【研究結果が示唆!がん患者に寄り添うヨガの効果】キャンサーケアヨガ代表が語る「ヨガにできること」

 【研究結果が示唆!がん患者に寄り添うヨガの効果】キャンサーケアヨガ代表が語る「ヨガにできること」
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2人に1人ががんになると言われている時代。アメリカをはじめとする世界各国では、がん患者の補完代替医療としてのヨガの研究が進められている。 日本でも、がん患者へのヨガの有効性が議論されつつあるなか、6年前から大阪市立総合医療センターでがん患者を対象にしたヨガクラスを実施している、日本キャンサーケアヨガ協会代表の多田羅理恵さんに、キャンサーケアヨガの試みや効果についてお伺いした。

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ーー多田羅さんは、6年前から大阪市立総合医療センターでがん患者さんを対象にしたヨガをボランティアで始め、病院との研究を経て、1年前から正式に病院の事業としてがん患者さんを対象としたキャンサーケアヨガのクラスを定期開催されています。キャンサーケアヨガとは具体的にどのようなメソッドですか?

多田羅さん:がん患者さん・がんサバイバーさん一人一人の心と身体に寄り添うヨガです。がん患者さん特有の症状や配慮すべき点を学び、注意してポーズを選んでいくことが大切です。

病気を持っていない人でも、生活上のストレスを抱えることは日常でたくさんあると思いますが、特に病気を抱えると、そのストレスから身体的・精神的に想像以上にダメージを受けます。そのダメージ、不安・気分の落ち込み・意欲の低下は呼吸の浅さを加速させるので、ヨガで呼吸を整えて高まった交感神経をオフにし、落ち着きを取り戻す精神面でのサポートの役割があります。またヨガを継続することによって、自分と向き合う時間が増え少しずつポジティブな思考になり、それがさらに治療に向かえるエネルギーとなり、自信がもてるといったことも期待ができると考えています。また、身体的な負担、痛み・食欲・倦怠感・不眠なども身体を動かすことで改善に繋がることも広く知られています。免疫力を高める効果も期待できますし、精神面・身体面の両方からサポートできると考えています。

またピアサポートといって、同じ問題を抱えた方々が語り合いをして互いに支え合う場はがんサロンでも多いのですが、クラス後に時間を設けているのでそういった役割もあります。

ーー多田羅さんがキャンサーケアヨガを始めたきっかけを教えてください

多田羅さん:病院のがんサロンの取組みの一環として始めました。最初は乳がん治療中の方を対象にスタートしました。乳がん患者さんとヨガとの研究は世界中で行われており、一定の効果があるというエビデンスも多数出ています。病院のヨガクラスは抽選になるほど人気で、別の病院からも患者さんに参加したいと言われましたし、講演会などに出向いた際は、医療従事者の方の中にもヨガ推奨の方が増えていらっしゃることがわかりました。

ーーキャンサーケアヨガのクラスではどのように点を大切に考えていますか?またどのような点に気を付けて指導されていますか?

多田羅さん:患者さんに寄り添う事。患者さんは病気や治療のことばかり考えがちなので、ヨガの時間はいったん忘れてほしい、ヨガをただ楽しむことをしてもらいたいと思っています。そのため、ごくごく一般的な日常会話も大切にしています。これは医療者ではない、ヨガインストラクターだからこそできる大きな利点だと思っています。

また、全てではないですが患者さんの症状を事前に把握することでレッスン中の声かけに意識を向けています。その日の参加者を見て運動量を調節したり無理そうなポーズを避けたり、私から見て辛そうな方には先に声をかけてクラス中も特に気にするようにもしています。

ーーがんヨガの多くは乳がん患者さん向けのヨガという印象がありますが、多田羅さんのヨガには様々ながん患者さんがいらっしゃると聞きました。これまでどのような方に指導されてきたのでしょうか?

多田羅さん:子宮がんなどの婦人科のがんや胃がん・肺がんなど、一般的ながんです。様々な患者さんが来られるので乳がんヨガの時とも異なりますし、クラスをスタートしてからの内容もどんどんアレンジしますね。大阪市立総合医療センターでは、脳転移・骨転移以外の方を対象としています。

ーー大阪市立総合医療センターでの研究結果はいかがでしたか?

多田羅さん:ヨガを行った人の中では、不安・倦怠感の改善傾向がみられました。この時はヨガをした人としていない人に分けていないので厳密には言えませんが、一定の効果が認められたため事業として行うことになりました。現在は休止していますが、病院の事業となってからは1ヶ月に2回の定期開催をしています。

■キャンサーケアヨガに2週間に1回(6回)参加した取り組みレポート

※ヨガ経験のないがん治療中の23名の方が参加

資料1
資料2
資料3
大阪市立総合医療センターでの キャンサーケアヨガのレポート。継続的な参加や安心できる環境を整えることで、気持ちや症状の改善が得られる可能性がある。

ーー結果や実際のクラスを受け、医療関係者の方々の反応はいかがですか?

