「子宮がない」約4500人に1人とも言われるロキタンスキー症候群を知っていますか?医師が解説
ロキタンスキー症候群とはどのような病気か、医師が解説します。
ロキタンスキー症候群とはどのような病気か
ロキタンスキー症候群は、子宮と腟の一部もしくは全部が欠損して生まれる先天性の疾患です。
疫学的に、約4500人に1人の女児に発生すると言われていて、発症原因は胎児期における女性内性器へと発達するMüller管の分化異常によると考えられています。子宮や膣の先天的異常はあっても、卵巣や卵管は正常であるため、女性ホルモンの分泌や排卵、乳房の発育などは一般の女性と同様に引き起こされます。
ところが、子宮がないために通常の月経は起こらず、思春期や性徴期になって初潮がこないことで初めて気づかれる例が多いです。本疾患全体の約30%程度に、子宮や膣だけでなく、腎欠損、馬蹄腎、椎体異常、多指症、直腸肛門奇形などの合併症が認められるといわれています。
ロキタンスキー症候群の女性の場合、卵巣機能は正常で排卵自体は認められますが、子宮そのものが存在しないため、造腟術などにより性行為が行えるようになったとしても、現状では自分のお腹(子宮)で胎児を妊娠、あるいは出産することができません。
特別養子縁組により養子を授かる、あるいは代理懐胎や子宮移植といった選択肢もありますが、日本では代理懐胎は許容されておらず、子宮移植に関しても海外での出産例は散見されますが、日本では基本的に実施されておりません。
ロキタンスキー症候群の対処策は?
ロキタンスキー症候群における治療目標は、まずは正常な性生活が営めるように造腟術を施すことです。
造腟術の具体的な手術方法としては、腟の入り口に器具を用いて圧伸するFrank法、大腸を一部切除してそれを膣として用いるRuge法、腹部や大腿部などから採取した皮膚を腟として利用するMcIndoe法や人工真皮を用いるMacIndoe変法など多くの種類があります。
現代の主流な手術内容としては、Davydov法(ダヴィドブ法)という術式であり、膣粘膜の代わりに骨盤腹膜を用いて、腟からのアプローチだけではなく、腹腔鏡を併用して実施されています。
腹膜による代理的な腟形成は、腟入口部の狭窄、腟腔の狭小化といったデメリットが少なく、プロテーゼ挿入期間も少なくて済む利点がありますし、皮膚移植や人工真皮を用いるMcIndoe法に比べて、腟の上皮化までの期間が長期化する欠点も少ない方法です。
術後は、造腟した腟が狭窄して閉じないように配慮するのが最も重要なポイントであり、術後の経過にもよりますが、入院期間はおよそ10日前後であり、退院後約1週間程度かけて安静療養すれば、仕事や日常生活など社会復帰は早期的に可能となります。
治療費用については、入院期間にもよりますが、保険診療が適応される場合、約25万円前後となりますし、高額療養費制度を利用できれば、医療費の払い戻しも一定受けられて、経済的負担が減少します。
まとめ
これまで、生まれつき子宮がないロキタンスキー症候群とはどのような病気か、その対処策などを中心に解説してきました。
生まれつき子宮や膣がないロキタンスキー症候群は、約4500人に1人の割合で発症するとされていて、子宮と腟の全部もしくは一部が欠損している状態です。
卵巣は正常なので、ホルモンは正常に分泌され、通常通り乳房や体毛などの第二次性徴はおきますが、初経や初潮が来ないことで初めて病気に気づくパターンが多いです。
治療の目標は、性生活を正常に送れるようになることであり、主要な手術治療内容としては、腹腔鏡補助下Davydov変法を行うことが一般的です。
心当たりがあれば、先天性子宮・腟欠損を有する患者、その家族、パートナー等のために様々な情報を共有してくれる日本ロキタンスキー(MRKH)症候群研究会、あるいは産婦人科、女性外科など専門医療機関を受診して相談しましょう。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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