ボーダレスに働き、感性を磨き、よりよい言葉を選ぶ。 翻訳家・金光英実さんの自由な選択

 ボーダレスに働き、感性を磨き、よりよい言葉を選ぶ。 翻訳家・金光英実さんの自由な選択
金光英実さんご提供
腰塚安菜
腰塚安菜
2024-02-28
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kanemitsu friend
香港の友人との懇親会

「翻訳家生活のリアル」を表し、広めるためのSNS

ーーXで発信されていますが、渡航先や地元での写真から、お酒や食事を囲む時間を大事にしているとも感じました。いわゆる夜の集いのような、リアルな交際の場の経験知(値)が少ないデジタルネイティブ世代や働く女性にも、何かヒントをいただけないでしょうか。

金光さん:そうですね。例えば夜の集いは楽しいだけじゃなく、お酒や食事を囲んでいろんな人と交際・交流していると、新しい言葉も得られます。

得られた人脈を活かして、出会った研究家や、研究者など詳しい方に連絡して「これはどういう意味ですか?」と後日聞いたりもします。そういった意味で、仕事に直接結びつかなくても、翻訳者にとっても、その後につながる人脈はとても大事です。

だから、私は人との交際をすごく大事にしていますね。

ーー自分の考えや行動姿勢をSNSで発信していくことに意味はありますでしょうか。

金光さん:SNSでは「翻訳者ってどんな生活をしているの?」と知りたい人や、興味を持ってくれる人に向けて発信したいというのが強い動機です。

それから、私の写真で「韓国の今」を知りたい人や、翻訳者を志している人に向けて。情報が溢れすぎている中で、少しでも参考にしてもらえる発信をと心がけています。

翻訳者って「ずっと家の中で過ごしている」というイメージも矯正して、つまらない毎日を過ごしているのではなく、歩き回ったり交流したりしているんだということも知ってもらいたいですね。

SNSへの過集中は、仕事中毒と同じ。デジタルなしでも過ごせる時間と場所を作ろう

ーー最後に、デジタル社会ならではの生きづらさも抱える若者に、金光さんからアドバイスやメッセージをいただけないでしょうか。

金光さん:デジタルやデジタル社会に対して思うこと。私は、前向きな部分もいっぱいあると思います。

例えば私も昔は「外国に暮らしながらフリーライターになりたい」という夢もありましたが、今のようにデジタル社会化していなかったから、煩雑なことも多くて諦めてしまった。今では外国にいても、もっと自由に仕事ができますよね。

ずっとSNSばかりに熱中しているのは、ある意味「仕事中毒(ワーカホリック)」と同じだと思います。仕事ばかりの生活で、うつ病にかかってしまった方も知っています。だから、私が発信で姿勢を見せたい次世代に対しては、別のものに目を向けてほしいなと思います。

私の場合、デジタル無しで過ごす時間は、映画を含めて「楽しすぎて、デジタルを使ってる暇がない、今が楽しいのに発信なんかしてられない!」という瞬間があります。そして友達も、SNSの関係じゃなくて、オフラインで友達になる方が多いです。例えば旅先。飲み会。私がお酒や人と向き合っている時間や場所づくりのチャンスは、誰しもにあると思いますよ。

取材後記

タレントやアーティストのお墨付きがついた紹介で、近年は韓国の作家さん本が日本の書店でも賑わいをみせています。女性向けのエッセイや日本向けのエンタメコンテンツの興隆から、翻訳家の人となりを知りたいと、今回の取材に至りました。

SNS社会に対して世間も自分も後ろ向きな捉え方も多いですが、金光さんはデジタルの恩恵やポジティブな部分に目を向け、自分らしい発信をされていることが新鮮に映りました。

これを読む方の中には、ひとりで行動したり、旅に出たりすることにハードルの高さを感じている方もいるかもしれませんが、日々眺めているデジタルの世界の外に出て、金光さんが大切にするオフラインの交友や交際に踏み出してみると、新たな世界が広がるかもしれません。

金光さんが自分の仕事を心から楽しんでいること、居場所を問わず仕事と日常を楽しむ時間や場所の作り方は、これからの時代を生きる女性にパワーを与えてくれると感じられました。

Profile:金光英実さん

96年よりソウル在住。翻訳家。清泉女子大学スペイン語スペイン文学科卒業後、広告代理店勤務を経て韓国に渡る。字幕作品にドラマ『愛の群像』『王と私』『大風水』『ニューハート』『太陽を抱く月』『雲が描いた月明り』『コッパダン~恋する仲人~』『王の顔』『医師ヨハン』『99億の女』、映画『僕の中のあいつ』『グッバイ・シングル』『エターナル』『完璧な他人』『モクソリ』『ホテルレイク』『ヨコクソン』。訳書にパク・クァンス『ヒトは誰も真実恐怖症』(講談社)、イム・ビョングク『小さな駅を訪ねる韓国ローカル鉄道の旅』(平凡社)、イ・ウヨン『ソウルの中心で真実を叫ぶ』、イ・ジュソン『殺人の品格』(ともに扶桑社)、チョ・チャンイン『グッドライフ』(小学館)。著書に『ためぐち韓国語』(四方田犬彦と共著)、『週末ソウル! 』(吉田友和と共著、ともに平凡社)など。

X:@Hidemi_K

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腰塚安菜

腰塚安菜

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代から一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会で「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員を6年間務めた。 2016年よりSDGs、ESD、教育、文化多様性などをテーマにメディアに寄稿。2018年に気候変動に関する国際会議COP24を現地取材。 2021年以降はアフターコロナの健康や働き方、生活をテーマとした執筆に転向。次の海外取材復活を夢に、地域文化や韓国語・フランス語を学習中。コロナ後から少しずつ始めたヨガ歴は約3年。



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