【高校の授業にヨガという選択肢をVol.4】カリキュラムがない授業から学生が感じてくれた変化
愛知県立豊橋西高校で2022年4月より始まったヨガの授業。週3コマ、年間105コマという莫大な授業時間数の中で、ヨガを通して何を伝えるか、カリキュラムがないまっさらな状態から作り上げるヨガの授業とその反応について、お話しします。
真っ新な状態たから作り上げる「ヨガの授業」
前回の記事では、ヨガを高校にどうやって取り入れてもらったのかというお話を書かせていただきました。
愛知県立豊橋西高校では、きっかけを頂いてから2年間という準備期間を経て、ようやく今年(2022年)4月より授業がスタートしているわけですが、初めての試みということは教科書もなければカリキュラムもない。そして、前々回の記事にも書きましたが、最初からヨガをやったことがある学生は全体の1割。
そんな状況下、
・1年間、学生にとってどんな授業をしていくのがいいか
・初めてやるヨガを好きになってもらえるか
・105コマを通して何を伝えるの?
ヨガインストラクターを養成するわけでもないので、いかにヨガを自分ごととして捉えてもらえるか。
まるで大河ドラマの脚本でも書くかのような気持ちで、1年間のカリキュラム作りを行いました。
入り口は違っても出口は同じ
事前にとったアンケートでヨガに対する意識は異なったけれど、「学校」という教育機関で私が担当する授業の受講生は2023年の3月をもって高校を卒業します。進路はみんな違っても「高校生ではなくなる」という、その出口は同じということにフォーカスを当ててみました。
進学であれ、就職であれ、高校卒業後の「進路」を決めるのは全員に共通すること。その進路を決める時ってどうしていたんだろう?
ちょっと視点を変えて、カリキュラムを考えるために、同世代の友人、複数人に協力してもらい「高校生の時に知りたかったこと」「進路を決めるきっかけになったこと」をインタビューしてみました。
・高校生の時に知っていた職業が少なかった
・選択肢が減らないようにいい学校(大学)に行けばいいかと受験した
・自分のやりたいことや好きなことより、目の前の選択肢で一番良さそうなものを選んだ
・高校生の時なんて自分のことを全然わかってなかった
などなど、いろんな意見や回答が出てきた中で、
”やる前から自分には無理って諦めた選択肢もあった”
という心にグサッとくる言葉や
“大人が楽しそうに仕事をする姿がかっこよくて今の仕事を選んだ”
という進路を決める決定打となる意見を出してくれた友人もいました。
教員ではないという立場を最大限に生かす
これはあくまで私個人の考えですが、ヨガを学校で教えるのは別にヨガインストラクターじゃなくても教えられると思っています。ヨガは誰にでもできるものだから、体育の先生じゃなくても国語の先生だって、数学の先生だって、ヨガを学びさえすれば学生に教えることは可能です。
でも、あえて教員ではないヨガインストラクターが授業を担当するのであれば、“教員ではない”ということを最大限に生かしたい。自分の立場でしか、伝えられないことを学生に伝えたい。”
そして豊橋西高校は、【総合学科】なので【普通科】とは異なるもっと広い視点、自分の人生の生き方を、自由に描ける学校。
私が「ヨガ」に出会うまで知らなかったことと、出会ってから知ったこと、そして周りのいろんな職業に就く友人たちが高校生の時に知りたかったことを、ヨガのポーズや哲学を通して、学生に伝える。そんなカリキュラムを作りました。
シルシアーサナ(三点倒立)を通して学生が掴んだ心の変化
カリキュラムは作ったものの、決めたことよりもリアルな声が一番大事。学生から上がった声はできるだけ採用し、学生と一緒に授業を作り上げていく。(そうでもしないと15歳差のジェネレーションギャップは埋まらないし、机上の空論を押し付けることは学生に必要とされていない。)
授業の中で取り上げるつもりのなかった「三点倒立やりたい!」という声が学生から出てきたとき、29名いるクラスの中でどれだけがポジティブにやりたいと思うか、怖いと感じたり、出来ないと感じた気持ちを素直に表現できる子がいるか、それともその気持ちに蓋をして我慢してチャレンジする選択を取るか。ポーズが出来る出来ないより、授業として成り立つかどうかを不安に思っている私自身とも向き合いながら、お互いに心の変化や素直な気持ちに気づくとてもいい機会を学生が作ってくれました。
ちょうどこのシルシアーサナをやる前に、ヨガ哲学の中の、アヒムサ(非暴力)、サティヤ(正直)について、自分が思う暴力的なことや自分に対してかけてしまっている暴力的な言葉、否定的な言葉がないか、本当はこんな風に思っているのに周りに合わせてしまうことや、自分の気持ちに嘘をついてしまうことがないか、日常生活の“あるある”をシェアしていました。
シルシアーサナを一つの挑戦とした時に、
・やりたくない!
・逆転することが怖い
・失敗するのを見られたくない
・自分には出来ない
と思っている感情や
・私なら絶対にできる
・勢いつけて蹴って足あげちゃおう!
など、みんな自分のいろんな感情や思考の癖に出会うことができました。
ポーズとしてできた子もいるし、できなかった子ももちろんいますが、この授業が終わった後に”もう一回、シルシアーサナにチャレンジさせてほしい!!”という直談判のような感想を書いてくれた子や、”いつも自分にはできないと思ってチャレンジすることなんてしたくないと思ってたけど、みんなにも怖いとか失敗したくないという気持ちがあることがわかって、失敗しても一回くらいやってみようかなという気持ちになってきている。”という感想を書いてくれた子もいます。
「やる前から無理って諦めた」ことが一度や二度ある私が、これからいろんなことにチャレンジして、自分の夢を切り開いていく子に、ヨガを通して伝えられるのは自分が今までに経験したことがあることだけ。経験したことないリクエストが学生から来たら、一緒に経験をして、一緒に心の変化をシェアしていく授業を続けていきたいと思っています。
AUTHOR
白井美穂
セルフケア・ヨガ講師として活動中。会社員時代に”ネフローゼ症候群”という難病を患い、ヨガと季節のセルフケアを学び始める。その後ヨガ講師へ転身、初心者にもわかりやすいレッスンを行う。2021年度より愛知県内の高校にてヨガの授業を開始し、現在は県内2校で授業を担当。10代にヨガを通して体と心を整えることの大切さ、自分の心と向き合いやりたいことや目標に向かって進んでいくことの大切さを伝えている。
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