"幸せ"は特別なことじゃない|デンマークで感じた私のささやかな幸せ【私のウェルビーイング】
デンマークで社会人留学
もちろん日本とデンマークでは社会の仕組みが異なりますし、デンマークにはデンマークなりの、自由を選択できる分の責任という厳しさがあることも、今では理解をし始めています。しかし、少なくとも当時の私にとって、人生の中で一旦立ち止まり、大人になっても学んで良い環境があると知ったことは、どこか救われた気持ちにもなりました。なぜなら、素敵な友人、家族、同僚、ありがたい仕事に就いているにも関わらず、社会の”普通”と自分を比べては、足りていない自分に対して居心地の悪さを感じていたからです。30歳を過ぎたから、女性だから、こういう立場だから、などなど。そしてそのような自分に対して、どう折り合いをつけていくかを見出せず、また、こどもと芸術教育に関心がありながらも、二の足を踏んでいる状態でした。
「石橋を叩いて渡る」ということわざがありますが、普段は「石橋を叩いて壊す」私が、橋が無いならと向こう岸までジャンプして渡って来てしまったデンマーク。私にとっては人生の中で必要な時間であったなと今は感じています。
デンマークで見つけた「好き!」
ここからは、学校で実際に暮らしてみて感じた、私が「好き!」と思った体験を少しだけご紹介させてください。
1.歌を歌うこと
私たちは毎日、朝礼の時間に歌を歌います。ホイスコーレソングブックという600曲ほど収録された歌集があり、その中から1曲を選びます。そのほとんどがデンマーク語ですが、中には英語などもあり、国の歌や賛美歌、民謡から最近の曲まで幅広く収録されています。1894年の出版からデンマークではとても人気の本で、聖書に次ぐベストセラーだそうです。私たちはイベントの時はもちろん、夕食後の自由時間にもよく歌を歌いました。みんなで曲をリクエストしながら先生がピアノで、時には生徒のギターやサックスが即興で演奏してくれる時間は、まるで贅沢なカラオケのようでもありました。
またデンマーク人は歌が好きなんだなと感じたのは、替え歌を作ってみんなで歌う慣習があることです。例えば結婚式では、ゲストが新郎新婦について作詞し、ポピュラーな曲に乗せてみんなで歌を歌います。私たちの学校では、お別れパーティーの時に生徒が売店のスタッフへのありがとうの気持ちを作詞していました。
2.毎日使うものをデコレーション
先の歌集には古いカレンダーや包装紙でブックカバーを、食堂で使うマグカップにはシールでオリジナルのデザインを作りました。これらは導入週にワークショップで作成し、みんなの個性豊かな仕上がりに感激していました。もちろん名前を書く代わりでもあるのですが、毎日使う物だからこそ、私らしく愛着を持つようになるエッセンスが詰まっているように感じています。そして私が選択したアートの授業でも、最初の課題が自分の道具箱とスケッチブックの装飾で、これから付き合う自分の相方ができたような気持ちになりました。
「これ好き!」と素直に感じられる習慣があったことは、ささやかで、でも温かい幸せを感じる出来事でした。これからも、私なりにデンマークで感じたことをお届けしていきたいと思います。
AUTHOR
大河内千晶
1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。
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