多田羅さん:主治医の先生や看護師さん達も積極的にヨガを勧めてくださっています。大阪市立総合医療センターでのヨガクラスでは看護師にもクラスに入ってもらっているので状況もわかりますし、ヨガの良さを感じていただけているように思います。患者さんから主治医の先生に「ヨガを始めてむくみを感じにくくなった」など話してくれているそうです。

ーークラスを続けていく上で苦労や、今後必要だと感じることはありますか?

多田羅さん:病院内でクラスを続けていくには、医療者の協力が不可欠ですね。協力がなければできません。今後課題だと感じることは、院内で行う場合は病院の診療報酬がないのでスタッフさんの業務負担の問題が生じやすいことです。良いとわかっていても多くの病院にとってはそこが負担になりやすいと言えると思います。しかし治療を受けている患者さんにはとても必要な補完代替医療だと私は感じています。

各地のインストラクターがたとえ少人数でもオンラインや公民館でキャンサーケアヨガを伝えていき、それが広がりを見せればと願っています。続けていればどこかの病院で声がかかるかもしれないですよね。でも、やっていないとその話しも来ないので。

ーー実際にクラスを受けられた患者さんのお声や変化について感じることはありますか?

多田羅さん:最初に会ったときの印象はすごくバリアを張って様子を伺う感じ。無口・暗い印象が強くて、これは6年間ずっと一緒です。ですが、回数を重ねて自分を知ってもらううちに少しずつ会話をしてくれて、表情もどんどん変わっていきます。それが分かると距離も縮まります。

実際にあった例をあげるとすれば、病気の状態が悪くなくても印象では全くそうでない方もいて。私はとても気になるのに看護師さんには「検査データは良いので大丈夫です!」と言われた方がいましたが、「確認したところその方はメンタルの点数が非常に悪いです、言われなかったら分からなかったです」と言われたことがあります。医療者側がよく見るのは検査データ、そして私たちが見るのはその人。この2つが一緒になればすごく有効的な治療や接し方が出来るのではと思った経験です。その方は別人のようによくお話されるようになりました!インストラクターとしてはクラスに入っていきやすい雰囲気を作ることも大切ですね。

キャンサーケアヨガ
実際のレッスンの様子

●参加者の声

「血の巡りがよくなり、すっきりした」

「病気で落ち込み気味だったが、前向きな気持ちになれた」

「とにかくヨガの癒やしの空間が好き」

「呼吸を通して自分を知る機会になった」

「同じ病気の人と一緒だから安心して動ける」

ーーヨガインストラクターのクラスに癌患者さんが来られることもあると思います。指導者である、ヨガインストラクターが気を付けるべきことはありますか?

多田羅さん:ヨガは治療ではないので、そこを患者さんに誤解されないように気を付けるべきだと思います。その人の病気や治療などに入り込まないこと、聞かない・何かしようとしない。なぜなら私たちができることはそこにないからです。インストラクターとしてできることは、必要な病気や治療の情報をレッスン前のアンケートで知っておいた上でレッスン内容を考え、配慮する寄り添いが大切だと思います。その人にリフレッシュや癒しの時間を提供する事に徹し、病気を忘れてしまえる時間を作ることが仕事だと思っています。

ーー今後の展開をお教えください

多田羅さん:オンラインレッスンの実施とキャンサーケアヨガインストラクターの養成を考えています。病院内で受講可能になればそれは一番良いですが、体調や都合によってオンラインでも受けられるようにすることが望ましいと思っています。その一環としてYouTubeも始めました。それから、私一人で出来る範囲はどうしても限られます。がんヨガクラスができるインストラクターが必要なので、協会を立ち上げて知識を得てもらい活躍の場を広げて患者さんへの提供枠も増やしたいです。

今は2人に1人ががんになる時代で、そして医療の進歩で寿命も延びている現状がありますよね。ゆくゆくは病気になっても治療と並行して楽しめるヨガがあり、治療後少し後遺症などのハンディがあっても続けられるヨガがあるように、この取り組みが全国に広まり病気になっても前向きに生きていける社会になるよう広めていきたいです。

●プロフィール:多田羅理恵さん

理恵先生

日本キャンサーケアヨガ協会代表、ココハナヨガ主催。2010年にヨガインストラクターとなりココハナヨガを立ち上げる。インストラクター養成スクールでの3年の指導歴あり。2015年から大阪市立総合医療センターで乳がん患者さんを対象にしたヨガレッスンを始める。2020年に病院との研究を行った後、現在は病院の事業としてキャンサーケアヨガを定期開催している。 医療従事者が集まる講演会や患者会などで基調講演やヨガレッスンの経験も多数あり。

キャンサーケアヨガInstagram

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小野田貴代

小野田貴代

ヨガインストラクター・ベビーマッサージセラピスト。学生時代にヨガに出会い、ヨガインストラクター養成講師を経て現在はオンラインを中心に活動。誰もが取り組みやすい、日常に活かすヨガを幅広く伝えている。CM等のメディア監修や健康コラム執筆、 FMラジオパーソナリティとしても活動。初心者から自分のペースで楽しめる「たかヨガ」もYouTubeで配信中。



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