“セックスレス=悪いこと”ではない|セックスレスが私たちに教えてくれることとは|臨床心理士が解説
性の悩みは、こころと身体が影響しあう問題であるにも関わらず、悩んでいても「誰にも言えない」そんな人が多いようです。SNSを中心に性の悩みに関する情報を発信する臨床心理士の西田めぐみさんが、心と性にまつわる大切なお話を連載形式で綴ります。
はじめに
こんにちは。臨床心理士・公認心理師の西田めぐみです。こちらのコラムではセックスレスについてお話させてもらうことが多いのですが、セックスレスの解決法やそのための夫婦コミュニケーションなどを紹介していると、読者の方に「セックスレスって問題なの?セックスをするようになることが正解なの?」と感じさせてしまっているのではないか?と思うことがあります。どんな事象にも光と影があって、それはセックスレスに関しても同じで、“セックスレス=ただダメなこと”というわけではありません。
今回はセックスレスという経験が夫婦およびカップルに何をもたらしてくれるのか、またそれが2人にとってよりいいものにするためにはどんなことに意識すればいいのかを考えていこうと思います。
セックスレスはダメなこと?
わたしはセックスレスそのものがダメなことだとは思っていません。セックスレスというのはある意味ただの「事象」です。ただ性交渉およびセクシャルコミュニケーション(ハグやキス、それ以外の肌のふれあいなど)がない夫婦もしくはカップルの関係を言葉にしたものです。それ自体にはいいも悪いもありません。
ただセックスレスに直面したときに、どちらかが過度にガマンしていたり自分の思いや考えを相手に伝えることができない、伝えても受けとめてもらえない、ということは夫婦間カップル間においてはとても苦しいことです。
つまりセックスレス自体が問題なのではなく、セックスレスという関係に直面したときにパートナーと一緒に克服できない現実、それによっての不安感や孤独感、無力感を感じることがこころの健康をおびやかしてしまう。それこそが問題として語られるべきことだと考えています。
セックスレスで成立するパートナーシップもある
これまで私のコラムを読んでくださっていた方は、「え?セックスレスでもいいの?」と思われるかもしれません。でも、パートナーシップにはいろいろな形があってOK。これが大前提です。2人が納得した上で、「私たちの関係はセックスがなくても成り立っている。お互いが合意しているし、もしどちらかが気持ちが変わった場合はパートナーに改めてそれを話すことができる」という気持ちの担保があれば、その関係は立派にお互いを尊重しているパートナーシップです
つまり、自分たちにとってセックスレスがだめなのかそうでないのかを2人で決めるための性的主体性とコミュニケーションの力があれば、なにも怖くないのです。
セックスレスと愛情の三角理論
ちょっと話が逸れますが、先日の第5回公認心理師試験で話題になっていた愛情の三角理論(R.J.Sternberg,1986)というものがありまして。愛情は親密性、情熱、コミットメントの3要素で説明できる、それぞれの組み合わせパターンで愛の形を表現できるという恋愛心理学の理論なんですが、これはセックスレスに直面したパートナーシップにもすごく当てはまるなぁと思ったんです。3つの3要素がどんなものかは以下に示しておきますね。
愛情の三角理論
① 親密性:親しさや結合、繋がっているという感情を伴う温かい経験に関わる要素
② 情熱:ロマンスや身体的魅力、性的な達成を引き起こすような動因を含む要素
③ コミットメント:愛するという決定、関係を続ける・維持しようという決定に関わる要素
セックスレスは不仲とイコールではありません。むしろ仲はいいけどセックスレス、というのはふだん私が行っているオンライン相談の割合の中でも実はいちばん多いパターンなのではないかという体感があります。愛の三角理論に当てはめると、このパターンの場合「親密性は高いけど情熱が低くコミットメントも低い」というパターンになると思われます。
一方、「親密性は高くて情熱は低い、コミットメントは高い」というパートナー間は、セックスレスに直面しても2人の関係をなんとか継続しようという意識があります。そういった場合、どちらかだけもしくは2人が話し合うこともないまま苦しむということは避けられる傾向も見られます。
セックスに関して言えば、アセクシャル(性欲を持たない、性的行為に嫌悪感を抱くという特性の方)の場合などを除くと、2人のあいだに同じくらいの情熱があればセックスレスになりにくいと思われますが、悲しいかな、情熱というのは継続がむずかしいものでもあります・・・。2人の関係が長くなってもそれにあぐらをかかずお互いにコミットしようとする意識は、いい関係を長続きさせるためにとても大切なことだと改めて感じます。
性に対する思いの言語化
セックスレスに向きあうとなると、言語化という壁もあります。ふだんはなんでも話せるけど、セックスに関してはお互い相手にコミットしよう!という意識があっても、どう伝えればいいのかわからないという方も多いです。そんな方はまず、以下のことを“自分はどう思っているのか”言葉にしてみてください。
・自分がただセックスをしたいのか、パートナーとのセックスをしたいのか
・セックスレスでも仲が良いという状態で満たされるのかそうでないのか
・パートナーとの一切のボディタッチがなくてもパートナーとの空気を愛せるのかそうでないのか
まずはこれら3つについて言語にしてみる。世間の正解ではなく、あなた自身の言葉を獲得する。それができればパートナーに伝えやすくなりますし、パートナーへも自分に問いかけたように聞いてみるのもいいでしょう。コミットメント力に加えて性に対する価値観の言語化ができることで、2人でセックスレスに向き合う力はぐっと高まるはずです。
セックスレスは2人の関係を見直すチャンス
結論に至るまで長くなってしまいましたが、セックスレスは2人の関係が進んできたからこそ至る関係でもあります。人との関係性はどんな形であれ変化するものですし、特に夫婦や恋人間では、関係性が変わってからの方が本番なのかもしれません。しれませんというより、実際にそうなんですよね。
つまり、セックスレスは単純に悪いことではなく、2人の関係を見直すチャンスなのだと思います。セックスレスという事実に対して2人でどう向き合えたのか。向き合うなかで、パートナーに対する親密度やコミットメント度もきっと見えてくるでしょう。パートナーから自分に対しての思いも見えてくると思います。それが見えてきたからこそ、導きだせる2人の形があります。でもそこに決まった正解はありません。2人で向きあって出した答えが正解です。
もし2人だけで話を進めるのがむずかしい時は、カップルカウンセリングを行っている臨床心理士や公認心理師の心理カウンセリングもありますので、選択肢のひとつとして加えていただけたらと思います。1人で抱え込まずにいつでも頼ってくださいね。
(引用文献)
Sternberg, R. J. (1986) A triangular theory of love.Psychological Review, 93.
AUTHOR
西田めぐみ
臨床心理士 / マインドフルネス認定講師。性のお悩みについて臨床心理士の視点から発信、カウンセリングを行う。オンライン心理カウンセリング「amariカウンセリングルーム」主宰。
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