【ヨガ講師と医師が共同開発】注目の最新メソッド!疲弊脳を“健幸脳”に変える「心療ヨガ」とは?
ヨガのポーズを行わず心身を健康な状態に導く、新感覚のメソッドが「心療ヨガ」。考案者であるヨガ講師の齋藤一紘先生と齋藤真由美先生、そして医師の横倉恒雄先生にメソッドの考え方や心療ヨガが心身に与える効果をうかがいました。
手技による施術とヨガの呼吸法で、心身をニュートラルに
―――「心療ヨガ」とはどのようなメソッドなのか教えてください。
齋藤一紘先生(以下、斎藤先生):ポーズを行うヨガとは違い、心療ヨガはマンツーマンの施術で心身を整えるメソッドになります。どのように整えるかというと、施術者が手技による筋膜リリースや腱引きをしながらストレッチを施し、体を緊張のない本来の状態に戻していきます。腱引きとは、腱を押すのではなく指をスライドさせて局地的なストレッチをかけて、筋肉の動きを滑らかにしていく技法です。
施術は脱力した状態で行いますが、その手助けとなるのがヨガの呼吸法です。呼吸によって力みを手放せる他、呼吸を意識することでいかに普段の呼吸が浅いか、体が緊張状態にあるか自覚できると思います。また心療ヨガでは、自分の心身を自分でケアできる状態を目指しているので、痛みなどの原因を伝え、不調を抱えている人に多い姿勢の乱れを矯正し、関節に負担の少ない歩き方、立ち方、座り方も指導しています。
―――ポーズをするヨガとの共通点はありますか?
斎藤先生:体をゆるませながら自分の内側を眺め、マインドを瞑想状態に近づけていくのは一般的なヨガと同じです。そうすると意識が敏感になり、心身の疲労に気づきやすくなります。また自立を促す点も一般的なヨガに通じるところで、自分で自分を労わり癒せるようになることを大事にしています。
―――心療ヨガが、フィジカルとメンタルにもたらす効果とは?
斎藤先生:心療ヨガは、病院では「異常なし」と言われる体の慢性的な痛みや不調の改善が期待できます。現代人は運動不足や姿勢の乱れから筋肉や腱が硬くなり収縮しているので、フィジカル面では筋膜や腱をほぐして伸ばすことで関節の可動域を広げ、血流を良くして肩凝りや腰痛などを和らげる効果が。メンタル面では、手で体に触れることで脳に心地良い刺激が伝わり、高ぶっていた感覚やエネルギーバランスが整うと心の揺らぎが改善します。触れられることで鈍っていた五感が正常に働くようになれば、疲れていたことや頑張り過ぎていた状態に気づき無理をしなくなります。
医療機関で提供される、医師が認めたメソッド
―――ポーズ中心のヨガとは違う心療ヨガは、どのようなきっかけで考案されたのですか?
齋藤真由美先生(以下、真由美先生):10年程前、私が初めてハワイでヨガリトリートを開催したとき、利用した施設のオーナーから身内の女性に妊活ヨガをしてほしいと頼まれました。しかし当の本人はヨガにまったく興味がない様子。ヨガを無理強いするのは良くないと思い、オリジナルのマッサージで体をほぐし、冷えを和らげて差し上げたところ喜んでもらえて。それを見ていたリトリートの生徒さんから、「そのマッサージを教えてほしい」と言われたのが始まりです。ハワイ語で「愛」を意味する言葉が「マナ」。愛をもって体に触れることで人は癒され、整うと思いマナチューニングと名づけました。
―――その後、マナチューニングが心療ヨガとして提供されるようになった経緯とは?
真由美先生:転機は、横倉クリニック院長の横倉恒雄先生との出会いです。マナチューニングの噂を聞いた横倉先生から、「ぜひハワイのリトリートに参加したい」と連絡をいただいて。先生はヨガ経験者でしたが参加したレッスンが自分に合わず、初めてお会いしたときに「ヨガは嫌いなんで」と言われてしまって。ところが施術後、マナチューニングには「脳科学に通じるものがある。すごくいい」と言ってもらい、後日ハワイまで足を運んでもらいリトリートに参加していただきました。
―――現在は、横倉クリニックで診療にくる患者さんに心療ヨガを提供していますね。
真由美先生:横倉先生がハワイのリトリートに参加した際、「マナチューニングをクリニックの患者さんにやってみたら?」と提案していただいたのがきっかけです。先生は心療内科の医師なので、これを機に「心療ヨガ」と名称を改め、先生の医学的知見を加えて現在の形になりました。クリニックでは院内の一角にヨガマットを敷き、診療前の患者さんに個々の不調に沿った施術を15分行い、心身を整えてから診療に臨んでいただいています。患者さんからは「心がオープンになった」「肩までしか上がらなかった腕が上がるようになった」といった声をいただき、リラックスした状態で治療に集中していただいています。ほかの医療機関でもヨガを行う機会は増えていますが、ヨガを医療の動線上で行うのは画期的な試みだと思います。
心地良い刺激を与えて疲弊脳を「健幸脳」に。それが健康への近道
―――横倉先生にお聞きします。心療ヨガを監修するにあたり、どのような医学的知見を加えましたか。
横倉恒雄先生(以下、横倉先生):健康的な脳の状態(健幸脳)と、疲弊している脳の状態(疲弊脳)という、私が学会で提唱した脳科学の考え方があります。それを一紘先生と真由美先生に理解してもらい、脳を健康的な状態にする方法を施術を通して形にしてもらいました。
―――先生が提唱する健幸脳、疲弊脳とは、具体的に脳がどのような状態をさしますか?
