「クリエイティブ」ってどんなこと?ダンスアーティスト/教育者サンダークリフさやかさんに聞く|前編
<日常に埋もれた感覚を掬い上げる>をキーワードに、さまざまな領域で活動される方へのインタビュー企画。大人になると、いつのまにか「当たり前」として意識の水面下に沈んだ感覚たちを、一旦立ち止まり、ゆっくりと手のひらで掬い上げる試みです。第2回目は、ダンスアーティストであり教育者のサンダークリフさやかさんにお話を伺いました。企業や大学、小学校から幼稚園、保育園などで様々なクリエイティブプログラムやワークショップを実践し、ヨガ指導者の経験も持つさやかさん。クリエイティブとは何か、そして身体との繋がりについて探っていく前編です。
おうちのなかでクリエイティブに
ーー親子でアート、グローバル教育について学べる場としてCreative Kids Academyを共同で設立され、オンラインでプログラムを展開していらっしゃいますよね。そのきっかけについて教えてください。
オンラインでのクラスを始めた2020年は、息子が小学校に入学するタイミングでした。その時にちょうどコロナ禍になってしまって。つい昨日までの幼稚園生活から、いきなり入学式もなく山ほどプリントを渡される日々が始まり…。だから勉強との出会いが非常に良くないというか、学びに対してネガティブなイメージが付いてしまうなと感じました。そういった個人的な焦りと、子どものクラスは前からやっていたこともあり「私に何かできないかな?」と考えました。
おうちにみんな閉じこもらざるを得ないのなら、親子でクリエイティビティに触れることを始めたら、きっとお母さんたちもその必要性がわかってくるのかなと思って。”クリエイティブなおうちの中”というものができると、学校教育だけに子どもたちを任せるのではなく、おうちの中で何かを起こすことができるんじゃないかと思いました。
子どもの学びの場が学校だけでなく、しかも技術を習得する習い事だけでもなく。おうちの中でのお母さんとのやりとりや、お父さんとの遊びの中で、子どものひらめきや「これやってみたい!」という興味関心、好奇心を出発にするような時間が取れないかなと思ったことがきっかけです。
ーーもともと親子クラスを始められたきっかけは、ご自身の病気の体験だったとブログで拝見しました。
息子が1歳半のころに子宮頸がんだとわかり、旦那さんはうつ病の治療をしている最中でした。だから「このまま死ぬわけにはいかない」でも「その時に何が残せるだろう?」と思って。本当は財力を残せたら手っ取り早かったのかもしれないけれど、”自分で人生を創れる子”にしてあげられたら、なんとか私がいなくなってもやっていけるだろうと。子どもにクリエイティブな人になって欲しいと最初に思ったのは、そこがきっかけです。
ーー辛い状況から、すぐに気持ちを切り替えて次へ踏み出すことができたんですか?
ありがたいことに、がんは初期の段階で発見することができました。しばらくは手術や治療がありましたが、私がクラスを始めたのはその直後です。ママ友みんなに声をかけるところから始めて。たぶん「子どもとの時間を良いものにしたい」と思ったんでしょうね。こういうことがいつ起きるかわからないからこそ、何か始めなくちゃと逆に思ったんです。
「自分の中で答えが創れるかどうか」
ーーさやかさんの考える、クリエイティビティとはどのようなものですか?
私自身の病気の体験や、このコロナ禍においても、そういう時に力を発揮するものだと思っています。クリエイティビティと言うと、日本人の中では遠い言葉のような気がしますが、状況などを自分で創れるかどうかということではないでしょうか。何か次を創っていくということは、つまりクリエイトするということですから。
私たちはコロナを経験して、正解がない時代なんだということが身をもってわかりましたよね。そしてそれに対する考え方もみんなそれぞれ違うから、その人の正解で生きていくしかないんだなとも感じた。その時に日本の教育を振り返ると、答えがあるものを上手にできるように教え込まれてきて、私がどう思うかなんて誰も聞いてくれなかったような気がしたんです。
でも今必要なことは、”自分の中で答えが創れるかどうか”ではないかと、究極には思っています。だから「自分にとっての正解が創れますか?」と言った時に、「えっ、創れないかも…」となったら、じゃあクリエイティビティ必要だよねという感じでしょうか。
ーー自分にとっての正解をクリエイトする=創ることがクリエイティビティだと。
Creative Kids Academyの共同代表である松本武士くんは、「クリエイティビティって筋肉みたいだよね」とよく言ってます。子どもはみんな持って生まれてきてるんだけど、そこにちゃんと栄養を与えて、お水を与えていかないと育たなくなるし、筋肉みたいだからどんどん衰えていく。
その筋肉を育てるのにとても有効なツールが、アートだと考えています。とんでもないアイディアを持ってる人がクリエイティブなわけじゃなくて、自分の中で答えが創れる人が、クリエイティブな人だと私は思っています。そしてその答えが、いつでも変わっていいというのがポイントです。「こう思ってたけどこれじゃだめだな、じゃあもう一回これでいきます」みたいな。答えをどんどん創っていけるスピード感も、今の時代を見ていると必要だと感じます。
ーーアートを教育のツール(道具)にするということについて、詳しく教えてください。
アート教育と聞くと、たとえば音楽ならピアノが弾けるようになるとか、上手になるように教えることだと考える人も多いですよね。でも私の場合は、アートを道具にして”自分を探る”という作業をするものだと考えています。
日本の演劇教育で第一人者だった私の祖父は、講演会などで先生たちにいつもこう話していました。「哲学者のジョン・デューイは『Learning by doing』だと言っている。『やることで学ぶ』つまり今までの読み書きの学びでなく、アクションを起こしていく中で、体験しながら主体的に学んでいくことだと。そしてもう一人、演劇教育をしたブライアン・ウェイは『Learning by being』だと言っている。doingだけでは足りない、beingなんだ」と。
私は幼稚園の頃から祖父に朗読劇を習ってきましたが、そこではいろんな人の人生を体験することができます。その役になってみることで、初めて見える景色や交わす言葉、体験する気持ちがある。だからbeingになってみないとわからない学びがあるんだということを経験しました。それはいい役者を育てるためのものではなく、アート教育としての学びだったんです。
「Learining by being」を「なることで学ぶ」という訳し方もできるし、「あり方を考える」とも言えると思います。アートを通して自分って誰なんだろうと感覚したり、これ好き、あるいは嫌いと思ったり。そういうことを感じる時間が、アートにはあると思います。だから私は、アートをツールにして生きる練習ができると考えています。
▶︎後編では、クリエイティビティと身体の関係について探っていきます!
AUTHOR
大河内千晶
1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く