【産婦人科医に聞く】家庭での性教育はいつから?何から始めればいい?子どもとの話し合いのポイント

 【産婦人科医に聞く】家庭での性教育はいつから?何から始めればいい?子どもとの話し合いのポイント
『うみとりくの からだのはなし』(絵・佐々木一澄)

「性教育をしなくては」と思いつつも、何をどう教えればいいかわからなかったり、恥ずかしかったりと悩んでいる保護者の方は多いでしょう。『うみとりくの からだのはなし』『あかちゃんが うまれるまで』『おとなになるっていうこと』(全て童心社)の著者で、産婦人科医の遠見才希子さんに家庭での性教育のポイントについて伺いました。

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家庭での性教育は日々のコミュニケーションの積み重ね

 

『うみとりくの からだのはなし』(絵・佐々木一澄)
『うみとりくの からだのはなし』(絵・佐々木一澄)

——家庭での性教育はいつ・どのような内容から始めたらいいのでしょうか。

まず、大人は「性教育」というと、月経・射精・避妊・性感染症などを思い浮かべますが、それだけではありません。ユネスコなどが作成した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(日本語版 明石書店)では、5歳ごろから「包括的性教育」といって、人権の視点から性の多様性やジェンダー平等を含めたテーマを体系的に学ぶことが推奨されています。

『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の5~8歳の学習目標の一つに「誰もが、自らのからだに誰が、どこに、どのようにふれることができるのかを決める権利をもっている」があります。具体的には一人ひとりのからだの権利や、プライベートパーツ(水着で隠れる部分と口)、同意について学びます。

「プライベートパーツはあなたの大切なところだから、もし触る必要があるときは家族でも先生でも理由を説明するよ」「もし触られそうになったらNO(嫌だと言う)・GO(逃げる)・TELL(大人に伝える)の選択肢があるよ」「でもそれができなくてもあなたが悪いわけじゃないよ」を伝えます。

傷ついてほしくないといった気持ちから「見せちゃダメ」「触らせちゃダメ」「NO・GO・TELLしなさい」と説教のようになりがちなのですが、「自分のからだは自分のものだよね」「大事だよね」など、ポジティブな声かけとのバランスも必要だと感じる出来事が最近ありました。

——詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。

私には2人子どもがいて、上の子は4歳なのですが、2歳の頃からお風呂でプライベートパーツの話をしています。例えば「おっぱい見せてって言われたらどうする?」と聞いて、少し前までは「だめ!って言う」「嫌だって言ってママに話す」など元気に受け答えしていたのですが、最近「その話怖いからやめて」って言うようになったんです。「ごめんね、どうして怖いって思ったの?」と聞いたら、「だってダメでしょ、そういうことしちゃ」と話していて。良かれと思って練習させようとしていたけれども、子どもの想像力も発達してきているので、恐怖心を感じるようになったのだと思います。

親としては性暴力の被害に遭ってほしくないという思いから「こうしなさい」と自衛することを強調してしまいがちですが、加害をなくす視点を大切にしなければならないと改めて感じました。性教育の本来の目標とは「主体的に考える自己決定力を育むこと」です。自分のからだのことを自分で選択する力を育み、自分と他者のからだと権利を尊重できるようになり、健康と幸せの実現に繋げることを目指しています。

ですので、ネガティブな情報だけでなく、ポジティブな情報からスタートできたらいいと思います。2、3歳くらいになると、自分のからだに興味を持つようになります。私の子どもも2歳くらいから「おちんちん」という言葉を覚えて楽しくはしゃいでいました。自分のからだに興味を持ち始めた頃や、着替えのときに、胸や性器について「大切なところだよね」と話しかけることも一つの方法です。

また、言葉のキャッチボールができないほど小さな頃でも、保護者や周りの大人がプライベートパーツを「大切なところだよ」と声をかけたり、プライベートパーツに触れる際には「オムツを替えるね」「お薬を塗るね」などと声をかけたりすることによって、一人ひとりのからだに権利があることを伝えられます。「自分のからだは自分のもの」という権利が赤ちゃんを含め誰にでもあることをまずは大人が知って、子どもとの関わりの中で意識し、子どもの権利を尊重することがスタートだと思います。

以上から家庭での性教育は「何歳から始めなくてはいけない」というよりは、日々のコミュニケーションの積み重ねだと考えています。

『うみとりくの からだのはなし』(絵・佐々木一澄)
『うみとりくの からだのはなし』(絵・佐々木一澄)


