移動式のお寺やオンライン座禅を主宰する禅寺の副住職が考える「現代社会に必要なこと」

 移動式のお寺やオンライン座禅を主宰する禅寺の副住職が考える「現代社会に必要なこと」
伊藤東凌さん

誰でも気軽に始められる“週はじめの新習慣”として「月曜瞑想」を考案した京都の禅寺・両足院の副住職、伊藤東凌さん。国内外での瞑想指導のほか、最新テクノロジーと禅を組み合わせた活動「是是プロジェクト」を主宰するなど、瞑想の魅力を広めるために多角的な活動を行っています。著書「月曜瞑想」についてお話を聞いた前回に続き、今回はその独特なウェルビーイング活動についてお伺いしました。

広告

自分の感性を蘇らせる場所としてのお寺に

――オンライン座禅や移動式のお寺の開発など、これまでの常識にとらわれない斬新なプロジェクトを発案していらっしゃいますが、そういったアイデアはどんな経緯で生まれてきたのでしょうか?

伊藤さん:まずは、第1フェーズとしてお寺に来てもらうという活動がありました。広い境内ならまだしも、普通はお参りしたら帰るという感じで、映画を観るように2時間、そこで過ごすというのはあまり想像がつかないですよね。だからこそ、それができるお寺を作りたいと考えました。座禅などを体験して、それを自分で振り返る時間があり、食やアート鑑賞などもできる。自分の感性を蘇らせる場所としてのお寺です。

それに加えて、ちゃんと人が見えるお寺でも在りたい。有名な寺院をお参りしてもお坊さんに会うというイメージってないと思うんです。でも、今後はそういったことが必要になってくるなと考え、そういったお寺を作ってきました。

でも、やっぱりお寺にお参りに行くというのは非日常。ですから、第2フェーズとして日常の中に禅を届けるということを始めました。職場でパソコンに向かっているとイライラしてくる、悪いスイッチが入るという声が大きかったので、現場でできる禅や瞑想、それを広めるために企業を訪問したり、セミナーを開催したりという活動ですね。

――そういった中から、コロナ禍となった2020年にはオンライン坐禅会「雲是UnXe」を立ち上げたほか、禅瞑想アプリ「InTrip」もリリース。オンラインでの活動も始まりました。

伊藤さん:お寺に来ていただいたり、訪問したりというのは時間も限られるので、オンラインにシフトしていく必要があるなというのは、2018年ごろから考えていたことでした。当時は、オフラインでやっていることをどうオンラインで繋げていくかという発想でしかなかったのですが、コロナ禍になり考えていたことを形にするチャンスだなと。準備していたものを出し惜しみぜず、リリースすることになりました。

オンラインはオフラインの延長線ではないことへの気付き

――オンラインでの活動で新たな発見などはありましたか。

伊藤さん:オフラインの延長線、それをオンライン化したら価値があるだろうという考え方でスタートしたのですが、始めてすぐに「これは延長線上ではないな」ということに気付きました。オフラインとオンライン、それぞれに価値があり、全く別のところで考えるべきだと。自分のなかでのすみ分け、価値の分け方ができるようになりました。

――具体的には、どういったことでしょうか。

伊藤さん:オフラインは、言ってしまうと感性にフォーカスしていたんですよね。鳥の声や風が木を揺らす音。そういった自然との一体感や調和を取り戻す時間でした。でも、オンラインは自分の思考の枠を広げる。可能性を調整するという時間です。

オンラインは自宅からアクセスする方が多く、ある種の守られた空間で自分らしさを探求しやすんですね。オフラインは、お寺という環境に自分が飛び込んでいくイメージですが、オンラインは自分が環境を作るというか。こちらが問いかけを出して、それに対して自問自答する。考えてもらうという方向になりました。

私自身も、オフラインの座禅だと表情や緊張感を見て、微妙にニュアンスを変えていたりしていたのですが、オンラインでは雰囲気で伝えられない分、より誤解がないような言葉やガイダンスをしなくてはいけないという発見がありました。

難しさもありますが、手軽さという部分ではオンラインは瞑想を始める入口にぴったりだなとも思います。自分の好きなタイミングで始められますし、コメントや質問も簡単にできる。好きなときにインタラクションができるというのは、オフラインよりも本音で付き合えるなと思うことがあります。

“質”を取り戻す集落としての寺

――主宰されている「是是プロジェクト」では、田園、食、庭園、建築、サウナなどを再構築して“質”を取り戻す集落としての寺をつくる、とあります。

伊藤さん:禅寺の本山の正式な様式として「七堂伽藍」というものがあります。七堂とは、法堂(はっとう)・仏殿・僧堂・庫院(くいん)・東司(とうす)・三門・浴室。庫院とは台所、東司とは便所のことです。当時の浴室は蒸し風呂なので、いわゆるサウナですね。七堂伽藍の考えを現代に反映させて考えたとき、衣食住の要素がある"寺"という場を提供することは、ある意味で「伝統を取り戻す」ことにも通じるなと思いました。

座禅や瞑想はまずリラックスすることが大切だと考えています。でも、お寺でお坊さんに「力を抜いてください」と言われても余計に緊張してしまいますよね。どうやったら力を抜いてもらえるかなとずっと考えていたんですけど、サウナに入って水風呂、そのあと外気浴をしているときって、皆さんトローンととろけているじゃないですか。あの状態で座禅したら、完全に脱力した状態から入れるのに、と思ったんです。それがきっかけで、"集落としての寺"の中にサウナがあってもいいと考えたんですね。両足院はいち早くお寺ヨガを取り入れた寺院でもあり、ヨガをやってからサウナ、座禅というものもやっています。座禅してからサウナに入ると、体温の変化にも気付きやすいんですよ。とは言いつつ、まだサウナに関しては計画中…という感じですが。

「是是プロジェクト」では他にも、精進料理をきっかけに味覚嗅覚をリセットする緒是(しょぜ)や、アートの力によって自我の忘却を目指す忘是(もうぜ)など、様々なアプローチで現代人に禅の本質である「何を是とするか」を自分自身に問う、そんな場を提供することを目指しています。

自分を優しく見守る時間を瞑想で取り入れてほしい

――最後に改めて、瞑想の必要性について伊藤さんの考えをお聞かせください。

伊藤さん:人間が本来持っている心の豊かさを取り戻してほしいという想いを強く持っています。自分の可能性を信じぬいて生きていく、ということを自分は大事なキーワードにしているのですが、瞑想というのは、そういった自分の可能性を思い出せる時間。脳も心も本来の機能を取り戻す時間です。自分のことを優しく見守れるようになったら、自分にもまだ可能性があるんだと感じられるようになると思います。

瞑想は自分と向き合うというよりも、自分を優しく見守るということ。瞑想というのは、自分に対して一番優しくなれる時間であってほしい。集中力競争ではない、自分を優しく見守る時間を瞑想で取り入れてみてください。

お話を伺ったのは…伊藤東凌さん

伊藤東凌
伊藤東凌さん

臨済宗建仁寺派 両足院副住職。 両足院で生まれ育ち、建仁寺境内にある専門道場にて3年間の修業を経て僧侶となる。 瞑想の魅力を世の中に広めるべく、企業でのセミナー実施、禅・瞑想アプリ「InTrip」の開発・制作、海外での瞑想指導などにも力を入れており、米国Facebook本社へ招かれるなど数多くの実績を持つ。著書に『心と頭が軽くなる 週はじめの新習慣 月曜瞑想』(アスコム)がある。

広告

AUTHOR

ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

伊藤東凌