師弟関係とは何か|ヨガの先生と賢く付き合うための11の実践的なアドバイス
有意義なヨガクラスになるかどうかは、先生との接し方に大きく左右される。先生との接し方、それはすなわち「生徒としての在り方」である。クラスに参加すれば、誰でも生徒になれると思われているが、実際はそうとは限らない。国際的に知られる瞑想とヨガ哲学の指導者であるサリー・ケンプトンは「生徒になることにもスキルが必要」と話す。ヨガティーチャーを目指す人も、ヨガを深めようと決めた人も、またヨガティーチャーとしてのふるまいに悩む人も…誰かに師事する/誰かを指導することの「スキル」について、今一度考えてみてほしい。
生徒に求められるスキルとは
20代のころ、私は古い流派に属する中国人の先生から太極拳を学んだことがある。中国国民党革命委員会の元将官であった先生は、私がそれまで経験したことのない次元の献身的な姿勢を求めた。毎朝6時にイースト・ハリウッドの公園で集まり、そこで先生は私たちを教え、しごき、情け容赦なく批判した。私は1年以上の間、日々の先生との練習以外にも、1日少なくとも4、5回は1人で一通りの型を通して練習した。純粋な武道式で教えていた先生は、決して褒めはしなかった。それどころか、太極拳を学ぶ姿勢に真剣味が足りないと、定期的に叱責された。その言葉は身に突き刺さるようだったが、おかげで厳しい練習を続けることができた。先生と過ごした時間は、自分の体やエネルギーとの関わり合い方を変えた。けれども、先生から主に学んだことは、生徒であることの意味合いについてだった。
表面上は、クラスに参加すれば誰でも生徒になることができるように思われる。しかし驚くべきことに、必ずしもそうとは限らない。生徒になることは、スキルを要するものなのだ。毎週行われているクラスに気軽に参加するときにも、自分がそこでどんな経験をするのかは、指導をどのように受け入れ、どんな質問をし、どのような態度で先生と接するかに大きく左右される。「あなたは本当に私の先生なのでしょうか?」という生徒の質問に対し、先生が「君は、本当に私の生徒なのだろうか?」と問い返して答えることがあるのはこのためだ。この質問はレトリックではない。師弟関係において、最終的な主導権を握るのは生徒のほうなのだ。生徒になろうという姿勢がない人には、どんな先生も教えることはできない。同時に、しっかりとした志を持つ生徒なら、凡庸な先生からも学ぶことができる。そして、本物の生徒が本物の指導者に出会う、そんなときに生徒の世界に変化が訪れるのだ。
変化する師弟関係
私たちは、師弟関係の模範となるかたちが急激に変わりつつある時代に生きている。伝統的には、師は、数人の熱心な生徒を弟子にとり、彼らを注意深く観察し、厳しく指導した。そして優秀な弟子は、ヨガの教典に挙げられているような、無執着、辛抱強さ、献身的な姿勢、謙虚さ、困難を耐える力などの多くの性質を持っていた。そして何よりも弟子は、少なくともその師のもとで学んでいる間は、師の持つ権威を受け入れていた。その代わり、弟子は知識のみならず、師の持つとらえがたい次元に属するものや、ヨギとして達成したものまで、あらゆる教えを受け取っていたのである。これには何年もの月日がかかることもあった。つまり、師と弟子は、それに必要な期間、そして多くの場合その先もずっとともに過ごすという決意を持っていたのである。しかし、家族の形が変わってきているように、師弟関係の形にも変化が訪れている。一つには、少なくとも西洋では、権威に対する見解が根本的に変わったということがある。最近友人のアナが、彼女の先生とのやりとりについて話してくれた。ある指導に対して疑問をぶつけたところ、その先生はあとで彼女を呼んで、自分の指導に従うことを学ぶべきだと言ったのだという。「そこで言われたことについてしばらく考えているの」と彼女は言った。「ある意味、彼が正しいというのも分かるのよ。ただ、私は何年もプラクティスをしてきていて、自分の内から導かれることがある。それを先生の考え方が違うからといって、無視していいのかしら?」。
友人・アナのように、進んだ民主主義社会に生きる人々は、縦型のヒエラルキーや「服従しなさい」といった感のあるものには、それが何であれ、疑いの目を向ける傾向がある。ヨガの先生をロックスターに仕立て上げる昨今の傾向をもってしても、現代の多くのヨギが、家父長制の伝統にも似た、絶対的な力を持つ先生と謙虚な生徒という関係に違和感を覚えている。私たちはしばしば、先生を自分の少しだけ先を行く仲間だと考えることを好む。とりわけ、ある期間ごとに起こるヨガのスターの「転落」が大々的に報じられると、もっとも尊敬されている先生に対してさえも、自分の持つ力を差し出そうという気持ちになれないのだ。ところが、民主的なヨガクラスにおいてさえも、向上心や自己を委ねるための心の広さ、指導者やその教えに敬意を持つことなど、「生徒であること」に関する古くからの真理の多くは、今でも同じように重要だと考えられている。しかし一方で、厄介な質問を進んですることや、自分自身の反応と調和することも同様に求められているのだ。つまり、現代の師弟関係には矛盾がある。そこで、この状況の中で生徒としてヨガを深めていくための、11の実践的なガイドラインを紹介しよう。そのうちのいくつかは、ヨガの教典や伝統から得た知識であり、その他は、生徒や先生としての、私自身の経験から生まれたものだ。
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