【コロナ禍のメンタル】うつうつしている時にやってはいけない行動って?産業医・石川陽平さんに聞いた
「なんだかスッキリしない。憂鬱だな」といった“うつうつ”した気持ちを持つ人が、最近増えているといいます。環境が変わればうつうつが解消されるのでは?と「会社を辞める」ことを考える人も。でも、はたしてそれは正しい選択なのでしょうか。今回は、そんなうつうつしているにやってはいけないこと。そして、うつうつを解消するためにはどうしたらいいのか。『無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる』(発行:KADOKAWA)の著者、心療内科医で産業医でもある石川陽平先生に、お話をお伺いしました。
うつうつしているときに重要な決断はしない
――著書『無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる』に、うつうつ解消のポイントをまとめられている石川先生。早速ですが、うつうつしているときにやってはいけないこと、NG行動にはどんなものがあるか教えてください。
まずは、「疲れちゃいけない」「もっと自分は頑張らなくちゃいけない」と思い込みすぎることですね。自分に厳しすぎる人が多いのかなと思うんです。厳しい自分もあっていいのですが、疲れてうつうつしている自分も許してあげる。もっと自分に甘くてしてあげましょうとお伝えしたいです。
疲れるときは、誰にでもあります。だからこそ、疲れに早く気付くこと、コンディショニングが大事なのではないでしょうか。例えば、プロのスポーツ選手は、違和感があると早めに降板したり、途中交代したりしますよね。彼らは身体が資本なので、そこで頑張りすぎると身体を壊すかもしれない。そういったリスクヘッジをしています。
心も同じです。疲れすぎてしまったときに休まず続けるとやっぱり壊れてしまう。早めに自分のコンディショニング、黄色信号を受け取ってほしい。ですので「うつうつしているのは自分が頑張ってないからだ」と思いすぎないことが、まずはひとつですね。
――うつうつの原因が仕事だった場合、「会社を辞める」という選択を考える人もいます。そういった環境を変える行動は、やってはいけないことに入りますか。
環境を変えることは悪いことではないと思いますが、「会社を辞める」ような大きな行動は、調子がよくなったときに考えるべきこと。「休みの日を増やす」「休日は仕事を持ち帰らない」など仕事以外の自分の時間を作り、まずは調子を戻すことを考えた方がいいと思います。
というのも、僕ら心療内科医のなかでは「大事な決断は調子のいいときにする」というのが鉄則なんです。普通に考えると、それはそうなんですよね。調子のいいときだと頭がはっきりしているから、いい判断ができる。うつうつしていると頭も凝り固まってきて、極端な考えにいきがちですから。
調子を崩すと「自分はもうダメだ」と思うこともありますが、その気持ちのままで退職するのはもったいないですし、将来的にもネガティブな要素が大きすぎる。だからこそ、まずは自分の調子を整える。そして、次に改善できることはないかと考えてみる。周りの環境をいきなり100点に変えることはできないかもしれないですが、60点を70点にできるかもしれない。そうやってステップを踏んでいくことを考えてほしいです。
周囲へのヘルプを早めに出すことも大切
――「会社を辞める」という判断をする前にステップとして、うつうつの原因を変えられるようなアクションをしてみることが大事なんですね。
そうですね。そのためにも、ヘルプを早めに出せるようになるといいですね。ヘルプを我慢する、というのもうつうつ状態のときにやってはいけないことのひとつです。うつうつしやすい人と言うのは、まじめな人が多い。まじめな人って、自分で何とか頑張っちゃうからヘルプを出すのが苦手なんです。今、テレワークでさらにそれが苦手になっている人が増えている印象があります。
産業医をしていると、「上司に言っても聞いてくれない」とお話される方が多くいらっしゃいます。「実際に言ったことがありますか」と聞くと「ないです」と。でも、実際に話してみると意外と「上司が対応してくれました」というケースが少なくない。
自分が上司の立場だったら、部下がギリギリの状態までヘルプを出さないより、早めにヘルプを出して業務を改善できるほうが安心する。そういう人が多いのに、自分の上司はそのタイプではないはずだと思ってしまっている。コロナ禍で距離が離れてしまったからこそ、自分でも気づかないうちに「あの人はこういう人」と変なイメージを作ってしまっていることもあるのかなと。
悩んでいる、つらいんだという自分の感情に気付くと同時に、その感情を基点として、早めに周りの人にヘルプを出す、伝えるということが大事なのかなと思います。
――では、「仕事のうつうつを吹き飛ばそうと休日アクティブに過ごそうとする」これは、やってはいけないことでしょうか。