——遠見さんのお子さんは4歳とのことですが、実際にどのようなコミュニケーションをとっているか伺ってもよろしいでしょうか。

トイレやお風呂で経血を見て「これ何?」と聞かれて、最初は「大人になると女の人は血が出ることがあるんだよ」と話しました。次の機会に「これはナプキンと言って、血がパンツにつかないようにするためにつけてるんだよ」と話したり、また別の機会に「女性の体には赤ちゃんが育つ場所があって、そのお布団を作っているのだけれど、いらなくなったから血が出てくるんだよ。怪我の血とは違うんだよ」といった話をしたりしています。

『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では月経関連の学習目標は9歳~12歳ですが、家庭での性教育はその通りとは限りません。性教育の講演会では教えるべきポイントはありますが、家庭での性教育は日々の中で少しずつ伝えていけば良いと考えています。

——講演会のように一度で一から十まで説明しないといけないわけではないのですね。

そうですね。また、子どもから聞かれたときに思わず叱って後悔したり、上手く説明できなかったりと、大人も失敗することがありますが、家庭での性教育は日々のコミュニケーションの一つなので、やり直せるチャンスはあります。

子どもから質問をされて咄嗟に上手く答えられないときもあると思います。そういうときは、「また今度一緒に話そうね」と、大人にもわからないことがあるというのを素直に見せてもいいですし、後から「あのときはこんなふうに話したけれども上手く説明できなくて、ごめんね。どう思った?ママは今こう思うんだ」など話す方法もあります。

私も上手く話せなかった経験はあります。性教育講演を行っているので、我が家には大量のコンドームのサンプルがあるのですが、ある日、子どもが「これ何?」と持ってきたことがあるんです。非常に焦りましたし、咄嗟に答えられませんでした。少し時間を空けて、自分の中で言葉を整理して「これは病気から体を守ったりするもので、大事なものなんだ」と説明しました。

生理のエピソードには続きがありまして。私が鼻血を出したときに子どもから「赤ちゃんのベッドが出てきたね!」と言われたんです。そういったとき大人は「違うよ!」と言いそうになってしまうと思うのですが、否定から入らないことを大切にしていて「この間のママの話を思い出してくれたんだね、すごいね」とまずは受け止めるようにしました。続けて「実は赤ちゃんのお部屋はお腹の下の方にあるから、この血は赤ちゃんのお布団ではないんだよ」と説明したら「あ、そうなんだ!」と納得していました。

『あかちゃんが うまれるまで』(絵・相野谷由起)
『あかちゃんが うまれるまで』(絵・相野谷由起)

——日々の会話の積み重ねで、小さい頃から自然に生理の話をすることも可能なのですね。一方で、お子さんが思春期に入っていると「もう遅いのでは」と思っている保護者の方もいらっしゃると思います。

お子さんの年齢によっては「今から教えても手遅れでは?」「寝た子を起こすのではないか」と心配される方もいらっしゃいますが、大人も知らないことがあるくらいですので、「もう遅い」ということはないですし、包括的性教育を行うことによって、性行動に慎重になり、初体験の年齢が上がることや、意図しない妊娠や性感染症のリスクが下がることは国際的にエビデンスが積み重なっています。

また、どの年代にも言えることは、安心して何でも話せる大人の存在が重要ということです。困ったときだけでなく、嬉しいことがあったときにも安心してコミュニケーションをとれる関係性が築けているといいですね。「困ったときに相談してね」ですと、人によって「困っている程度」の判断が異なりますし、極限まで追い詰められているような困っている状態でないと相談してはいけないと思ってしまう子どももいるので、私は最近「何でも話してね」と声かけするようにしています。

子どもに何でも話してもらえるようにするため、小さい頃から子どもが性的な言葉を言ったり、性的な質問をしたりしたときに、頭ごなしに否定するのではなく、「良い質問だね」「その言葉を聞いてどう思った?」など、一度受け止めるコミュニケーションができるといいのではないかと思います。

とはいえ、子どもにもプライバシーや、「この人にはここまでは話してもいいけれども、これ以上は抵抗感がある」といった境界線もありますので、子どもを信頼することも大事なことです。

大人もわからないから、子どもと一緒に学ぼう

『あかちゃんが うまれるまで』(絵・相野谷由起)
『あかちゃんが うまれるまで』(絵・相野谷由起)

——年齢が上がってくるにつれて、生殖やセックスなど大人にとってハードルの高い話も避けられないものですよね。

生殖とセックスの話は『あかちゃんが うまれるまで』で描いているのですが、私自身にも抵抗感がありましたし、教えるのにハードルがあるのはよくわかります。ただ、教えなければアダルトコンテンツや友人から聞いた情報から知識を得るしかなくなってしまう恐れもありますので、本作を活用しながらコミュニケーションをとっていただければと思います。

