【格闘技ドクターが解説】回数をこなすだけじゃダメ?「何度練習しても上達しない」本当の理由

 【格闘技ドクターが解説】回数をこなすだけじゃダメ?「何度練習しても上達しない」本当の理由
Adobe Stock
広告

学習における2つのシステム

まず学習には2つのシステムがあることを理解しておきましょう。ひとつは「言語化できる学習」、もうひとつは「言語化できない学習」です。言語化できる学習は例えば「古文を読めるようになる」「英語の長文を理解する」といったもの。こうした言葉で説明できる学習は突然できるようになることはありません、「覚える」という過程を踏み、正しい記憶の積み重ねによって上達します。一方の言語化できない学習は、「スマホの操作スピードが上がった」「新しい車をいつの間にか違和感なく運転していた」「自転車にいつの間にか上手に乗れるようになった」というようなものです。スポーツの技、運転技術、演奏技術などの言葉で説明できない運動学習は、「ふと気づいたらできるようになっていた」ことが多いのです。その理由は「運動学習は潜在意識化で進むため、顕在意識で捉えにくい」という性質があるからです。

「小脳で修正する時間」を確保する練習が上達の鍵

運動が学習されるうえで鍵となるのが小脳です。意図的な運動は「脳の前頭前野で想起された運動イメージ」からスタートし、その情報が高次運動野から一次運動野に送られて筋肉が収縮し運動が遂行されることをすでにお伝えしました。実際に運動を行ってみると、体の軸がブレたり、思ったより脚が上がらなかったり、ボールのコースがズレたりして、脳で想起した運動イメージと、実際に行われた運動の間に誤差が生じるものです。前頭前野から一次運動野を経て、筋肉群に運動指令が行く過程で、小脳にも運動の情報が送られるのですが、小脳は「今から行う運動計画の情報」と「実際に行った運動の情報」を比較します。間違った運動指令を抑え込み、まるで引き算をするかのように誤差を自動的に修正してくれるのです。

脳
運動が学習される上で鍵となるのは「小脳」photo by Adobe stock

小脳が動きの誤差を比較し、修正するにはある程度の時間が必要になります。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のシャドメア博士たちは、「目標に向かって腕を伸ばすときに邪魔する力が加わっても、動きを修正して腕を伸ばす」という運動のずれを修正する実験を行いました。その際、「4秒の休み」を入れた場合と「14秒の休み」を入れた場合、14秒の群のほうが早く上達したという実験結果が得られたのです。(これは14秒がベストという意味ではなく、14秒のほうが4秒より早く上達した、という意味です)。つまり上達を目指すなら休みなくフォームを繰り返す練習ではなく、「修正に必要な時間を小脳に与え、1回ごとの精度を上げる練習」を重ねることが大切だとわかります。

※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。

広告



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

脳