無理なポジティブ思考が仇に【慢性化する心の疲れ】どう対処すべきか|精神科医・川野泰周さんに聞いた
長期化するコロナ禍において「目に見えない脅威を感じているということ自体がストレス。心の疲れを感じるのは仕方ないこと」と語るのは、禅僧であり精神科医でもある川野泰周さん。マインドフルネス瞑想や禅の要素を積極的に取り入れた診療を行っている川野さんに、インタビュー前編では、ネガティブな思考と心の疲れの関係性についてお話を伺いました。今回の後編では、コロナ禍で慢性化する心の疲れの対処法などをお聞きします。
攻撃性を他者に向けてしまう人には平常心で
――前回、「心の疲れ、脳疲労が蓄積されると理性や感情のコントロールが難しくなる」また「自己防衛本能から攻撃的になってしまう人もいる」というお話を伺いました。自分自身の心の疲れは自分で対応することができますが、心の疲れに気づかず攻撃性を他者に向けてしまう人には、どう対処したらいいのでしょうか?
川野さん:本人が自らの心にフタをして、悩みや疲れに気づかないように生きてきた結果、他者に対しての攻撃性が発露されている状態ですから、説明だけで分かっていただくことはなかなか難しいように思います。同じようなご質問で「瞑想やマインドフルネスを他の人に勧めるにはどうしたらいいですか」と聞かれることがありますが、私は必ず、「無理にやらせようとしない方がいいですよ」とお答えしています。
というのも、自分が瞑想を続けていれば自分の心の在り方がしっかりと形になって、言葉を介さずとも穏やかな心が周りに伝わっていくからです。それと同じで、怒鳴り散らす人、イライラしている人には平常心で対応することが重要です。怒りが噴出しているときは何を言ってもその人の心に届かないものです。そんな状態の人に正論でねじ伏せようとしても、怒りは増大していくだけです。自分の間違いを知ることで怒りが増幅することも少なくありません。
もうひとつの方法は、自分の思考と感情、体の感覚を3つに分ける三段階分析法です。これは、イギリスで開発されたマインドフルネス・プログラムの一部を私がよりシンプルにアレンジしたものです。たとえば、「こんなに面倒くさい人がいる。嫌だな」というのが思考で、感情としては嫌悪感、体の感覚としては胸がぎゅっとしたり、血の気が引いたりしている。このように、思考と感情と体感という3つのレベルで、今の自分自身に起こっている反応を観察するんです。そうすることで、自分の状態を冷静に客観視することができて、相手の感情に巻き込まれることが減っていくことが期待されます。
私たちの脳には「ミラーニューロン」という神経細胞が存在していて、相手の感情を受け取って自分のことのように感じる機能を持っています。ですから、怒っている人と対峙すると、こちら側も相手と同じ感情を持ちやすくなります。そこで、いったん客観的に自分を見る。そうすると相手のネガティブな感情は不思議と軽減されてゆくものです。まるで自分を通して、後ろにポーンと抜けていくような。野に放たれるというか(笑)。合気道の例えがわかりやすいかと思いますが、自分に向けられた攻撃的なエネルギーを上手にかわしてあげることで、相手のネガティブ感情はどこかに抜けていってしまうイメージです。
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ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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