僕がレンタル彼氏を始めた理由|経験者が語る、不可視化される「男性の生きづらさ」と社会の偏見

 僕がレンタル彼氏を始めた理由|経験者が語る、不可視化される「男性の生きづらさ」と社会の偏見
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東京工業大学で男性学の研究を行っている小埜功貴さんは、大学生時代にレンタル彼氏のアルバイトで学費を稼いでいた過去をもっている。水商売と男性の生きづらさについて、ご自身の経験も踏まえて話を伺った。

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学費のために水商売をするしかなかった

——そもそも「レンタル彼氏」とはどのようなお仕事なのでしょうか。

端的に言いますと、「彼氏」役としてデートする仕事です。お店での食事やゲームセンター、公園での散歩などをすることが一般的ですね。デートにかかる費用は、「彼女」側がレンタル彼氏の分も負担するルールなのですが、「彼女」側に金銭的に余裕のある場合にはテーマパークに行くパターンもあります。

禁止事項も決まっていて、キスや性的な行為はもちろんNGですし、カラオケや個室居酒屋など閉鎖的な空間は、雇っている側としては微妙だけれども、レンタル彼氏側がOKなら、という条件になっていることもあります。

——前編でレンタル彼氏を始めたのは学費を稼ぐためだとおっしゃっていました。

大学進学にあたって、経済的な理由で自分で学費を捻出するしかありませんでした。

最初は塾講師のバイトから始めたのですが、私立大学に進学したので奨学金と合わせても全然足りなくて。人を喜ばせる仕事にも関心があったので結婚式場でのバイトも考えたのですが、時給1000円ちょっとのバイトを増やしたとて足りないので、肉体労働か水商売しか思い浮かばなかったです。

体力がある方ではなかったので、水商売をするしかないと思っていたところ、僕が大学に進学した2015年は、ちょうどレンタル彼氏が世間に知られ始めた頃でもあって。あるときホームページを見ていたら、トップにいる人がジャニーズ好きだと書いていて、自分にもできそうと思ったのと、少し面白そうだなとも感じてレンタル彼氏を始めました。

自分の中にもあった水商売への偏見

——レンタル彼氏をやってて良かったことやしんどかったことはありますか。

良かったことは初対面の人と話すにあたって、人見知りせずスムーズに会話ができるようになったことです。レンタル彼氏は相手の情報を何も知らない状態で話を盛り上げなきゃいけないので、短時間で相手の良いところを見つけて話を盛り上げられるようになりました。研究における面接やインタビューでも活かせていますね。

しんどかったことはいくつかあって。これはレンタル彼氏ならではというより状況的な話ですが、奨学金を借りながら、昼はレンタル彼氏、夜は塾講師のバイトでなんとか学費が賄えている状態だったので、大学に行くためにレンタル彼氏をしているのに、学費を払うためにレンタル彼氏をしなくちゃいけなくて授業に行けないことが何度もありました。

大学の友人は奨学金を借りていても、サークル活動ができたり、趣味を楽しんでいたりという姿を見ていました。日中は大学で勉強して、夕方からバイトしたりサークル活動したり遊びに行ったりするという、イメージしていた大学生の生活を送れないことはつらかったですね。

あと「生涯で一人の人としか交際せず、その人と添い遂げるのが美徳」とロマンティック・ラブ・イデオロギーのような考え方を今でも持っているので、そういう価値観を持っているにもかかわらず、仕事とはいえども色々な女性とデートをすることも違和感を持ち続けていました。それから、水商売への引け目みたいなものもあって……。

——どんなことでしょうか。

当時は「男性の水商売=ホスト」のイメージがあって、チャラいとか、ホストのシステム上、女性がお金を出してくれるかが自分の地位向上と連動するので女性をモノ扱いする人が多いとか、そんな印象を持っていました。

自分の考えとは合わないと思いながらも、学費を払うための選択肢がほかになかったので、やるしかなくて。最初は水商売をしている自分が嫌でしたし、レンタル彼氏をしていることを周囲の人には言えませんでした。

——実際にご自分がレンタル彼氏をしてイメージは変わりましたか。

そうですね。レンタル彼氏のキャストになる人には色々な背景があることを知りました。もちろん興味本位だったり、「女の子とデートするだけでお金がもらえるなんてラッキー!」という考えだったりする人もいないわけではないのですが、自分と同じように学費を稼ぐためとか、夢のためにお金を稼ぎたいとか、コミュニケーション能力を向上させたいとか……そういった理由の人も結構いて。

