過度に鍛えすぎると危険?理学療法士が語る「女性のシックスパック」がもたらすもの
体を鍛えている人にとっては憧れの「シックスパック」。目に見えて体のラインに変化があらわれるとモチベーションも上がりますね。ですが腹筋を割ることに執着しすぎると、逆に不健康になることも。理学療法士でヨガインストラクターの筆者が解説します。
「シックスパック」とは?
シックスパック。男性は肉体美やたくましさの象徴ですし、女性アスリートや女性モデルの綺麗なシックスパックに憧れることがあるかもしれません。
シックスパックとは、鍛えられた腹直筋(ふくちょくきん)のことです。腹直筋は、胸の中心の胸骨や肋骨から始まって、恥骨までつながっているタテ長の筋肉で、その筋肉を横に分断するように腱が節状についています。これが、腹直筋を鍛えた際にまるで板チョコのようにブロック状に分かれて筋肉の形状が見える秘密です。一般的に「シックスパック」と呼ばれるものがそれです。
平均的には左右4つずつのブロックに分かれていますが、不思議なことに人によって割れ方が違います。左右4つずつでなく3つや5つの人や、左右のブロックが対称でなくズレていたりする場合もあります。つまり必ずしもシックスパックではないのです。エイトパックやセブンパックの人もいます。この分かれ方の明確な理由は分かりませんが、おそらく遺伝的なものだと言われています。
腹筋とは?
腹筋という名前の筋肉は厳密にはありません。正確には4つの筋肉の総称を「腹筋群」といいます。
腹筋群は、表面から順に「腹直筋」「外腹斜筋(がいふくしゃきん)」「内腹斜筋(ないふくしゃきん)」「腹横筋(ふくおうきん)」の4層構造になっていて、その主な作用は以下のようになります。
腹直筋:体幹の屈曲
外腹斜筋:体幹の屈曲と回旋
内腹斜筋:体幹の回旋、腹圧を高める
腹横筋:腹圧を高める
今回注目していく腹直筋は、肋骨と骨盤とを縦にまっすぐつないでいる筋肉で、4つある腹筋の中でも最も外側にあるアウターマッスルです。
腹直筋の働きは体幹の屈曲がメインですが、その他にも、腹圧を高めたり、骨盤を固定したり、仰向けの姿勢から身体を起こしたり、姿勢を保持するなどの役割があります。
さらに、スポーツなどの激しい動作時には体幹のブレを抑える働きにも貢献します。また、内臓を保護する役割も担っています。腹直筋は腹部の外壁となっており大きくパワーのある筋肉ですが、他の3つの腹筋とうまく協力し合いながらこれらの役割を発揮しています。
女性と腹直筋
腹直筋の割れた女性は身近にはあまり見かけないかもしれないですが、男性より女性の方が腹直筋が鍛えにくいという訳ではありません。マラソン選手や陸上選手で、男性並みに腹筋が割れている女性アスリートもたくさんいますよね。時々上級者向けのヨガクラスでも見かけることがあります。
ただ、女性は全体的に男性より筋量自体が少ないので、鍛えても腹直筋の厚さ自体が男性ほどありません。また、お腹周りに付いている皮下脂肪の量も男性より多いため、腹直筋が浮き出てくるまで脂肪を減らすのがやはり難しいのです。男性のように女性も鍛えることは可能ですが、目に見える結果は男性ほどは現れにくいです。体脂肪が10%を切るくらいでないと、腹直筋はなかなか表面に出てきません。女性の場合それは生理学的に危険な状態でもあるので、私はお勧めしません。
激しいトレーニングを継続して行う女性アスリートは、「エネルギー不足」「運動性無月経」「骨粗しょう症」という3つの健康問題を有することが多く、これらは「女性アスリートの三主徴」(Female Athlete Triad ( FAT) )と呼ばれています。アメリカスポーツ医学会で発表されました。
「エネルギー不足」とは、摂取エネルギーと運動消費エネルギーとの差で、日常生活に利用可能なエネルギーのことを指します。これが少ない状態が続くと「運動性無月経」や「骨粗しょう症」を引き起こし、健康状態を害する可能性があると言われています。
異常なほどヨガをストイックに継続している女性や、あわせて極端な食事制限をしている女性も当てはまるのではないでしょうか。
最後に
腹直筋が割れたシックスパック。男性のシックスパックはやはりセクシーで魅力的ですし、女性でもアスリートやモデルの綺麗なシックスパックを見ると同じ女性として憧れて目指したくなるかもしれません。
でもその前に、健康であることが最も大切です。ストイックにヨガに夢中になってしまっていませんか?同時に極端な食事制限をしていませんか?一度自身のヨガライフを見つめ直して、ヨガで心身共に健康的な美しさを目指していきましょう。
参考文献:
石井直方「トレーニング・メソッド」株式会社ベースボールマガジン社,2009
早稲田大学「女性アスリートのコンディショニングと栄養」 https://www.waseda.jp/prj-female-ath/
ライター/堀川ゆき
理学療法士。ヨガ・ピラティス講師。抗加齢指導士。モデルやレポーターとして活動中ヨガと出会い、2006年にRYT200を取得。その後、健康や予防医療に関心を持ち、理学療法士国家資格を取得し、慶應義塾大学大学院医学部に進学。現在大学病院やスポーツ整形外科クリニックで、運動機能回復のためのリハビリ治療に携わる。RYT200解剖学講師も務める。
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