健康診断で「有所見」と判定されたらどうする?緊急性や深刻度は?医師が解説

 健康診断で「有所見」と判定されたらどうする?緊急性や深刻度は?医師が解説
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甲斐沼 孟
甲斐沼 孟
2024-12-17

緊急性や深刻度は?健診結果に有所見がある場合の対応について、医師が解説します。

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健康診断での「有所見」とは?

一般的に、企業や会社は、従事している従業員に健康診断を受診させなくてはなりません。

労働安全衛生法第44条によると企業や会社など経営事業主側は、そこで働く従業員に健康診断を実施して健康管理に努める必要があります。

健康診断には、主に「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2つに分類されています。

「特殊健康診断」とは潜水業務や放射線業務などに就いている方々が対象となる特別な健康診断であり、一般の会社員の人が受けるのは「一般健康診断」となります。

一般健康診断にも「雇い入れ時の健康診断」と「1年に1回の健康診断」に分けられています。

通常、法律で定められている1年に1回受ける健康診断における検査項目は、問診、身長、体重、視力・聴力の検査、血圧測定、胸部エックス線検査、尿検査が挙げられます。

従業員の雇い入れ時や社員が35歳以上の年齢になったときには、視力・聴力の検査、血圧測定、胸部エックス線検査、尿検査に追加して、血液検査(肝機能検査、血中脂質検査など)や安静時心電図検査が設けられています。

有所見者とは、健康診断の結果、いずれかの項目で何らかの異常がある人を指します。

厚生労働省は、医師の診断が“異常なし”、または“要精密検査”、“要治療等”のうち、“異常なし”以外の者を有所見者と定義しています。

一般的に健康診断を健診機関やクリニックで行った場合、健診結果の診断区分として、A. 異常なし、B. 軽度異常、C. 要再検査・生活改善、D. 要精密検査・治療、E. 治療中に分類されています。

この5つの診断区分は、公益社団法人日本人間ドック学会が公表している区分であり、通常の場合には、この診断区分をベースとして、それぞれの健診機関が判定区分や指導内容を設定します。

したがって、検査結果が同程度の異常値であっても、健診機関によっては“要再検査”、“要精密検査”というように診断区分が異なるケースがあります。

従業員によって受診する健診機関が異なる場合、健診結果に記載された診断区分だけで、異常所見の有無を適切に判断することは困難である場合もあります。

近年、定期健康診断の有所見率が高まっており、健康に問題を抱える労働者が増加しています。

厚生労働省が発表している2020年度の定期健康診断結果報告によると、有所見率は長期的に見て年々右肩上がりになっています。

健康診断で「有所見」と判定されたらどうする?

健康診断で「有所見」といっても、様々な項目がありますが、例えば、赤血球の数値が基準値よりも高い場合と低い場合が想定されます。

赤血球が基準値よりも低くなる場合には、「貧血」を疑います。

赤血球の数値が基準値を下回ると、貧血の症状が現れることがあり、貧血という病気は、赤血球やヘモグロビンの減少により、体内の酸素運搬能力が低下する状態を指しています。

貧血の症状には、ふらつき、皮膚や爪の色が薄くなるなどを含めて多彩であり、その背景には子宮筋腫などに伴う鉄欠乏性貧血や再生不良性貧血、胃切除後の巨赤芽球性貧血などさまざまな原因疾患の存在が考えられます。

特に、鉄欠乏性貧血は、体内の鉄分が不足することで赤血球中に含まれるヘモグロビンが作成できなくなることで引き起こされる病気であり、貧血の中で最も疫学的な頻度が高い疾患として知られています。

常日頃から疲れやすい場合には、貧血に伴って酸素運搬能力が低下するため、体内の細胞が必要とする酸素の供給が不十分になっている可能性が考えられます。

貧血になると、酸素の運搬能力が低下するため、通常よりも少ない運動量で息切れが起こることがありますし、脳への酸素供給が不足するため、めまいや頭痛、失神などの症状が現れることがあります。

一方で、赤血球が基準値よりも高くなる際には、「多血症」を疑うことになります。

多血症とは、血液中の赤血球の数が通常よりも多くなる病気です。

通常、人間の血液中の赤血球の数は一定の範囲内に収まっていますが、多血症ではその範囲を超えてしまいます。

この状態になると、血液がどろどろになり、心臓や肺などの臓器に負担がかかり、様々な症状が現れることがあります。

多血症の原因は様々で、一部は遺伝的な要因による場合もあります。

喫煙は多血症の原因となることがあり、タバコに含まれる有害物質が、赤血球を増やす働きを持つ「エリスロポエチン」の分泌を促進し、多血症を引き起こすことがあります。

また、喫煙により、体内に含まれる酸素の量が減少し、肺の機能が低下する結果、酸素不足が起こり、骨髄に働きかけて、血球の生成を促進するため、喫煙者に多血症が発症する可能性が高くなると考えられています。

また、睡眠時無呼吸症候群が慢性的に進行すると、体内の酸素不足が慢性的に続き、骨髄で赤血球を増やす「エリスロポエチン」の分泌が亢進し、多血症を引き起こすことがあります。

エリスロポエチン産生腫瘍は、腎臓が作り出すホルモン「エリスロポエチン」を過剰に産生する腫瘍で、腎臓がんや肝臓がん、脳腫瘍など、さまざまながんに起因することがあります。

これらのがん細胞から分泌されるエリスロポエチンが、体内の赤血球の生成を促進し、多血症を引き起こすことがあり、この場合には、がん自体の治療とともに、多血症の治療に取り組むことが重要です。

多血症の症状は、人によって異なる場合がありますし、初期段階ではほとんど症状が現れず、病気に気づかずにいることがあるため、定期的な健康診断を受けることが大切です。

全般的に、有所見率の割合が増加している現代では、業務によるストレスや過重な負荷によって、脳血管障害や心臓疾患などを含めて様々な疾病を発症して死亡・障害を起こすリスクがあります

このようなリスクは、従業員とその家族にとってはもちろんのこと、企業にとっても重大な問題です。

病気の早期発見・早期治療を行うためには、職場の産業医による判断を仰ぎつつ、有所見者を適切に振り分けて、保健指導や再検査などの適切な措置を講じることが求められます。

まとめ

法令で定められている健康診断項目には、視力・聴力の検査、血圧測定、胸部エックス線検査、尿検査に追加して、血液検査(肝機能検査、血中脂質検査など)や安静時心電図検査が含まれています。

これらの健診結果に異常所見や有所見がある、あるいは再検査や要精密検査と判定された場合には、指導措置内容に基づいて、二次健康診断・再検査・精密検査の受診を勧奨します。

健診結果に有所見がある場合の対応については、一部で緊急度が高い場合がありますので、その際には職場の産業医や保健師などによって、健康管理上必ず保健指導を行うことが重要です。

健診結果は、健診機関やクリニックによって判定基準・診断区分が異なることがあります。

企業や会社が、有所見者を適切に振り分けるには、健康診断の判定基準を統一化する以外にも、二次健康診断や再検査の受診結果の確認、産業医の意見を仰ぐことなどが重要な取り組みとなります。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

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甲斐沼 孟

甲斐沼 孟

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。



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