身体機能の回復以上にヨガで目指すものとは|病院を飛び出したふたりの医師の挑戦
国境を超えた草の根活動を続け、アクセシブルなヨガを広げたい
――現在は医療や福祉関連など様々な場所でヨガを指導していますが、活動を広げるうえで「壁」を感じたことはありますか?
輝基:最初は壁があると思っていなくて、それが甘かった。互いに面識のある医療機関にアプローチする分には、予め信頼関係があるので話はスムーズなんですが……。面識のない高齢者施設や障害者施設にアプローチしたときの反応の悪さといったら(笑)。メールの返信がないこともしばしば。
陽子:ドクターが健康にいいものを、なぜわざわざボランティアで教えるのか。収益を目的としていないスタンスが逆に不信感を呼び、何度も門前払いを経験しましたよ。その施設でヨガを行った「前例がない」という点が壁になっていると感じました。
輝基:壁を乗り越える方法は、草の根的に活動を続けることでと思います。同時に、ヨガが体を動かすだけの体操と違い包括的に不調を改善するツールであることや、日本では浸透していないフレイルの概念を伝えることも必要だと感じています。
陽子:あとは私たちの知名度を上げること。そのためにはメディアへの露出も増やしていきたいです。
――おふたりは今後、どんな未来を描いていますか?
陽子:日本に限らず世界中の人と協力し、メドケアヨガの原点といえるアクセシブルヨガを広めていきたいですね。すでに走り始めていて、日本代表としてアクセシブルヨガ設立者のJivana Heyman氏からアクセシブルヨガを普及している世界中の医療者やヨガ講師とつなげてもらっています。アメリカ、シンガポール、台湾など幅広く。今年9月にはヨーロッパ代表と面談し、日本とヨーロッパの連携強化について話し合う機会に恵まれました。
輝基:こうした草の根活動を通して世界中の人にリーチアウトし、同時に、日本では来年からアクセシブルヨガとフレイルヨガの指導者養成講座をスタートします。安全な指導に必要な医療知識を学び、一緒に活動してくれる仲間を増やしていきたいです。
ヨガ人口は増え、ヨガスタジオの数も増加しています。一見選択肢が豊かになったように思えますが、それはあくまでも健常者の視点。ヨガスタジオに行けない人にヨガを届けに行くという発想は、体に不自由を抱えた患者と接してきたおふたりならでは。ヨガの扉がより多くの人に開かれた思いがし、「ソーシャルキャピタルを高める」ヨガの新たな役割にも期待が膨らみます。
中野陽子さん
日本麻酔科学会専門医、メドケアヨガ代表。全米ヨガアライアンス認定ヨガインストラクター(E-RYT)資格を取得し、アクセシブルヨガ日本アンバサダーも務める。夫で精神科医の中野輝基さんと二人三脚で、メドケアヨガの活動を進めている。
中野輝基さん
日本精神神経学会、日本老年精神医学会の専門医・指導医、メドケアヨガ共同代表、高齢者アクティビティディレクター。全米ヨガアライアンス認定ヨガインストラクター(RYT200)を取得し、妻の中野陽子さんをサポートしながら病院や各施設でメドケアヨガを指導。
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