【元宝塚娘役】社会問題について発信する花束ゆめさん。ジェンダーついて学んで得た変化とは
宝塚歌劇団の雪組で娘役として活躍していた花束ゆめさん。2022年12月に退団し、現在はダンスやストレッチクラスのインストラクター、役者として活動しています。花束さんのSNSでは、おしゃれなカフェやメイク・ファッションの話のほか、保護犬活動や環境問題、ジェンダー、ヴィーガンなどの発信も行われています。花束さんの発信への思いや社会問題について考えていることなどをお伺いしました。(取材は9月中旬に実施)
自分の頭の中だけでも意見を持つようにしていた
——いつ頃から社会問題に関心を持ち始めたのでしょうか。
決定的なきっかけはないのですが、振り返ってみると中学校・高校の教育方針や過ごし方が影響していると思います。たとえば、社会奉仕活動を記録して提出する宿題があったり、自分の関心を持っているニュースについて新聞をスクラップし、コメントするという時間もあって、社会的なことに目をむけることに繋がりました。
海外のカリキュラムを取り入れている学校でしたので、教科書に沿って知識をインプットするというよりは、ディスカッションしながら色々な事柄の理解を深めていくスタイルの授業でした。たとえば世界史の授業で人種差別について学んだ際には「現代的な見方をするとこうだよね」「今はこういう活動で応援ができる」などの意見交換をします。そういった経験から人種差別に限らず、差別に対して解決したい・解決しなければならないことという意識が自分の中で根づいたのだと思います。
——宝塚在団中は公演とお稽古の連続でとてもお忙しかったと存じます。そのため、何か行動するのは難しかったと思うのですが、退団後には何か活動したいという思いを持っていたのでしょうか。
在団中から映画を見ることは好きでしたので、そのときに携わっている作品に関連するものだけでなく、歴史的な映画や現代的な社会問題を取り扱っている映画を見るようにしていました。その中でLGBTQ+やジェンダー課題を扱った映画を見る機会もあって、関心を持つようにもなりました。
在団中は、自分の言葉で自分の考えを伝える機会はほとんどなかったのですが、舞台を通してお客様にメッセージを届けられる立場として、自分が社会課題に向き合ったときに、どういう意見を持っているか、軸は強く持っていたいという思いがあって。なので誰かに伝えずとも、自分の考えを整理するようにしていました。そうした積み重ねから、退団したらもっと人と直接関わって、社会のためになることを少しずつでも始めたいと思っていました。
「娘役」として生きることは多様な選択の一つだった
——Instagramには「知らない間に女性としてのプレッシャーを自分で自分に課していた」と書かれていました。ジェンダーを学んでご自身の生き方がプラスに変化したとのことですが、どのようにお考えになったのでしょうか。
娘役として舞台に立つ中で、学年が上がるとともに大人っぽさや色気の表現が求められることが増え、等身大の自分よりも大分背伸びをしなければいけないような気がして、それが大きな壁になりました。
ジェンダーやフェミニズムの本を読むようになったのは退団後です。それまでは色々な課題や差別があることは認識していたのですが、自分がどう向き合ったらいいか、何ができるかというところまでは論理的にインプットできていなかったんですね。知識として吸収したときに、世の中には多様な人がいて、多様性を受け入れ合っていくためにも、会話や言葉選びに注意する必要があると学びました。そして、私も多様なうちの一人であって、だからこそもう少し自分を認めてもいいのではないかと思えるようにもなりました。
また社会問題を学んだことによって、今まで私自身の個人的な問題だと思っていたことが、実は社会的な問題でもあり、私だけでなく、他にも多くの方が抱えている悩みだと気づくことができました。
——娘役というお仕事は「女性らしさ」を求められるものであると思いますし、退団後にも娘役としての土台はあると存じますが、現在はどのように整理されたのでしょうか。
今でも難しいと思う部分はあります。退団後も表舞台に立つお仕事をいただいたときは「綺麗でいなきゃ」と思ったり、在団中に気をつけていたことのスイッチが入ったりすることもあって。でも私はお仕事として「娘役」という生き方を選択していて、娘役として研鑽していくことは、多様な生き方の一つとして描いていたビジョンだったのだと思います。
