「傷ついた自分を愛することから始めた」抜毛症のボディポジティブモデルGenaさんインタビュー後編
――ボディポジティブについて、考え方に変化はありましたか。
Genaさん:ボディポジティブ関連のボキャブラリーって「セルフケア」「セルフラブ」「ボディダイバーシティ」など、ほとんどが英語のまま、カタカナ表記なんですよね。そもそもボディポジティブもそうだし、本当は言い換える日本語が必要なのかなって思うんです。
概念自体が外から入ってきたもので、日本の内側から自然発生したものではないから、という部分があるからなんだと思います。一時的なブームで終わらせるのではなく、フェミニズムと同じように、私たちが日常に楽に息ができるようにするための必需品という考えになればいいなと。
自分のアイデンティティは、日本人というよりはアジア人なんです。映画や文化も含めてアジアが好きなこともあるんですけど、アジアの美の基準ってすごく強固。小柄でほっそりしていることを求められるし、いまだにそれがスタンダード。でもそこから大きく外れても美しいことはあり得ると思うんですよね。欧米から来たボディポジティブという概念を受け入れつつ、アジア内でのボディポジティブを確立させたいなと思っています。ちょっと大きな野望になっちゃいますけど。
――ボディポジティブというと、開き直りとか言い訳とかネガティブなことを言われることも少なくないですよね。日本でもっとボディポジティブへの認識が高まるには、何が必要だと思っていらっしゃいますか。
Genaさん:外見を指摘する人が少なくなるといいなと思います。私は今、抜毛など髪に悩む当事者のためのNPO法人にも参加しているんですけど、そこでも通りすがりに「ハゲ」「髪の毛ヤバい」と言われた、盗撮されたなどを聞くことが多くて。人と違うことを見て見ぬふりすることがなんでできない人の多さに唖然とします。
我と彼との線引きみたいなものが怪しいというのが、他の文化圏よりも曖昧だと思っています。家族や友人、プライベートでも仕事でも、明らかに本人が望んでいない部分は指摘してはいけない。基本的なマナーから考え直してほしいなとは思いますね。
「普通」という概念が無くなればもっと生きやすくなるはず
――Genaさんが思う「誰もが生きやすい世界」とはどんなものでしょうか。
Genaさん:指摘しない、言わないというのは表面的な応急処置的なルールで、本質的には「普通」という概念が無くなったらいいなと思います。本当なら私たちは背の高さや瞳、肌の色、考え方、性的指向、性自認も違って当たり前なのに、今は普通というものに押し込められている。普通って言いかえると、一般的、無難、平均とかになると思うんですけど、普通というスタンダードから、自分の意志であっても、そうじゃない事情でも、はみ出てしまうとすごくつらい思いをすることになる。ひとりひとりが違って当たり前だということが受け入れられる世界になるといいなと思っています。
よく思い出すのは高校時代に先生から言われた「過去と他人は変えられない。自分と未来は変えられる」という言葉。これに、当時も今もすごく反感があるんです。他人が変わることを期待せず自分が他人の考えに適応できるように変わっていけ、と言われているように感じてしまって。
でも、私は逆に他人、社会の方を変えたい。普通の人じゃないと馴染めないような社会の構造に問題があるのではないかなと思うし、お互いに変化していく必要もあるのかなと。出る杭は打たれるとか、目立つのはよくないことっていうのは違うのかなと思っています。
――他人の目を気にせずに、のびのびと生きられるのが理想ですね。
Genaさん:「普通」「無難でいる」というのは一種の生存戦略でもあると思うんです。でも、一生その生き方でいくつもりなの?もったいないよ。自分の人生を生きようって言いたいですね。
「人に優しく、違いを認めましょう」言葉では簡単に言えるけど、一番の理解に繋がるのは自分が認めてもらった経験があるかどうかだと思うんです。それは必ずしも他人からでなくてもいい。自分自身でで認めてあげるのでもいい。一度自分の本来誰もが持っているはずの「普通ではない部分」を素直に認めてあげることで、自分とは違う他者も認められるようになる。相互的な呪いを紐解いてあげられたらいいのかなと思います。
――アジア内のボディポジティブを確立したいという言葉もありましたが、最後にGenaさんの今後の展望をお聞かせください。
Genaさん:抜毛症というのは、自己嫌悪と孤独との戦いという部分があるので、悩んでいる方にもっと寄り添えたらいいなと思っています。今は、まず「セルフケアシャンプー」を開発中です。「一人じゃないよ」というメッセージを伝えていきたい。それに加えて、ボディポジティブに関わらず、モデルの活動も幅広くやっていきたいです。何の説明もなく「こういう人もいるんだよ」という感じで、私を使ってほしいなと思っています。
プロフィール:Genaさん
90年代生まれのボディポジティブモデル。11歳の頃から抜毛症になり、現在まで継続中。SNSを通して自分の体や抜毛症に対する考えを発信するほか、抜毛・脱毛・乏毛症など髪に悩む当事者のためのNPO法人ASPJの理事を務める。現在は、抜毛症に寄り添う「セルフケアシャンプー」の開発に奮闘中。
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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