アクティブに過ごすこと自体がやってはいけないことではないのですが、そのときの自分の状況によってリフレッシュとリラックスを使い分けましょう、ということをお伝えしたいです。例えば、ヨガをやっていらっしゃる方は「頑張ってリフレッシュするぞ」という方が多いと思います。そういう気持ちのときはそれでOKですが、「ヨガ、ちょっと疲れちゃったな」というときは、瞑想などでリラックスを作るようにしたらどうでしょうか。
うつうつしているときは“何もしない”リラックスタイムも必要です。心が疲れているけど体が元気なときはアクティブにリフレッシュ。逆に心も体も疲れているときはゆったりとリラックス。そういった形で使い分けることをおすすめします。
自分の感情を見直すことがうつうつ解消の第一歩
――石川先生の著書『無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる』では、自分のなかの「感情・思考・体・好きなこと」をそれぞれ見つめ直すことで、うつうつした気持ちが解消に向かうと書かれています。
全部を一度にやるのは難しいと思うので、まずは「感情を見つめ直すこと」だけでも意識してほしいですね。コロナ禍というのは、日常の劇的変化がずっと続いていて、文字通りの緊急事態。イメージするならば、頭の中でいきなりクマに襲われたというような状態なんですね。
そんなときに「自分の感情って今どうなんだろう」というのは、なかなか考えられない。でも、そんな緊急事態が長く続いていて、ひたすら自分の感情を押し殺している状態が今の社会なのかなと。一度立ち止まって感情を取り戻す、という作業をしてみてほしいです。
――自分の感情を見つめ直すなかでは、目をそらしがちな「つらい」「苦しい」といった感情に気付くことも出てくるのかなと思うのですが、そういったマイナスな感情にも、あえて向き合った方がいいのでしょうか。
「つらい」「苦しい」という感情にいきなり向き合って解決するのはやはり大変ですよね。いきなり真正面から向き合って解決しようとしなくても良いと思います。ただ、そういう感情が自分に沸き起こっているんだということに気付いておくことは大事かと。恐怖や悲しみから目をそらすというのは、自己防衛の手段でもあるのですが、その感情自体を見て見ぬふりをするよりは、「あ、自分、いま辛いな・苦しいな」と気付けるとよいのかと思います。そもそも無意識に気付かないように蓋をしてしまう人がコロナ禍では増えている気がします。
日本人ってすごくまじめなので、「怒っちゃいけない」「悲しんじゃいけない」と思いがちなんです。実際、コロナ禍でマイナスの感情を持つことは多くあるはずなのに押し込めてしまっている。
例えばSNSで誰かの発言にイラっとしたり、「こんな時期なのに」と思ったり。人それぞれ、たくさんあると思うんです。それを押し込めずに「そういった感情を持って当たり前だよね」「自分はこんなことでイライラするんだな」というように、整理してあげる必要があるのではないでしょうか。自分の感情に優しくする時間が大事なのではないかと思います。
――最後に、著書のなかでうつうつ状態ではない健康状態を“イキイキ”と表現されていましたが、石川先生が思う「“イキイキ”とは?」をお聞かせください。
どんなときでも、自分の感覚が鈍磨していない状態。常にフレッシュな気持ちで周りを感じとれる状態が、“イキイキ”なのではないでしょうか。例えば、イキイキしている理想の自分(=星のような自分)になるんだ!と思っていると、しんどくて仕方ないですよね。でも、大変なこともあるし、つらいこともあるけど、自分は楽しくやってるなと思えること。理想の自分・星のような自分になれるようがむしゃらになるのではなく、これまでの自分を振り返ったときに「いい道だな」と思えたら、それが“イキイキ”なのかなという気がします。
石川陽平先生プロフィール
医師、産業医。2007年東京慈恵会医科大学入学後、世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部インターンなどの経験を経て、2013年より聖路加国際病院に入職。2014年度、聖路加国際病院ベストレジデント。2019年、同病院救急部チーフレジデント。2015年にMediplat(現・メドピアグループ)の設立に参画し、産業医・医療相談サービスfirst callの企画等を行う。現在は、救急・心療内科で外来を行う一方、ベンチャー企業から一部上場企業までの産業医として活動している。著書に『無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる』(発行:KADOKAWA)がある。
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ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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