ありのままの自分を受け入れ愛するために|専門家が推奨「セルフ・コンパッション」3つのやり方
ルースが教えてくれた特別なマジックのおかげで、その夏ふらりと店を訪れた悲しみと恐れと不安でいっぱいの少年に新たな道が開かれた、と言うと詩的に聞こえるかもしれない。いまや脳神経外科の教授であり、スタンフォード大学の「思いやりと利他主義の研究教育センター」創設者兼ディレクターとなったドティは、子供の頃にルースが与えてくれた教訓には科学的な裏付けがある、と語る。
事実、瞑想やセルフ・アファメーションの実践を介して行うことの多いコンパッション・トレーニングや思いやりが、どのように健康問題を改善し、社会的な絆を強化するのかを検討する新たな研究分野が存在する。科学者たちは心臓モニター、脳スキャン、血液検査、心理調査を駆使することにより、私たち(自分または他人)が苦しみを認め、思いやりと愛情をもってそれに対処するときに、体や心で何が起きているかを把握できるようになった。最近の研究によると、人間は、特に自分自身に対して思いやりを持つと、心拍変動(心拍と心拍の間隔の変動)が大きくなり、ストレス時に自分を落ち着かせる能力が向上するという。
また、2015年にトラウマティック・ストレス学会の学術誌で発表された研究では、イラクとアフガニスタンに出征した退役軍人のうち、セルフ・コンパッション尺度(自分に向ける思いやりが高いか低いかを識別する質問調査)で高い値を得た人はP T S Dの発症率や自殺傾向が低いことがわかった。さらに2016年に米国糖尿病学会が発表した研究では、糖尿病患者を対象に 8 週間のセルフ・コンパッション・トレーニングを実施したところ、血糖値の安定がみられたという。ほかにも数え切れないほどの研究で、セルフ・コンパッションがうつ、不安、ストレスを緩和し、幸福感や免疫機能を改善するという見方が示されている。
テキサス州立大学オースティン校の教育心理学部准教授で『マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック』の共著者であるクリスティン・ネフ博士は、セルフ・コンパッションはすべての人に生来備わっている強力な対処メカニズムであると述べている。ネフはこのテーマについて10年以上研究しており、臨床研究で一般的に使用されているセルフ・コンパッション尺度の開発者でもある。「戦闘地にいる、特別な支援が必要な子供を育てている、ガンの治療をしている、離婚経験があるなど、さまざまなケースにおいてセルフ・コンパッションがそれを乗り越える力をもたらすことを、数多くの研究が裏付けています」と彼女は言う。なぜなら生理機能に働きかけるからだとドティは指摘する。「瞑想などを通じて思いやりの実践をすると、迷走神経が刺激されます。これは脳幹と主要な臓器、特に心臓との間で伝達をやり取りする高速道路のようなものです」
迷走神経は、感情に影響を及ぼす2つの主なシステム、副交感神経系(安静と消化モード時に優位になる)と交感神経系(闘争、逃走、凍結メカニズム)を刺激するため、思いやりの実践によって副交感神経系が優位になりやすくなる。副交感神経系が優位のとき、私たちは落ち着いてリラックスでき、脳が最高の状態で機能するようになる。血圧と心拍数が下がり、免疫力もアップする。逆に交感神経系が優位になると、血圧と心拍数が増加し、普段よりも脳の働きが鈍くなり、ストレスホルモン(コルチゾール、エピネフリン、ノルエピネフリンなど)や炎症性タンパク質(疾患の発症に関連する)が血流に放出される。
私たちはその2つの神経系を素早く切り替えているが、その活動を反映する心拍変動が大きいときは副交感神経系が優位になっていると言える、とドティは説明する。彼は2017年に発表されたフロンティア・オブ・パブリックヘルスでの共同執筆論文の中で、思いやりの科学分野における研究やトレーニングの基本的尺度として心拍変動を利用することを推奨している。神経系の切り替えがうまくいっていないときや、闘争・逃走モードが優位になりがちなとき、思いやりの実践は健康な状態に戻るための最良の方法のひとつだとドティは言う。
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