横倉先生:現代人は多くの情報を脳で処理し、この過剰な情報がストレスの一因になっています。食事にしても健康に良い食べ物を知識として取り入れて食べており、体に良い、悪いを舌の味覚として感じていない人は多く、五感ではなく情報ベースで生活しています。人はストレスを感じると、最初に五感の感覚器と体性感覚器で感知して脳に伝わります。すると交感神経が反応して血圧が上昇しストレスに対して戦闘モードになり、次に緊張を和らげようと脳が副交感神経を働かせると防御反応を起こり、動悸や血圧が落ち着きます。ストレスを小さく感じられると副交感神経が働きやすく、このような働きが正常に行われる脳の状態が「健幸脳」です。反対に情報を処理する脳がオーバーヒートしてしまうとレべル1のストレスを数倍に感じてしまい、交感神経の緊張が持続。この状態を「疲弊脳」と呼び、体や心に様々な不調が表れます。
―――医学的に見て、「体に触れること」は脳にどのような効果がありますか?
横倉先生:心療ヨガでは、医療で提供している五感療法、体感療法と呼ばれる治療を筋膜や腱をほぐす施術を通して行っていきます。感覚器は脳と直結しているので、触れることで心地良く感覚器を刺激すると脳がリラックスして自律神経も整い、自然と健康になる能力が回復します。また体がほぐれて肩凝りや腰痛によるストレスが緩和し、体が楽になれば鈍っていた五感の機能が回復。心地良さを感じやすくなると脳へのアプローチも高まります。
―――医師としての視点から、ヨガに期待することを教えてください。
横倉先生:ヨガに期待するのは、予防や健康科学の部分です。私は茶道を嗜みますが、茶道で言えばお茶の銘柄やお茶碗の知識だけあっても茶道を理解したことにはならず、主人とお客の波長が合ったり、感覚を研ぎ澄ましたりたりすることが大事。医療も数字ベースの目に見えるエビデンスだけでなく、目に見えないものへのアプローチが大切なのです。目に見えない五感などの感覚やマインド、さらには脳への心地良い刺激を生み出せるヨガは、対処療法ではなく根本的な治癒効果が高いと考えます。ヨガは医療に足りない部分を補ってくれるものだと確信しています。そして心療ヨガはヨガという枠を飛び越えているものだと思うので、より大きな効果効能を生み出す可能性があると考えています。
忙しいときほど体に触れて、自分に意識を向けて労わる習慣を
―――最後に、忙しく疲れを溜めやすい現代女性へメッセージをお願いします。
真由美先生:日本人は他者を優先し、自分を酷使する傾向があるように思います。そして当たり前のように呼吸ができて、明日も健康に過ごせるという感覚があるから、自分を愛することを後回しにしがち。自分に意識が向いていないと疲れに鈍感になり、どんどん疲弊していきます。手で体に触れていく心療ヨガは、自分に意識を向ける手助けとなるメソッドです。自分でもその手で体に触れたり、自分の名前を呼んで体をハグしたりして、今の状態を見つめてあげると疲れを溜めにくくなるはずです。
教えてくれたのは…
考案者(ヨガ講師):齋藤一紘先生
医療社団法人健康外来サロンセラピストトレーナー、ヨガ講師、スクールコンサルタント。コンテンポラリーダンス、モダンバレエ、クラシックバレエ講師の経験を生かし、SG Yoga Schoolを夫婦で主宰。海外リトリート、スクール&スタジオコンサルティングを中心に都内で活動する他、心療ヨガの個人・少人数でのプライベートセッションを行っている。また日本マインドフルネス協会の元理事であり、瞑想スタジオのプロデュース、瞑想講師の養成講座を開催している。
考案者(ヨガ講師):齋藤真由美先生
医療社団法人健康外来サロンセラピストトレーナー、ヨガ講師、ライフスタイルアドバイザー。SG Yoga School主宰。横倉クリニック内の健康外来サロンで心療ヨガを提供し、医師も認めるヨガ講師として2020年4月より心療ヨガインストラクター講座をスタート。横倉恒雄医師の五感療法・体感療法の考え方と、自身の施術を伝え、医療とヨガの新しい融合の拡大に取り組んでいる。
考案者(医師):横倉恒雄先生
横倉クリニック院長。日本大学医学部卒、慶應義塾大学医学部産婦人科入局、脳下垂体内分泌学研究で学位取得。東京都済生会中央病院に日本初の「健康外来」を開設し、聖路加国際病院理事長・日野原重明氏に師事する。更年期と加齢のヘルスケア学会にて「健幸脳」「疲弊脳」の論文を発表。脳疲労に関する著書多数。
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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