等と過去についての思考が何度も浮かび、その度に「これは考えても仕方ない」「気分が落ち込むだけ」と思考を流し、出来る家事をやる、SNSを見るなど、別の行動に切り替えていきました。
急性ストレス障害について
トラウマとなる出来事から1ヶ月以内に以下の症状が続く場合は急性ストレス障害と診断されます。
・侵入・再体験
・回避
・過覚醒
・解離
例えば、事故の体験がフラッシュバックとして突然思い出されたり、悪夢として見たりして当時の感情や感覚が戻ってくる「侵入・再体験」や、事故を思い出すきっかけや関連したことを避ける「回避」、不眠やイライラ、警戒心が強くなるなどの「過覚醒」、感情の麻痺や、ぼーっとして集中力できない、現実感のなさ、事故の詳細が思い出せないなどの「解離」がみられます。
もし読者の方で、急性ストレス障害の症状がある場合は医療機関を受診してください。
AUTHOR
石上友梨
大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。
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