コロナ禍で肥満や脂肪肝が急増?カギとなる「タンサ脂肪酸」について公衆衛生の専門医に聞いた

 コロナ禍で肥満や脂肪肝が急増?カギとなる「タンサ脂肪酸」について公衆衛生の専門医に聞いた
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世界の研究者が注目し、少しずつ働きが解明されてきたタンサ(短鎖)脂肪酸。肥満や脳機能、アレルギーなどの改善に期待が高まっています。

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コロナ禍でライフスタイルが変化し、肥満やメンタル不調、アレルギーなどのリスクが増しています。実は、肥満も脳機能も免疫も、腸内細菌が生み出す「タンサ(短鎖)脂肪酸」が 密接に関わっていることが近年の研究で分かってきました。

タンサ脂肪酸は全身に作用して食欲を抑制したり、炎症を抑えたりと、現代人の健康課題に対して様々な働きをもたらすと言われています。

新型コロナで増える肥満、メンタル不調、アレルギーのリスク

新型コロナウイルス感染症の大流行が世界的に長く続き、さまざまな不調のリスクや健康への悪影響が生じています。

世界各地で体重増加の傾向を示す論文が複数発表[※1]されているほか、日本生活習慣病予防協会の調査[※2]によると、40~60代の男女のうち新型コロナ感染拡大前(2019年)と現在の体重の変化を聞くと3人に1人が体重が増加したと答えています。

また、調査に応じた医師の約半数が「脂肪肝疑い」症例が増加していると回答したそうです。

日本生活習慣病予防協会

さらに、日本や欧米、中国などの複数の研究をまとめた論文[※3]によると、不安症状を訴える人の割合が約3割に達するなど、うつや不安症状、不眠、PTSDなどのメンタル不調に多くの人が苦しんでいるようです。

このほか、アレルギーのリスク上昇を指摘する声も上がっています。これは、手指の消毒など感染予防が徹底された結果、腸内細菌の多様性に影響を与え、それによりアレルギーリスクが高まった可能性が考えられています。

[※1]Impact of the first COVID-19 lockdown on body weight: A combined systematic review and a meta-analysis[※2]一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 新型コロナウイルス感染拡大の陰で起きている体調変化や生活習慣に関する最新調査[※3]Public mental health problems during COVID-19 pandemic: a large-scale meta-analysis of the evidence

肥満は全身の「炎症」をもたらす

肥満は見た目の変化だけでなく、全身でくすぶった炎症が起きている状態にあります。炎症が起きると、脳や内臓、血管の細胞に傷がつきます。脳の炎症はうつなど脳機能の低下をもたらし、血管が傷つくと動脈硬化となり脳梗塞、心筋梗塞の原因となってしまいます。

さらに、肥満になると生活習慣病のリスクが高まるため、健康寿命を延ばすには肥満の改善や防止が必要です。肥満は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクでもあります。

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いま注目されているタンサ脂肪酸とは何か

タンサ脂肪酸とは、ヒトの大腸内で腸内細菌によって作られる酸(有機酸)の一種で、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの種類があります。

タンサ脂肪酸の一部は、腸で働くだけでなく全身に送られ、炎症を抑えたり、肥満を抑制したり、免疫力を高めるのにも関与しています。

また、自律神経に働きかけてストレス反応にも関わることが明らかになってきています。

タンサ脂肪酸のメカニズム

ビフィズス菌などの腸内細菌は、食物繊維をエサとし代謝分解することで、タンサ脂肪酸を生み出します。

タンサ脂肪酸は腸の細胞のエネルギー源となるなど腸の健康に寄与するほか、腸内を弱酸性に保って腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスを保つ働きがあります。

以前より食物繊維は、便通を良くするとして注目されていました。それに加えて、技術革新と研究の推進により、食物繊維には腸のお掃除効果以上にわたしたちヒトに有用な作用が多々あることが分かってきたのです。

タンサ脂肪酸

タンサ脂肪酸による、体内のエネルギー消費の増大

京都大学の研究グループは2011年、タンサ脂肪酸が交感神経に直接働いて活性化することを明らかにしました。[※4]

研究によると、その仕組みは以下の通りです。

①食事で食物繊維が取り込まれる

②腸内細菌がタンサ脂肪酸を産生する

③タンサ脂肪酸が交感神経を活性化

④体内のエネルギー消費の増大

このため、肥満や糖尿病などエネルギー調節異常の治療への応用が考えられます。

また別の研究では、タンサ脂肪酸は大腸の細胞に食欲抑制ホルモンを分泌させることが分かっています。脂肪組織で脂肪の蓄積を抑える役割も果たしており、こうした機能が総合してタンサ脂肪酸は抗肥満の働きをすると考えられます。

[※4] 脂肪酸受容体GPR41によるエネルギー調節機構の解明(京都大学ホームページ)

研究から期待される、肥満、脳機能、アレルギーへの介入

ここ数年で、タンサ脂肪酸と疾患や健康との関係を調べた論文は、多数発表されています。なお現在も、免疫やアレルギー、サルコペニア、心血管疾患、糖尿病など無数の研究テーマが存在しています。

ただし、タンサ脂肪酸が健康維持や病気の改善に役立つことに関する研究は、ここ数年で始まったばかり。基礎研究と疫学研究の両方が進むことで、タンサ脂肪酸がどのような仕組みで働くのかが、今後より明らかになってくるでしょう。

教えてくれたのは…伊藤明子(いとう みつこ)先生

赤坂ファミリークリニック院長。小児科医、公衆衛生の専門医。同時通訳者。東京外国語大学イタリア語学科卒業。帝京大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科卒業。東京大学医学部附属病院小児科医師。赤坂ファミリークリニック院長。 NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。

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Text by Chiaki Okochi

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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