色々な生き方があって、色々な選択肢がある中で、私は綺麗にスキンケアをしたいですし、言葉遣いに気をつけたいと思ったという、ただそれだけのことです。もしかしたら根底には「女性らしいから」そうしたいと思った部分があるかもしれないですが、今は自分の理想や幸せを求めた結果、その選択をしていると捉えています。
おしゃれで楽しい話にスパイスを
——表舞台に立って活動する方が社会問題について発信することのハードルは残っていると思いますが、発信を始めたとき、周囲の反応はいかがでしたか。
動物保護活動に関しては、活動に使うタオルを寄付していただいたり「こういう活動って素敵だよね」と声をかけていただいたり、上級生の方が譲渡会に来てくださったりしました。私はフォロワーが何十万人もいるわけではないので、影響力には限りがありますが、宝塚という自分がいた場所を通じて保護活動の輪が広がってきたことを感じて、すごく嬉しいです。
ジェンダーの発信については「宝塚にいたのにジェンダーの発信をするんだ!」と最初はかなり驚かれました。ふわふわと楽しいイメージを持っていただいていたようで、意外だったのかもしれません。一方で「難しい話題には触れないで生きていきたいと思っていたけれども、よく知っている人の言葉だから、読んでみようと思いました」「自分がモヤモヤしていたことがフェミニズムにリンクしていたことがわかって、少しスッキリしました」という声もいただいて嬉しかったです。ジェンダーのことを専門的に学んでいるファンの方も多くて、共感のお声をいただいたり、私のような立場の人が発信してくれて嬉しいといったご意見もいただきました。
——発信する際に大切にしていることはありますか。
カフェやメイク、宝塚など楽しいお話に興味を持ってフォローしてくださった女性が多いと思うのですが、スパイスのように伝えたいことを散りばめるスタイルで発信をしています。社会問題の話だけになると、重くなってしまいますし、届きにくい社会だと感じるので、良い意味で当たり障りのない感覚を大事にしています。
文章を書いてから1週間かけて何度か読み返して、別の立場の人にとって攻撃されている感覚にならないか、その表現方法は合ってるか、自分が言いたいことが正しく伝わるかどうかは、入念にチェックを重ねてから投稿するようにしています。
意見を持つということは別の意見もあって当然ですし、私の投稿に疑問を持つ方もいらっしゃると思うんですね。DMをいただくこともあるのですが、そういった場合でも丁寧な挨拶やクッションとなる言葉があったうえで、親切に向き合って自分のお考えを伝えてくださるので、それは私もありがたい機会だと感じています。今のところ心ない言葉は少ないですが、続けていたら増える可能性もあるので、言葉の選び方に棘があったり、思いやりを感じないものに関しては、応答しないようにしようとあらかじめ決めています。
——社会問題に関する発信を始めてからご自身の心境の変化はありますか。
私の言葉の選び方にかかわらず、トピック自体が嫌だったりトラウマがあったりする方もいらっしゃるので、発信に対する緊張感は変わらないですね。でも変わらなくていいと思います。慣れてしまったら言葉選びが疎かになったり、自分と違う意見を持つ人の気持ちを想像できなくなってしまったりするのではという恐れもあって。なので投稿を迷うのであれば、一度やめて次週に回すこともあり、そのくらい緊張感を残しています。
変化したことは、何か壁にぶつかっても、自分の言葉が自分のリマインドになり「こういうふうに考えるようにしよう」と思い出せるようになったことです。Instagramを通じて、ジェンダー関連で発信している方との繋がりができたことも嬉しい変化です。
※後編に続きます。
【プロフィール】
花束ゆめ(はなたば・ゆめ)
2017年宝塚歌劇団に入団、雪組に配属。娘役として舞台に立つ。2022年12月に退団。現在はダンスやストレッチクラスのインストラクターのほか、役者として舞台に出演するなど幅広く活動。
■Instagram:@hanataba_yume
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