本作では生殖の仕組みを科学的に描くことに重点を置きました。「パパとママが仲良しだと生まれる」「パパとママが愛し合ったら生まれる」などは科学的に正確というわけではありません。現実には、愛し合って望んでいても妊娠しないこともあります。

最初は結合部のイラストだけ載せようかと思ったのですが、何を描いているのか十分に伝わらないですし、「生殖において男性のペニスを女性の腟の中に入れて射精する」というのは科学的な事実であり、それをイラストで伝える必要があるとは思いました。

結果的には横に並んで抱き合っているイラストを相野谷由紀さんが描いてくださって、対等な関係性で心とからだの繋がりや、安心できる関係性といったところも伝えられるものになっています。

『あかちゃんが うまれるまで』(絵・相野谷由起)
『あかちゃんが うまれるまで』(絵・相野谷由起)

本作では、不妊治療による妊娠や、セックス=生殖だけではないことも描いていて、セックスをするとしても「赤ちゃんが欲しいカップルもいれば、望まないカップルもいる」「欲しくてもできないこともある」「カップルは異性同士だけではない」「妊娠の可能性があるカップルで子どもを望まないなら避妊をする」などの情報も含まれていますので、お子さんと一緒に考えていただけたらと思います。

——自分が性教育を学んでいないため、学んだ経験がない中でお子さんに教えることにハードルを感じている大人は多いと思います。

その気持ちはよくわかります。ですので、子どもと一緒に学び始める気持ちで十分です。保護者も忙しいので、最初に保護者が読んで理解し、説明できるようになってから教える……なんて時間も余裕もない方が多いですよね。子どもから何かを聞かれたときに「調べておくね」と返答するのもハードルが高く感じる人もいるでしょうし、頑張りすぎなくていいと思っています。日頃、親子で絵本を読む時間があるならば「性教育の絵本」というよりも、他の絵本と同じ感覚で読んで一緒に考えたり、話したりしていただくイメージで制作しました。

また、最初から最後まで通して読む必要はないので、肩の力を抜いて読んでいただけたらと思います。例えば『うみとりくの からだのはなし』は、前半はからだの権利や友達や家族との関わり、後半がプライベートパーツやもし触られたらどうする?などの話で、分けて読むことも可能です。

想定年齢としては、『うみとりくの からだのはなし』が4~6歳、『あかちゃんが うまれるまで』が6~8歳、『おとなになるっていうこと』が8~10歳です。全部ひらがなで書いていますので、想定年齢よりも早い段階で読むこともできますし、想定年齢を過ぎたら遅いというわけでもありません。大人でも初めて知る情報があると思います。

『おとなになるっていうこと』(絵・和歌山静子)
『おとなになるっていうこと』(絵・和歌山静子)

——読者さんからの反響はいかがでしたでしょうか。

たとえば『うみとりくの からだのはなし』を読んでいて、お子さんが「自分は髪を撫でられるのが好きだけど、なんでうみは苦手なんだろう?」と聞いてきたので「髪を撫でられるのは、安心したり気持ち良かったりするけれど、人それぞれ感じ方は違うし、してほしいときもそうじゃないときもある。それを決めていいのは自分だけだよ」というコミュニケーションをとったという声をいただきました。

『おとなになるっていうこと』ではセクシュアリティの話が出てくるので、「オリンピックに出てる人がいたよね」という話をしたり、子どもが体の変化を教えてくれたりなど、「コミュニケーションのきっかけになった」という声をいただけたことが嬉しいです。

『うみとりくの からだのはなし』(絵・佐々木一澄)
『うみとりくの からだのはなし』(絵・佐々木一澄)
『あかちゃんが うまれるまで』(絵・相野谷由起)
『あかちゃんが うまれるまで』(絵・相野谷由起)
『おとなになるっていうこと』(絵・和歌山静子)
『おとなになるっていうこと』(絵・和歌山静子)

【プロフィール】
遠見才希子(えんみ・さきこ)

産婦人科医。1984年、神奈川県生まれ。2005年、大学入学後「もっと気楽に楽しくまじめに性を伝える場をつくりたい」という想いから性教育活動を始め、全国1,000か所以上の学校で講演会を行う。正しい知識だけでなくコミュニケーションを大切にした等身大のメッセージを伝えている。著書に『ひとりじゃない~自分の心とからだを大切にするって?~』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『だいじ だいじ どーこだ?』(大泉書店)。『性とからだの絵本(うみとりくのからだのはなしあかちゃんがうまれるまでおとなになるっていうこと)』(童心社)。2児の子育て中。
 

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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