「デートするだけでお金がもらえるなんて楽」というイメージも持たれがちなのですが、僕は2年半続けていたものの、3か月程度でやめてしまう人がほとんどです。

——なぜ短期間でやめてしまうのですか。

プライベートでデートをするのとは違って、「デートを提供する」というサービス業であって、一般的な接客業よりも気を遣うと感じました。指名がなければ仕事がないので、指名をいただけるかのプレッシャーと収入の不安定さも、長期間続けるにはハードルがあると思います。

レンタル彼氏に期待される「男らしさ」と本当の自分のギャップ

——レンタル彼氏という仕事は「男らしさ」を求められるイメージがあるのですが、その点、小埜さんはつらくなかったのですか。

悩みました。暗いとか重いとか思われると指名に繋がらないので、研修では「ネガティブなことを言わないように」と教わるのですが、素の自分は常にポジティブで明るいような人間ではないんです。

今のパートナーとは心からの愛を感じて一緒にいるのですが、楽しい話だけでなく心の悩みやお金ことといったシビアな話も打ち明けられるからこそ、弱さをひた隠しにしていた当時のつらさが身に染みてわかります。でも、あのときは学費を稼がなきゃいけなかったので、「つらい」と言っている場合ではなくて、自分の本心を押し殺していましたね。

生きづらさ
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——仕事の選択肢にレンタル彼氏があがるということは、それまでの人生で容姿を褒められる経験をされてきていると思うのですが、容姿を褒められて嫌だと思ったことはありませんか。

基本的には褒められることは嬉しいです。ジャニーズが好きで、彼らのようにかっこよくなりたいという気持ちもあって容姿に気を遣ってきてもいるので、そこが評価されて嫌な気分になることはあまりないですね。

でも一度、研究の話をしているのに容姿のことばかりに言及された経験があって、そのときは「僕の話聞いてたのかな?」と疑問が残りました。ジェンダー研究をしているのでルッキズム(容姿差別)のことは学んでいますが、女性から「容姿を褒めてもらっても外側だけ見られているようで嫌」という話を聞いても、実は自分ごとの感覚としてはあまりピンときていなかったのですが……このとき女性が言ってるのはこういうことなのかな?と感じました。

——レンタル彼氏の経験が男性学の研究をすることにも繋がっていますか。

そうですね。レンタル彼氏は大学3年生の途中でやめていて、ジェンダー学に興味を持ったのは大学を卒業してからなので、直接きっかけになったわけではないのですが、小さい頃からの違和感がレンタル彼氏の経験でより鮮明になった感覚はあります。レンタル彼氏の経験がなければ、僕がジェンダーや男性学に興味を持つことはもしかしたら無かったかもしれません。

——学費や生活費のために水商売をする女性の存在は世間で認知されていますが、男性はあまり可視化されていないように感じます。

今でも男子には浪人や上京をさせるけれども、女子には地元の大学にしか行かせない(地元以外に行きたいなら差額は自分で払って)という考えの家庭もありますし、男女の賃金格差もあるので、女性の方が自分で学費や生活費、奨学金の返済費用を稼ぐために水商売をせざるを得ない人は多いかもしれません。

でも男性にも水商売をしながら葛藤している人がいることは知られてほしいです。男らしさの規範から弱音を吐けないことや、男性の方が「好きで水商売をやっている」と見られやすいので、悩みがあっても見えにくくなっている構造があります。水商売どころか、多額の学費や奨学金を返済するための手段として違法行為に加担するような、いわゆる「闇バイト」に手をだしてしまうひともいるんじゃないかなって思います。というのも、もし今の新型コロナや物価高で生活が苦しいようなこのご時世に、僕がまた当時と同じような境遇にあったら少しは考えてしまうくらい、そのくらい当時は経済的な面で精神的に追い詰められていました。

僕自身もでしたが、水商売をしながらも自分の中に偏見があったり、社会からの偏見の目を感じたりしていて、「自分は社会のレールから外れた人間」「家族や友人に知られたら一巻の終わり」と思っている男性もいます。しんどいこともありましたが、レンタル彼氏の経験で得たこともありますし、社会の色眼鏡や偏見が軽減することを願っています。

※前編ではジャニーズファン男性の研究から見えた男性の生きづらさについて話を伺っています。

【プロフィール】

小埜功貴(おの・こうき)

小埜功貴さん
小埜功貴さん(ご本人よりご提供)

1996年生まれ。東京工業大学大学院 博士後期課程。JST次世代研究者挑戦的研究プログラム採択生。RA for Dr. Christopher Hepburn at the University of Southern California. 研究領域は社会学・男性学。男性性によってひた隠しにされる「弱さ」をテーマにメンズリブや男性ジャニーズファンについての研究を行なっている。

Twitter:@KoKi_OnO_

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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