尾骨の働きを理解しよう|ヨガ解剖学
尾骨を押し込もうとする前に、まずはその正体を知っておくことが大切だ。尾骨を表す解剖学の用語は、「カッコウのくちばし」という意味のギリシャ語に由来する「coccyx」で、それは尾骨を表す「尾」という意味を持つ。
骨盤の仙腸関節のところには2つの腸骨があるが、尾骨はその間の三角形をした仙骨の下にあり、背骨の一部だ。尾骨を構成する椎骨の数やその可動性には個人差が大きく、3、4本あったり5本だったりすることもあれば、いくつかの椎骨は自然に融合し他は分かれていることもある。尾骨は小さい骨だが、筋肉、靭帯、腱が付着する場所であり、2つの坐骨とともに骨盤基底部の三面角の骨標識点として機能している。
尾骨には、仙骨の基底部に位置する可動関節があり、仙尾関節という理にかなった名前がつけられている。この関節の主な動きは屈曲と伸展だが、横へ曲がる動きと回旋も少しは可能だ。それほど大きく動くわけではないが、その動きを生み出す筋肉の働きは、骨盤底に重要な結果をもたらす。
骨盤底の慢性的な緊張は、股関節の可動域や、直腸、肛門、膀胱の健全な機能に影響し、痛みや腰、(腰椎と仙腸関節)の疲労へとつながることもあるのだ。もっとも健全で機能的な尾骨の動きを知ることは、仙骨から頭までの背骨全体の痛みのパターンを左右する。
尾骨を押し込んだ結果生まれるのは、仙尾関節の屈曲、仙骨上部が後ろに傾き、仙骨基底部と尾骨が仙腸関節の位置から前に動く仙骨の起き上がり(counter-nutation, nutation には「うなずく」という意味がある)、仙骨と尾骨を含んだ骨盤全体の後傾という、3つの異なった動きだ。下の「発見のためのプラクティス」にまとめたエクササイズをすると、それぞれの動きを個別に、順を追って、また同時に行ったりできる。各動作とも尾骨を前方へ動かすが、尾骨の独立した動きを伴うのは仙尾関節の屈曲だけだ。仙骨の起き上がりと骨盤の後傾は尾骨を前に押し出すが、それは仙骨か骨盤が動いたときのみ、結果として起こるものだ。
この3つの動きの相互関係を、マット上で模索するのが役立つときもきっとあるだろう。例えば、子供のポーズで尾骨を押し込んでみると、背骨と股関節の屈曲が深まるのが感じられることがある。一方、尾骨を屈曲する筋肉は、仙骨を起こして骨盤を後傾する筋肉とは異なるため、骨盤のポジションを変えるという意味の「尾骨を押し込んで」という先生の指示に対して、骨盤底の筋肉(尾骨を屈曲するが骨盤は後傾しない)を必要以上に緊張させてしまうこともある。過度の力は股関節、骨盤、背骨の筋肉へと広がり、ポーズの安定と心地よさとの理想的なバランスを見つける妨げとなる。
解釈の幅はとても広い。どんな人にも、どんなときにも、確実に効果のある指示は存在しないのだ。ヨガの生徒には、自身のアーサナの経験の中で、自分なりの方法を見つけ出せるスペースをつくってくれる先生が必要だ。そして、生徒にとってのチャレンジは、呼吸やアラインメントの中のわずかな変化に気づき、時間とともに自分のプラクティスを発展させていくことだ。
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